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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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レイヴィスとルルリラ - フォーティス

オレ、フォーティス・ル・クラウサは18歳の時に父親から家督を継いで、クラウサ領主となった頃の話だ。

丁度、今から30年前になる。

そしてその年に生まれたのがルルリラ・ル・クラウサ―――オレの娘だ。


「え………えぇぇぇぇぇ!?」

ユークリッドが珍しく話の腰を折るように声を上げた。

「どうした?」

「娘?娘って……お義父様の実の娘ですか?」

「ああ。私の実の娘だ………あ、いや、ユークリッド。お前も私の実の娘だよ」

これはちゃんと言っておかないといけない。

しかしユークリッドはこれには特に興味を示さない。

「はい、そういう事を気にしてるのではなくて………それでは結婚されていたのですか?」

「ああ、していた。言っていなかったか?」

「言ってませんよっ!?」

お、おう。こっちには強く興味を示した。ユークリッドが珍しく興奮した様子だ。

「誰ですか!お相手は誰だったんですか!?私の知っている方でしょうか?」

今夜のユークリッドは何かグイグイくるなぁ……相変わらずガードが甘い。色々見えているというのに……父として少し心配になってくる。

「お義父様!」

「ん。ああ。相手か。そうだな……ユークリッドは勿論会ったことは無いが、無関係というわけではない。

名はレイヴィス・リ・ヴィリ。ヴィリ家の長女だったものだ」

ユークリッドが「ヴィリ家…ヴィリ家…」と小声で反芻しながら少し考えて、何かに辿り着いたようだ。またグッと迫ってくる。

「え?え!?えぇぇぇ!?じゃ、じゃあ、グラヴィスはその人の妹ということですか!?」

「そうだぞ。あれ?グラヴィスから聞いていなかったか?」

「き、聞いてないです!初めて知りました!」

「そうか?まあ、隠していたわけではないから特に言う機会が無かっただけだろう。そう言うことだからグラヴィスの事も小さい頃から知っていたわけで――」

「じゃあじゃあ!亡き奥様の妹を今度は妻に迎えようとしていると言う事ですか!?」

瞳孔も鼻の穴も少し開いた顔で詰め寄ってくるユークリッド。今夜は珍しく興奮しているな。何だか近いし……いや、オレは構わないのだけど。

「知っての通り、蒼い血の者は数も少なく交友関係も狭い。そう言うことはよくあることだぞ」

「そ、そういうものですか?」

嘘ではない。個体数も少ないが、各領ごとに蒼い血の者を囲い込む傾向が強い。蒼い血の者同士出会う場が少ないため、兄弟姉妹での婚姻だって多くはないが珍しいわけではない。

ただグラヴィスを妻にという事だが…グラヴィスがあいつに容姿が似ていて気になったというのも勿論否定はしない。しかしある日突然家族を一気に失った事に対する同情やあいつから妹の事をお願いされていたというのが大きい。

この事をわざわざ言っても、ユークリッドはあまり良い反応を示さない気がするので口には出さないようにする。


娘についての話に戻る。

ルルリラ・ル・クラウサはオレの赤髪に少し似てて、赤みの強い桃色髪だったが、前髪に一房だけ薄水色部分がある変わった毛色の髪をしていた。

そして何となくユークリッドとは顔が少し似ている。

しかし性格は真反対――豪快で大雑把な性格をしていた。良くも悪くもオレに似ていた。

とは言え、さっき口を滑らせて益々似ていると言ってしまったのは、ルルリラに似ているという事だ。

どの辺りが似ているかというと……まずは先程言ったように顔の雰囲気が似ている。

そして水の加護を持っていたルルリラは水系の魔法が得意だった。

あとは性格は全然違ったが、物怖じしないところはよく似ている。

引き継いだばかりの領主の勤めに振り回されそうになりながらも、ルルリラが、そしてレイヴィスがいる毎日はとても幸せだった。


入浴中だからなのか、話を聞いて興奮しているか、ユークリッドは白い肌が少し紅潮させてオレの話を聞き入っているようだ。

「――というわけで、話す機会が無かったがルルリラという娘がいたという話だ」

「そうなんですか………ちなみに聞きづらいですが――」

「事故死だ」

「そ……そうですか」

「他領へ親善訪問のための移動中の事故だった。最初は色々疑ったりもしたが、魔神王陛下直属の調査団も編成されて原因調査が進み、純粋に不幸な事故だったという結論になっている」

「………」

ユークリッドが神妙な表情でこちらを伺うように見上げてくる。

「………」

「……どうした?」

「お義父様。もう大丈夫なのでしょうか?」

短い言葉だが何を問いたいのかはよく分かる。だからオレの回答も既に決まっていて即答できる。

「ああ。大丈夫だ」

「そう…ですか」

「正直、初めの頃はかなり荒れていた時もあったが、陛下直属の調査団が公平に調査した結果だ。悲しい気持ちは消えていないが、今は気持ちの整理はついている」

ユークリッドは再び「そうですか」と呟いて顔を伏せる。

先程までの興奮とは打って変わり、何か思うところがあったのが一気に気持ちが落ち着いたように見える。

というよりは、落ち込んでいる?


「あ~…ところで――」

「?」

「――何故ユークリッドが泣いているのだ?」

「え?」

指摘されて、始めて気がついたようだ。

オレも最初は頬をつたう水滴は髪から垂れたものかと思っていたが―――それはユークリッドの両目から湧いていた。

「泣いてなんか……あ、あれ?あれ…」

拭った先から湧いてくる。

「うう………ひっく……ふぐっ……ふええ…」

ユークリッドは拭う手を止めて、目を覆い、肩を震わせて、声を抑えきれずに泣き出した。

「ユークリッド!?」

「ひっく…ひっく…」

迷わず、オレは娘の細い肩を抱きしめた。

抱きしめてから、早まった!嫌われると思ったが――ユークリッドはオレの胸にその小さな手を添えて、もたれかかってくる。

そしてそのままオレの胸の中で泣き続けた。


……。

……。

……。


どれぐらい経っただろうか。

ユークリッドは既に落ち着いて、オレから離れて、元のように隣に座る。何を見ているのかわからないが正面を凝視している。

「大丈夫か?」

「……」

「ユークリッド?」

「だ……だいじょうぶ!…です…」

大丈夫と言うユークリッドだが、普段は真っ白な肌が全身真っ赤になっている。

「……ユークリッド、あまり気にするな。非常事態だったから仕方ない。裸で抱き合ったと――」

「あ!あぁぁぁぁーーー!だだだ、だいじょうぶです。だいじょうぶ……」

「そ、そうか……」

すごい睨まれた。

そして恥ずかしさからか、俯いてしまう。

「まあ、ユークリッドは優しいからな。話を聞いているうちに自分の事のように感じてしまったのだろうな」

オレはできるだけ優しく、優しく、注意して娘の頭を撫でてみる。

嫌がられるかもしれないと思ったが、特に嫌がる素振りもなく、俯いたままだ。

「………ぅ」

俯いたまま、消えるような声で、何かを呟いた。そしてそのまま黙ってしまう。

オレにはその呟きがはっきりと聞き取る事が出来た。


『たぶん違う』と――

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