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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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フォーティスとユークリッド - ユークリッド

ハリスハンとミリリバンの衝突から数日が経ちました。

どうやら双方の開戦に至った経緯についての報告が異なったらしく、近日中に王城で魔神王陛下のもとで詰問会が開かれることになったそうです。

ただ、それは他領の話題であり、ここクラウスにはまた日常が戻ってきました。


「ふぅ~…」

いつもの如く、お義父様が深く息を吐きながら湯に浸かります。

初めての訓練の後で一緒に入浴してからというもの、機会があれば、お義父様と一緒に入浴しています。

いいえ、正確にはお義父様が、一緒に入浴しようとしてきます。

一番最初の『お義父様に裸体を晒された事件』以降、しばらくは誘われても入浴を断固断っていたのですが………そのたびに、意気消沈する姿に可哀想になってしまい、もう一度入浴を許したのが失敗でした。

それ以降はことあるごとに誘ってくるようになり、2,3日に1度は一緒に入るようになってしまいました。少しはやまったかもしれません……。

そう言ったわけで、若干無理矢理にではありますが、一緒の入浴する事に大分慣れてきたように思います。

それでも恥ずかしい事には変わらないですけど……。

「身体を動かした後の風呂はやっぱり気持ちいいなぁ~」

「…そうですね」

対して、お義父様は始めから今日まで全然変わらないです。

そしていつもと変わらず、私の隣に腰を下ろしています。

何だったら、今日はいつもより近いぐらいです。もうちょっとで肩が当たってしまいそうです。


じぃぃぃ~。


しかも何やらお義父様から、私を凝視するような視線を感じます。

「……お義父様。恥ずかしいのであまり凝視しないでください」

最近は身体をあまり隠さなくなりました。

もう色々諦めています。

「あぁ…すまんすまん。濡れた髪をアップして、うなじが見えている時のユークリッドはいつもと違って色っぽい感じがするなぁ~と思ってな。見蕩れてた」

「はぁぁ?……ぅぅ…………天然ですか?」

「天然?」

「……何でもありません」

無意識ですか?無意識で女の子をドキドキさせるなんて、とんだ女たらしです。

……娘をドキドキさせる前に、グラヴィスに甘い言葉をかけてあげてください………まったくもう。

いやいや。そんな事よりも、今夜はお風呂で試したいことが一つあったのを思い出しました。

お義父様の事なんかを気にしている場合ではありませんでした。うん。気にしない。気にしない。見られても気にしない。

私はお湯から左手を出して――


『アクアエ(水球)』


今日、グラヴィス先生から習ったばかりの魔法を唱えます。

広げた手の平にお湯で作られた水の玉が出現します。大きさは私の拳3つ分ぐらい。お義父様が以前に見せてくれた『アウグ(火球)』の水版ですね。

水が無いところでも作成することは可能なのですが、ここみたいに近くに媒体となる液体がある方が疲れず、大きな水玉を作り出すことができます。このあたりは火種が準備されていた方が発現させやすい『アウグ(火球)』と同じ事が言えるそうです。

「おぉ?『アクアエ(水球)』か?」

「はい。今日、先生から教わりました」

魔法の話をする時は、敬意を表して、グラヴィスの事は先生と呼ぶことにしています。

「グラヴィスは水系の魔法も得意だからな。攻撃魔法に特化しがちな火系とは違って、水系は攻撃だけでなく防御や治癒などの補助系の魔法も多く存在する使い勝手の良い系統だからな。しかも火と違って、水の場合は媒体となるものが自然にたくさんある。臨機応変に使える系統だ。習っておいて損はないぞ」

お義父様の話を聞きながら、私は作りだした水の玉を両手で横から挟んで、モニュモニュ揉んでみます。

元はお湯ですが、魔法で形を維持しているので変な弾力があって気持ちいいです。魔力の消費も殆ど感じません。これ、いつまでも揉んでいられますね。

水の玉をモミモミしながら、疑問を口にします。

「そんなに使いやすいのにお義父様は覚えないのですか?」

「あ~……そもそもオレは魔法が苦手だからな……火系の魔法すら満足に覚えていない」

やぶ蛇だったとばかりに苦笑するお義父様。

何が苦手なのか聞いてみると、体内の魔力を扱うイメージが難しいと言います。

あれ?でもそれって、以前にそのイメージをお義父様が教えてくれた気がしますけど?

「はっはっは……それにしてもユークリッドはどんどん魔法を覚えていくよな」

笑って誤魔化しています。

「『対魔』の加護があるので、全ての魔法が有効に使えるかは分かりませんけど、魔法を覚える事自体はとても面白いと思います。上達するのが目に見えて分かりますから。

それに先生が言うには、加護とかは関係無く、私は水系の魔法を扱いが特に上手いそうです。相性みたいなものもあるそうですね」

「……そんなところもか。益々似ているな」

お義父様がちょっとだけトーンの落ちた声で呟きました。

「益々似ている?」

誰にでしょうか?

「あ……」

「ん?」

「…そ…そそそ、そんな事、言ったかぁ?」

明らかに誤魔化しています!誤魔化すの下手ですか!?

「何ですかそれは。私には言えないような事なのですか?」

「……」

目線を私と合わせなくなりました。

「娘の私にも言えないことですか?」

「……」

完全無視です。ついに目を瞑って微動だにしなくなりました。

いつもは私の方をジロジロ見るくせに、都合が悪い時はこれです。これはちょっと荒療治が必要ですね。

「……あぁ~~~ぁ、ショックです。絶句です。言葉がありません」

「……」

「家族である私に秘密を作るだなんて。私の事は母様から根掘り葉掘り聞き出しているくせに、自分の事になったら私には内緒にするだなんて…………娘として、とてもとてもショックです。ちょっと嫌いになっちゃうかも……」

「ぁ……」

お義父様がこの世が終わった時のような顔をしています。

えっと……。

あのぉ…せめて、この世が終わりそうな顔ぐらいで堪えてください。そんな顔されると、言ったこっちに罪悪感が湧いてしまいます。

「き、きらいに…な…なるだと……」

「はい。嫌われても良いのですか?」

「そ、それだけは……」

「嫌っちゃいますよぉ~嫌いたくないなぁ~」

「くっ………」

お義父様は肩を落とします。

早いですね。もう限界が来たようです。

「……分かった。話すよ」

「ホントですかっ♪」

嬉しくて、つい勢いでお義父様の方を向いて、腕を掴んでしまいます。

「う、うむ。だから嫌いにならないでくれ……それと、時にユークリッド。オレは構わないが、こっちを向くと色々見えてしまうぞ」

あ~……いけないいけない……興奮しすぎました。

腕を放し、何でもないかのようにゆっくり前を向き直します。

首より上が何やらポッポと火照っていますが、湯の所為ということにしておきましょう……。

「一応、先に言っておくぞ。全然愉快な話ではないからな?」

「はい。構いません。私も、その…お義父様の事も色々知りたいです」

「…わかった」

こう言われてはもう抗えないでしょう。観念したお義父様がゆっくりと語り出しました。

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