ハリスハンとミリリバン 4 - ユークリッド
何故?
……どうして、こうなってしまったのでしょうか?
私の目の前で異なる魔人同士が武器を振りかざしながら走り寄っていっています。
右からはハリスハンのノーザンウルフ達。
左からはミリリバンのゴールドリッチ達。
なるほど……これが戦争ですか。
お義父様とゴンゴス将軍に両脇から下がるように引っ張られていく私の目の前でその双方の軍勢が衝突しました。
その最前線でぶつかり合っているのは身体の動きのキレとかを見る限りいずれの軍勢もおそらく紅い血の者達だと思われます。
さらにその者達に混ざって、ミリリバン側には金属の人形のような個体――あれがゴーレムと言うものでしょうか。初めて見ました。そしてハリスハン側には人よりも一回り大きなトカゲのような動物?――が兵士達に付き従っています。
そして、その後方ではミリリバン、ハリスハンのいずれも蒼い血の者は戦場の後ろで眺めているだけです。
蒼い血の者にとって紅い血の者は同種族でも消耗品扱いのようです。それがよく分かる光景です。
それに比べると――
「お義父様」
「どうした?気分が悪くなったなら下がっていて構わないぞ」
少し距離を置いたところに移動してようやく腕を離してくれたお義父様を見上げます。初めて見る戦場の所為で私が具合を悪くしたのかと心配してくれたのか、戦場から目は離さないけど、心配してくれているのが分かる優しい声色です。
「いえ、そういうわけではないです。1つ聞いても良いですか?」
「ああ。どうした?」
私はチラッと後ろに視線を向けます。そこには私達クラウサの兵士さん達が並んでいます。
私達の後ろに。
「何故、我がクラウサでは兵士さん達を後ろに並べているのですか?」
「…不満か?」
「まさか」
「そうだよな。ユークリッドは紅い血の者に優しいからそんな事は思わないよな」
お義父様は苦笑しつつ話を続けます。
「強者が先頭に立てば士気も上がる。もちろん強者が戦う機会が増えるのだから戦果も見込めるだろう。それに個々の戦闘能力が高くないとしても純粋に数は戦力になる。無駄に消耗するのは勿体無いだろ」
「なるほど。そうですね」
お義父様のは単純な優しさではなく、あくまで戦術的な観点ですが、少なくとも紅い血の方々を捨て駒のように使うつもりはないようです。
そして、そもそも何故このような状況になってしまったのか。
それは私の自己紹介が終わった直後にまで遡ります。
*
パチパチパチ。
私の自己紹介に対して、両陣営から疎らですが拍手が起こります。
「噂には聞いていましたが、なかなか成り立ての貴族種ながら礼儀作法もしっかり教育されているようで。しかもS種の魔人。ご領主家に迎えられたのも当然かと。これでクラウサ家も安泰ですな」
一際大きく拍手してくれたのが、このミリリバン卿アリガナ・ル・ミリリバン様でした。
私の作法を褒めてくれたということは、最低限のマナーは守れていたようでホッとしました。さらに家の安泰を喜んでくれているように聞こえますが、その目は相変わらず私の事を舐めるように見ています……。
うぅぅ……気持ち悪い…。
対してハリスハン卿ヴィルク・ル・ハリスハン様はニヤリとした笑みを浮かべたままだが、私に対してとくに何か発言は無いようです。
とりあえず私の出番はもう終わったかなと思うので、そそくさと元の位置に戻りましょう。
早くお義父様の壁でミリリバン卿からの熱視線を防いで貰わないといけません。
そう思って身を引いた瞬間、私の目の前を数本の何かが右から左へ飛んでいったのが視界の端には入ります。
「がっ!?」
その直後、低く短い女性の呻き声。
見るとミリリバン卿の傍に取り巻いていた薄着の女性のうちの膝に座らせていた2名が目を見開いていて、さらにその首と胸の辺りに何かが刺さっています。
あれは――矢ですか!?
ゴールドリッチの女性2人はそのまま血を吹いて倒れます。倒れたのは2人の首を後ろから掴んで持ち上げていたミリリバン卿がその身体を離したから。恰も2人を盾に使ったかのような所作です。
共にいた女性が絶命するのを見て取り巻きの残り2名が発狂して悲鳴をあげました。
明らかにそれがミリリバン卿の気分を害したようです。その女性達を一瞥すると周囲の兵士が領主の意向をくみ取ったかのようにその残りの娘達を切り殺しました。
愛人達?が皆倒れたというのに、それには一瞥することもなく、正面に相対するハリスハン卿に視線を向けます。
「お~これはこれは。一体どういう事でしょうか?ハリスハン卿」
「……」
「何という事でしょうか。ハリスハン卿は生粋の武人と思っておりましたので、こういった不意打ちのような事はされない方と思っておりましたが。いやはや認識を改めなくてはいけませんな」
「……貴様の差し金か。ミリリバン卿」
「くっくっ」
ハリスハン卿の鋭い眼光を涼しげに受け流しつつ、ミリリバン卿は徐ろに片手をあげました。
「正当防衛だ。存分にやれ」
「「はっ!!」」
その指示を待っていたかのようにミリリバンの兵士達が動き出します。
「相変わらず汚いヤツだ。迎え撃て」
「「おぉぅ!!」」
それを迎え撃つべくハリスハンの兵士達も動き出しました。
「ユークリッド。許せ」
お義父様はそう言うと私の足と肩に手を回して抱き上げます。俗に言うお姫様抱っこです。
そのまま3歩4歩跳躍して、幕から一気に離れます。その後を将軍や取り巻きの兵士の方達が追いかけてくるのが見えます。
「急に抱えてすまなかったな」
「いえいえ。これぐらいで気にしたりなんかしません。それよりも――」
嗚呼あの高そうな天幕が……じゃなくて
私は先ほどまでいた場所に視線を戻すと、そこには先ほどまでの天幕を押し倒すようにたくさんの兵士達がぶつかりあっていました。
その数は視界に入るだけでも数百人に上ります。こんなにたくさんの兵士を1度に見たのは初めてです。
「お父様これって?」
「あー……先に手を出したのはどちらからわからんが、両陣営ともタイミングを見計らっていたんだろうな。じゃなければこんなに手際よく兵士が展開できるはずがない」




