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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
19/58

青と緑 - ユークリッド

ナルとミカの2人を引き取ってから1週間が経ちました。

当初は不安でいっぱいであったと思われる2人も、最近は少し落ち着いてきたように見えます。それは生活に慣れたというよりは毎日の仕事で頭がいっぱいなだけのようにも見えますが、今はそれでも良いかなと思います。


そんな2人が今夜のグラヴィス先生との魔法講義の時間にミーシャと共に傍つかえとして立っています。

「その2人は?」

グラヴィス先生がミーシャの傍に控えているナルとミカを気になったようです。

今夜は2人が使用人になってから始めて夜のシフトを担当してもらっています。先日よりシャリアとハイカが風邪をこじらせており(ハイカが言うにはシャリアにうつされたそうです)蒼い血の方々のお世話中に咳き込んだりしては失礼だと言って日中シフトに移っています。そのための人手不足から予定よりも大分早いですが2人に夜シフトが回ってきたそうです。

とりあえず仕事は何もさせずに蒼い血の方々の前に立つ事に慣れさせていくのが目的だそうです。

そう事前に私にミーシャから提案がありました。

勿論私に異論はありません。

ナルは子供サイズの黒い執事服姿。

ミカは白に緑のラインが入った特製のメイド服姿。

いずれも子供用ということもあり、母様が作ったお手製の服だそうです。昔は私の服も作ってくれていたらしく、お裁縫も得意な母様。流石です。

使用人としての仕事も少し覚えて、屋敷の生活にも慣れてはきていますが、今は直立不動で固まっているナルと、その後ろにミカが隠れています。

また1人、知らない蒼い血の者が増えたのですからしょうがないですね。

「グラヴィス先生。男の子の方がナル。女の子の方がミカ。2人とも訳あって私の方で引き取って、今は使用人見習いとして働いて貰っています」

他の使用人が体調不良なのでまだ未熟かも知れないけど夜シフトに入っている事も伝えます。

それで合点したのか、グラヴィス先生は頷き返してから2人の傍に近づきます。

「は、はじめまして。ナルです………こっちが妹のミカです」

「……ミカ…です」

さすがにナルは教えられたとおりに直立不動の姿勢ですが、ミカは怖いのか、兄の後ろに隠れながらの自己紹介になってしまいました。

普通の蒼い血の者なら怒るかもしれない態度でしょうけど、それで怒るようなグラヴィス先生ではありません。

優しい笑みを浮かべながら2人に視線が合うように中腰になりました。

「はじめまして。ユークリッド様の魔法の先生をしているグラヴィスと言います。

ふふふ…随分可愛らしい子を雇ったのですね」

私は隠しておくような事でもないので、2人を引き取る経緯となった行商とのやり取りを伝えました。

それを聞いたグラヴィス先生の表情が曇ります。

「まったく……奴隷自体は禁止されていないとは言え、それは当人が合意の上での身売りの場合であって、拐かしての奴隷は違反です。いくら奴隷になった経緯を知らなかったとしても売った時点で罪は免れられません」

「え?奴隷売買が違法な場合があるのですか?」

シャリアに聞いた話では、奴隷の売り買いは認められているとしか教わらなかったです。

「ええ。一応、無理矢理奴隷にする事は違法とされています」

なるほど。それは誘拐と殆ど同じですものね。

「しかし、それによって罪を問われて捕まったという人は聞いた事はありません。何故なら買うのは一部の大商人か、貴族や蒼い血の者達だけなのです。これらの購入者に逆らえる人がいないので誰も奴隷商人を罰するような事をしないのです」

なるほど…それであの行商人は違法な奴隷を嬉々として蒼い血の私に勧めてきたのですか。確かにこのクラウサで奴隷を購入するとしたら領主一家ぐらいしかいませんものね。

「それにしても珍しいですね――」

そう言ってグラヴィスは2人の長い耳に手を伸ばして触れます。

2人は恐怖からか、完全に身体が固まっており微動だにしていません。

「――グリーンブラッド種だなんて。遠くクラウサまで連れてこられて可哀想に……」

そう言って、耳に触れた手でそのまま2人の頭を優しく撫でてあげています。

その顔には、領民から女神様とか言われているグラヴィス先生らしい、慈愛の感情が浮かんでいました。

ただ、ちょっと気になる単語が。

「グラヴィス先生」

「はい?」

「グリーンブラッド種って何ですか?」

「………え?」

あれ?……また、知っていて当然の質問をしてしまいましたか?

グラヴィス先生が驚いた表情を見せます。

「ユークリッド様は、2人がグリーンブラッド種だと知らずに引き取ったのですか?」

「はい。ナイトウォーカーではないのは分かってましたが、グリーンブラッド種というのは知りませんでした………もしかして、マズかったでしょうか?」

「夜が生活時間であるナイトウォーカー種とは違うという事が分かっていれば、別にマズくはありません。

ただ、彼らは主に国の南に広がる大森林を生活圏としており、その大森林の大部分をウィルゲット領という中領が治めています。殆どのグリーンブラッド種はそのウィルゲット領に住んでいて基本的には森から外には出ない魔人種なので、森の外で見かけるのが珍しいというだけです。

なので、遠いところから連れてこられて可哀想に……と思ったのですけど……」

グラヴィス先生がお義父様の方を見ます。

「フォーティス様は、教えてあげなかったのですか?」

「ふむ。…………オレもグリーンブラッド種の者を見るのは初めてだからな。知らなかった」

「いえいえ、絶対にそんな事は無いと思いますよ?王都や大学院でも人数は少ないですが、ウィルゲット領から来ている方々がいたと思います」

「うむ。興味が湧かなかったから、全く覚えていないな」

「まぁ……ふふふ、フォーティス様らしいですね。

そう言えば、ウィルゲット領は確か現在、領主とその弟が次期領主を誰にするかを巡って争う御家騒動の最中ではありませんでしたか?」

「ああ。そうだな。こいつらもそのあたりの争いに巻き込まれたというところだろうな」

「そうですね。可哀想に……」

あれ?……そう言えば、今更ですがこの2人が一緒に居るところを見るのは初めてな気がします。

私の居ないところでよくお話はされているみたいだったから、仲が良いのだろうなとは想像していたけど……。

うん。何だかこう改めて2人の仲が良い感じる事ができると、色々とほっとしますね。

「あ…そうでした。もう1つ重要な事がありました。ナルですが、魔法も使えるのですよ。しかも植物を操る魔法を」

先日、ナルに襲われた際の事を思い出しながら、少し得意げに私は先生に言いました。

ナルはその話を聞いて表情を曇らせます。

大変な事をしてしまったと今は後悔しているようですが、大丈夫です。怖がらせたのは私の方だから、抵抗してくるのは当然です。全然気にしてはいませんよ。

「植物を操る魔法ですか?」

「はい。確か先生が言ってましたよね?魔法24系統の中でも植物を操る木系の魔法はとても難しくて、使い手が少ないと」

「ええ。珍しい系統になります。他の系統に比べれば使い手もかなり少ないかと思います。でも、彼がグリーンブラッド種なら納得ですね。

グリーンブラッド種は別名『森人』と呼ばれるぐらい、生活の中で木々と接する機会が多い魔人種です。生まれた時から森の中で住んでいるという事もあり、木系の魔法が大変得意な方が多い種族なのです」

「それは種族によっても得意な系統の魔法があったりするのですか?」

「ええ。私達、ナイトウォーカー種は全般的に魔法が得意な部類の魔人種になるため、あまり意識する事はありませんが、種族によってはある系統の魔法に特化していたり、ある系統の魔法は一切使えなかったりします。

例えば、テラモンと呼ばれる魔人種は洞穴などに住んで、殆どを地面の下で生きるために、土系統や空間系統の魔法が得意です。それと穴を掘る必要があるので、筋力を上げたりするために強化系統も得意ですね。

国内の山間部に広く住んでいて、クラウサにも少数ですがいらっしゃるので、今度魔法の勉強のために来ていただきましょうか」

「はい!是非、会ってみたいです」

「では、月に1度ほど薬の原材料を卸しに山から下りてこられるので、神殿にいらっしゃったときに頼んでみましょう。」

「はい。お願いします」

クラウサの山の中にナイトウォーカー以外の魔人種が住んでいるなんて、全然知りませんでした。

そうだ。山の中と言えば――

「ふふふ……それじゃあもしかするとドリゴもテラモンかもしれないですね」

「ドリゴ?」

小首を傾げる先生に、横からお義父様が苦々しさの混じった声で説明してくれます。

「……ユークリッドのお気に入りの紅い血の者だ。シルバーヘッド鉱山の坑夫長を務めているものだ」

「まあまあ。ユークリッド様にもそういう方がいらっしゃるのですね」

何故か先生が嬉しそうです。

「……爺だけどな」

何故かお義父様に対して「年の差何て関係ありません」と、強めに反論するグラヴィス先生。

「確かにお年はめしてるけど、とても元気なのですよ。ドリゴはすごいのです。岩盤に触っただけで何となく内部がどんな岩質なのか、どのぐらい掘れば目的の鉱脈に当たるのか、そういった事が分かってしまうのです。すごいのです」

「ふふふ、それは確かに凄い。本当にテラモン種かもしれませんね」

「はい。頼りにもなる方です」

「………」

ん?何かお義父様の機嫌が良くないように覗えます。どうしたのでしょうか?

そんなお義父様のことを先生が面白そうに見ています。あれは何かイタズラをする時の表情ですね。私も大分、先生の事が分かってきました。

「くすくす……フォーティス様。妬いてらっしゃるのですか?」

「別に違うぞ」

「いえいえ、しょうがないです。男親というものは娘の事が特に気になるものだと聞きます。妬いても良いではありませんか。それだけ娘愛が強いという事ですよ。隠す事ありません。良いではないですか」

「いや、だから妬いてなどいない」

「またまた~」

先生に見上げられながらも迫られ、お義父様がドキマギしています。

私より少し高いぐらいで、お義父様とは頭2つは背の低い先生ですが、そんな先生に迫られて腰が引けてる大男のお義父様―――

私相手では、迷わず抱きついてくるケースですね。ですが、そこを節度を持って接しているところを見ると、何とかかんとか言っていてもしっかり先生の事を女性として意識しているみたいです。

視界の端に、そんな2人をどうしたものか少し困った表情で様子を伺っているナルが見えました。

「先生、あまりお義父様を苛めるのは止めてあげてください」

「くすくすくす…は~い」

この反応はあまり反省していないですね。

とりあえずそれは置いておいて、これだけはハッキリさせておかないといけないです。

「お義父様、先生。ナルとミカはグリーンブラッドという種族のようですが、今までと変わらず、ここで仕えて貰いたいと思っています。構いませんよね?」

「ああ。もちろん構わん。前から言っているように屋敷のことはユークリッドに任せているからな。ユークリッドが判断すれば良い。それにグリーンブラッドか?なかなか面白そうじゃないか。魔法まで使えるというなら掘り出し物かもしれん」

お義父様からの許可は下りると思っていましたが、まさか興味まで示されるとは思わなかったです。

「……失礼します。あの2人について私の方から1つ提案があるのですが――」

先生が小さく挙手して、お義父様と私に伺い、お義父様が話すように促します。

「――はい。この2人、折角魔法が使えるようですので、私の魔法教室に参加させてみるのは如何でしょうか?」

「この2人をか?」

「はい。失礼ですが、ここクラウサは人材が乏しいかと思います。蒼い血の者はここにいる3人のみ。そんな中で魔法を使える人材というのは大変貴重かと思います。

それに植物を使った魔法――個人的にもとても興味があります」

「ふむ。ユークリッドはどう思う?」

「私も賛成です」

この2人と一緒に魔法の勉強が出来るのなら嬉しいことです。不満などありません。

「わかった。おい」

「……はい」

お義父様に『おい』呼ばわりされたミカは今にも泣きそうですが、ナルは歯を食いしばって絞り出すような声でも返事しました。

「今夜からユークリッドと一緒に、このグラヴィスから魔法について教われ。折角屋敷に置いているのだ。役に立て」

「は、はい!」

「フォーティス様。ただ、2人はまだかなり若いので勉強時間や量については、私に一任頂けないでしょうか」

「構わん。それは先生の領分だ。いちいち口出しなどしないさ」

偶に、丸投げだったり、適当だったりするけど、お義父様のこういう人に任せられる姿勢は長所ですね。伝え聞く他の蒼い血の領主のように命令を強要するよりも遙かに良い事だと思います。

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