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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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お姫様と使用人候補 2 - シャリア

「……あれは?」

遮光機能が無いとアイシャが指摘していた小窓を眺めていたお姫ちゃんが、ふと小窓の外に何か気になるモノを見つけたようで、不思議そうな表情を浮かべている。

向かいのアイシャも小窓を覗き込んだ。

「どうしましたか?」

「アイシャ、あの人だかりは何でしょうか?」

「うん?あぁ……えっと、あれはたぶん行商人の露店じゃないかなと思います」

「行商人?」

「うん。クラウサではあまり外から隊商とかがやってくることがないから、ああやって偶に外から来る行商人が開く露店にはよく人だかりができるんだよ。

クラウサは娯楽が少ないからねぇ……あっ」

『娯楽が少ない』と言ってしまった領地の姫様が目の前にいることに気がついて恐縮するアイシャ。うちのお姫ちゃんがそんな事を気にするとは思えないけど。

「なるほど。娯楽ですか………検討しても良いかもしれないですね」

ほらね。貴重な意見ぐらいにしか思ってないから。

「ちなみに、あの行商は何を売っているのでしょうか?娯楽の参考にしてみたいです」

「う~ん…ごめんなさい。行商が売るモノは千差万別なので、実際に見てみないとわからないです」

「うん。そういうわけです。シャリア」

なに?何がどういうわけだって?

「あの行商が何を売っていて、何に領民が興味を示しているのか知りたいです。少し寄り道してもいいですか」

「だ~め」

アタシの即却下の答えに、お姫ちゃんではなくアイシャの方が驚いている。普通は蒼い血の方の指示を却下すること何てないものね。

「アタシはばあちゃんから、寄り道は絶対させるなってキツく言われているからね。アタシが怒られちゃうよ。だめだめ」

「アイシャ~。そこを何とか……」

「だ~め」

「…………何か欲しいものがあったら買ってあげてもいいよ」

「うん。そうね。領民の嗜好を知っておくのは、統治者として悪いことじゃないよね。ちょっと寄りましょう」

気が付くと肯定が言葉が口から出ていた。

早速、アタシは御者に馬車を行商のところに寄せるように指示します。

「ふふふ、シャリアのそういうところ。大好きです」

「そう言われて悪い気はしませんが……そういう事は、意中の殿方かご領主様に言ってあげてください。お嬢様に言われたら文字通り涙が止まらないでしょうね。感涙ってやつですか?」

「意中の方なんていませんし。お義父様にそんな事を言ったら大変な事になりますよ」

お姫ちゃんが苦笑しながら答える。

その表情を見て、アイシャの顔が曇ったのを見逃さない。

彼女なりに何か思うところがあるのだろうけど……。

しかし今はそれどころじゃない。いざショッピング♪ショッピング♪何せ、お姫ちゃんの財布で買い物ができるのですから。

……でも、ばあちゃんにだけはバレないようにしないと………

い、いえ!さっさと買い物して、急いで帰れば寄り道した頃もバレないはず。うん。

「はいはい。ご領主様に愛されていますものね。さぁ!売り物を見てみましょう。さぁさぁさぁ」

馬車が停まるや否や、アタシが馬車の扉を開いて真っ先に外に飛び出す。

そこにいた行商も、お客の領民達もみんな驚いてこっちを見ていた。

アタシなんかに驚いていたら大変だよ?

次に突然現れた馬車にざわめいていた人々が、一瞬にして静まる。そして、全員がその場に伏せて土下座を始めた。

アタシに続いてお姫ちゃんが降りてきたからだ。

人外の美しさであるお姫ちゃんは一目見れば、彼女が蒼い血の方だと皆が気づくだろう。

アイシャは自分がお姫ちゃんの後に降りてもいいものなのか分からず、気が引けて車内に留まっている。

すると、それを見たお姫ちゃんが自分の横に降りてくるようにアイシャを促した。

「みなさん、こんばんわ。ご機嫌いかがでしょうか」

「………」

返事を返さないと失礼に当たる――というのは認識しているけど、たくさんの人が居ると逆に自分で声をあげづらい。結果的に誰も返事を返さないという状態になってしまいました。

うちのお姫ちゃんはそれで怒ったりはしないけど………ほら、困った顔をしている。

「……あの……ここでは何を売っているのですか?」

皆が露店を広げている行商の方を伺い見ている。

「は、はい!えっと……色々売っておりますが……もしかして領主家の御方々でしょうか?」

「はい。ユークリッド・ル・クラウサと申します」

「クラウサっ!?これはこれは……大変失礼致しました。地方を渡り歩き、領外から来ました無知者ゆえに御容赦ください」

そう言って深々と頭を下げた行商人の男性は、その頭部の半分が金属のような光沢を持った皮膚で覆われている。

確か、南方のミリリバン領に多く住んでいるゴールドリッチと呼ばれる魔人種だったかな。金属に関する魔法が得意だとか、見るだけで金属の特性が判る能力があるだとか、聞いたことがある。あとは商売を営んでいる人が多いらしいです。

そもそもミリリバン領自体が他領との交易を盛んに行っているところだったはずです。

行商人は路上にマットを敷いて、その上に商品を並べられています。

そのマットごと移動させてお姫ちゃんに商品が見えやすいようにしてくれます。

さらに他のお客さんも一歩離れたため、お姫ちゃんの為の場所が空いた。

「あ…ありがとうございます」

気まずく感じたのだろうお姫ちゃんが少し苦笑いを浮かべながらも、自分がここに居る限りはこの変な雰囲気を収まらないと判っている。お礼を口にしつつ露店の前に進みます。

「量は少ないですが、幅広い種類の商品を取りそろえております。中でも姫様に是非お薦めしたい商品がございます」

「お薦めですか?それはなんでしょうか?」

行商人はニタァ~っとした音がしそうな笑みを浮かべて露店の隅に視線を向けます。

「そちらにございます」

「……え?」

お姫ちゃんは一瞬にそこにあるモノが理解できず、少し遅れて小さく反応した。

そこにあったモノは―――物ではなく、者。しかも者達だった。

男の子と女の子の2人だ。

年は男の子の方が10歳ぐらい、女の子は5歳ぐらいだろうか。2人とも緑がかった変わった色の髪をしている。兄妹だろうか。

2人とも両足に枷が填められていて、それはお互いの枷を繋げるように鎖が引かれていた。身につけている衣服も、辛うじて身体を隠しているだけのボロ布であり、薄暗い中でも全身汚れているのが見て取れる。瞳も死んだように暗く、何も写していない。

「えっと……商品は?というか、この子達は?」

「いえいえ。こちらが商品になります。若い奴隷にございます」

行商人は平然とその子達を指さして言った。

「………」

あ……これってまさか、お姫ちゃんは奴隷とか許せないタチだったりするのかな?奴隷は何処の領でも多かれ少なかれ取引しているのだけど、人によってはとても毛嫌いする場合があるからね。お姫ちゃんは優しい性格だからそっちの可能性が高いな。

アタシは慌ててお姫ちゃんに耳打ちする。

「お嬢様。一応お伝えしておきますが、奴隷の売買は合法です」

「……そうなのですか」

あ~…危なかった。

声を聞いただけでとても不機嫌になっているのがわかる。こんなところで騒ぎになったら、寄り道したことがばあちゃんにバレてしまう。

「はい。勿論誘拐は犯罪ですが、奴隷になった経緯などは普通分かりませんので……。人によっては食うに困って自分から奴隷になる者もいると聞きますが、あの歳頃で自分から奴隷になることを選ぶとは思えないので、戦災孤児、あるいは口減らしで親に売られたか。いずれかかと――」

「なるほど……」

とりあえず納得はしてくれたようだ。

小さく頷き返してくれると、商品扱いされている少年達に視線を戻す。

「この2人を商品として売ってらっしゃるのですか?」

「ええ。さる南方で仕入れた商品になります。戦で親を亡くした戦災孤児だそうで、兄妹だそうです。まだ仕入れたばかりでこれから王都の方にでも行って捌こうかと思っておりましたが………宜しければ如何でしょうか?」

「……いくらでお売りするつもりなのですか」

「いえいえ、こんな痩せた餓鬼2匹で蒼い血の方からお代を頂くなど滅相もございません。是非是非お納めください」

商人は平伏しながらも、ちらっと覗える顔には薄らと下品な笑みを浮かべている。

どうせお姫ちゃんが食料として所望していると思っていて、無料で渡しても、領主家からの覚えが良くなるならとか頭の中で計算でもしているのだろう。

でも、可哀想に。普通の蒼い血の方が相手なら正攻法なのだろうけど、うちのお姫ちゃん相手には完全に逆効果だと思う。ほら、お姫ちゃんの顔がさらに険しくなってきたよ。

「如何でしょうか?」

「………ええ。判りました。

それでは……この2人は私が保護します。宜しいですね?」

『保護』という単語に一瞬顔を顰めた行商人だけど、深く触れずに、深々と頭を下げて肯定の意を示す。

「もちろんでございます。ちなみに私、こういう者です。以後お見知りおきを。もし他にも入り用でしたら何なりとお申し付けください」

行商人が何かカード上のモノを差し出してくる。

それをお姫ちゃんは受け取るが、一瞥しただけで興味を無くしたのか、アタシの方に渡してきた。

なになに?


『合法なものなら何でも取り寄せ可能

  信頼の500年 ヘルメス商会 行商部

   スリンカ・マネリッジ』


所謂、商人同士が挨拶の時に使う名刺というやつですか。

明らかにお姫ちゃんの覚えを良くしようとしてるね。この行商人さん。

とりあえず名刺を懐にしまおうとすると、アイシャちゃんがぽかぁ~んと口を開いて呆けているのが目に入りました。

「どうしたの?」

「あのぉ……ユークリッドさまっていつもこんな感じなんですか?」

「こんな感じって?」

「その………行動的というか…」

「いやいや。それはアタシの方が聞きたいよ。紅い血の頃からこんな感じだったわけ?」

「う~ん、紅い血の頃………こんなに活動的じゃなかったですね。根暗というわけでは無かったですけど、自分の意見とかを口に出すことはまず無かったです。とても大人しい子でした」

アタシ達がこそこそ話しているウチに、お姫ちゃんはさっさと行商人から足枷の鍵を受け取り、少年達の傍に腰を下ろしました。

突然、目の前にお姫ちゃんみたいな子が現れた所為だろう。少年達は無気力だった今までとはまた違った呆け顔を見せている。

蒼い血の方を前にしての態度としては失礼ですが、うちのお姫ちゃんみたいなのがいきなり現れたらそういう反応になってしまうのは仕方ないね。まあ、小さい子だし見なかったことにしてあげよう。


パキン。パキン。


お姫ちゃんが少年達の足枷に触れると、何か乾いた破裂音が響いた。

詳しくは判らないが、お姫ちゃんが魔法とかで何かをしたのだろう。続けてゴトっという重い音と共に、少年達の足を縛っていた金属製の枷が地面に落ちる。

しばらく幼い2人は呆けたようにお姫ちゃんと、その外れた足枷を交互に見つめていた。

しかし男の子の方はそこからすぐに回復すると、まだ呆ける女の子を自分の背中に隠してお姫ちゃんに対峙する姿勢を取った。

あ、あれ?……これは何かマズいような気がする。

「お、お前は……蒼い血の者か」

「はい。ユークリッド・ル・クラウサと申します」

お姫ちゃんが律儀に名乗って微笑み返したようだ。

この微笑みを受ければ大抵の者は態度を軟化するものだけど―――その少年がカッと目を開くと、少年の身体の周りから突然緑色の蔦のようなモノが飛び出し、数本がお姫ちゃんに向かって飛びかかった。

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