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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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はじまりの夢とつづきの現実 - ???

ふかい――

ふかい――

ふかい――

とてもふかい――


水とは違う――

何かとても重い、身体に纏わり付くような液体状のモノに身を包まれている感覚――

でも油とも違う――

手を伸ばしても、足を伸ばしても、この液体から出ることはない。


まどろむ意識の中で周囲を見渡す。

液体の中は暗闇が広がっており、何処まで広がっているのか分からない。

前も――

後も――

右も――

左も――

上も――

下も――


そしてその液体の中をゆっくり、とてもゆっくりと、身体は沈んでいっているような感覚がする。

手で掻いても身体が浮揚する感じは無く、ただ一定の速度で身体は沈み続けていく。


……。

……。

……。


このまま永遠に沈み続ける。

そんな事を意識し始めた頃。

私を左右から照らす灯りが近づいてきた。


左からは仄かに赤い灯りが――


右からは仄かに黒い灯りが――


それぞれが左右から私に近づいてくる。

こちらから近づくことも、避けることも、できない私はそれを見ているだけ。

その灯りはそのまま私の右と左の両手の平に収まると、人に手を握られたような感触と共に、両の手に吸い込まれていく。

そして、その灯りは私の手の平の中に宿ったまま、私の身体を上に引っ張るように動き出した。


沈む速度の何倍もの速さで身体が一気に浮上していきます。

両手は灯りにしっかり握りしめられて離れることはできません。

上昇する速度はどんどんと増していきます。


上昇を始めてどれぐらいの時間経ったでしょうか――


長い時間だったのかもしれない――


一瞬だったかもしれない――


何も無い闇の中で、感覚だけで上昇しているのがわかるだけ。どれだけ上昇したかなど分からない状態がずっと続いていたが、それに変化が見えてきました。

目の前に無限に広がっていた闇の中に切れ目が見えてきました。

それは強い光を放つ切れ目。

普通では存在するはずのない。

空間に直接入った切れ込み。

その切れ込みに向かって、私の身体は引っ張られるままに飛び込んでいきました。


   *


…い――

臭い――

血、生臭い――


鼻をつく匂いに意識が戻る。

ここは……何処?

暗いけど、僅かに明かりが灯っているおかげなのか、そこがどんな所か視認することができました。

暗いけど、室内です。

広さは大したことはなく、私はその部屋の真ん中あたりの床に女の子座りで腰を下ろしていました。

部屋全体には物が散乱しており、壁や床は少し歪んで色あせた木造のモノで決して綺麗な部屋ではないです。

そしてこの臭い。

すごくキツイ臭い。

あらゆる匂いをかき消してしまうぐらいに臭い。くさい。くさい。

その発生源はすぐに見つけることができました。

ペタンと女の子座りをしている自分の目の前に――所々赤いモノが残った白い骨が散乱しています。

自分の両手にはその赤いモノと同じ色の液体がこびり付き、

所々破れて衣服のていを成していない布と半裸の身体にも、液体が飛び散っていました。

そして唇の周りにも、鉄の味――まさに血の味が広がっています。

さらに口の中には何か生っぽい個体を含んでいるのに気がつく。これは一体何でしたっけ……?

思い出そうとしたけど、やっぱり思い出すのを止めました。思い出しても愉快なモノではないのが何となく分かったから……。

それでもゆっくり咀嚼してみます。

噛むたびに異常な程の旨みがしみ出してきて止まらないです。

しばらく咀嚼を繰り返していると流石に味がしなくなってきたので、少し名残惜しいですが飲み込んで喉を小さく鳴らす。

そして床に散乱する骨を取り、残った赤い部分に齧りつきます。


……。

……。

……。

……そうだ。思い出してきました……私は先程から目の前に転がる骨についたモノを、作法も無く、貪るように食していたのだった。

色々と少しずつ断片ながら思い出してきた私の耳に、くちゃくちゃとした咀嚼音とは異なる音―――人の啜り泣く声が聞こえてきました。

それは私から見て、散乱した白い骨のさらに先に蹲っていました。

今の私ほどではないが、見窄らしい衣服を身に纏った大人の女性でした。

その女性は私の方を見ながら、顔を歪ませ、両目から流れ続けている涙を拭うことなく、何かを呟くように唇が動き続けています。

普通は聞こえるはずもない、唇を震わせているだけの小さな、本当に小さな呟きのはずだが、何故か私には鮮明に聞こえました。


ごめんなさい―――と。


それを聞いた私の意識は、再び深い部分へと落ちていこうとします。

しかしそれに不安は感じませんでした。


私の心に広がった感情は――


ホッとした安心感と――

全身に満たされた満足感でした。

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