紫のアネモネ『謎夢シリーズ』
この物語は、深みのあるお話となっています。自分なりの語彙力で簡単かつ詳しめに書いています。うまく伝わらないかもしれませんので、ご了承ください。
みんなは、夢というものを見たことがあるだろうか?夢というのには力が存在している。それは、大きく分けて三つ存在している。
一つ、自身の心の底を知らせる力。
二つ、理想の世界を作り出す力。
そして三つが
『先の未来を知らせる力』
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学校から帰宅した僕、謎夢湊は、スマホを机の上に投げて、今日も今日とてベッドにダイブする。
「あ〜…つかれたー…。」
ダルそうに体を布団に埋める。
1学期最後の一日が終わりを告げ、ついに待ちに待った夏休みが始まったのだ。
帰宅して即行にベッドに向かうのはダメかもしれないが、残念!僕は今日から夏休みなので、いつでも寝込むことができるのだ!
「さーて、おやすみなさ〜ぃ…。」
枕に顔を沈めると同時に、僕の意識は段々と暗闇の中へと沈んで行くのだった。
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ぽつりっと僕の体になにかが当たる。それはとても冷たくて、冷ややかなものだった。
「これは?」
雨だった。ずぶ濡れになるほどの雨だった。
僕は困惑して辺りを見渡す。周りにはフェンスが立ち並んでいて、その向こう側からは、建物が見えていた。僕はすぐに、ここが学校の屋上であることを認識した。それと同時に、ここが夢であることも理解した。
「なんだよ、やっと学校の事忘れられると思ったのに、夢の中にまで出て思い出させんなよ…。」
と愚痴を零していると。
ガチャッと、ドアが開く音が後ろから聞こえてきた。僕は気になって後ろを振り返るとそこには……。
「すい…れん!?」
俺の友達である水蓮だった。
彼女の名前は『若林水蓮』、僕の数少ない友人の一人だ。
どうして彼女が僕の夢の中にいるんだろ?
彼女はドアを閉めて、僕の居る方向へと歩を進める。
僕はわけが分からず頭を抱え込んでいると、
彼女がなにかを抱えていることに気づいた。
それは、紫色のアネモネだった。
「なんで、アネモネなんか持ってるんだ?なぁ、水蓮?」
素の疑問を投げかけたが、彼女は聞き耳を持たず、真っ直ぐ僕に近づくだけだった。まるで聞こえていないかの如く。
「おい!聞こえてんなら返事くらい…。」
「っ!?」
僕が彼女に触れようとした瞬間だった。彼女に触れるはずだった僕の手は、空を切るかのようにすり抜けていったのだ。
彼女は僕の体を通り抜けて、フェンスの間に手を掛ける。
「なん…だよ?これ……?」
僕の思考は、心臓が止まったかのように一瞬止まりかけた。
それと同時に、頭の中でゴロゴロと沢山の感情が入り混じり始めた。
「これはいったい、なんなんだよ!?」
切実に訴える、が
その言葉は、雨の音によってかき消されて、ただ僕は、その場で立ち尽くすだけだった。
そして、彼女が気を決したのか、フェンスを登り始めた。僕はその音を聞いて、すぐさま彼女の元に駆け寄ろうとするが、僕の伸ばした手は、言わずもがな届かなくて、そのまま彼女を見送ってしまう。
□□□
目覚めの悪い夢から、僕はやがて目を覚ます。気分が悪い夢だった。ただの夢だというのに、僕の頭にはその時の夢が鮮明に残っていた。もう一度寝たら、またあの夢を見ることになるのだろうか。そう思った僕は、布団から速やかに出る。気分を変えたいと思った僕は、外の景色を見るために、カーテンを開けた。
「うわっ。」
外は雨が降っており、もうほとんど暗くなっていた。まるで夢で見たあの時の光景と似ていた。
「ちっ…。」
思わず、舌打ちをする。
ふと、学校に目をやると、まだ明かりがついていることに気づく。ここはアパート4階、ちょうど学校の最上階と同じだ。だからこそ、学校に明かりがついている事に気づいた。
「まだ教員が仕事でもしてるのかな?」
僕は時間を確認するためにスマホを確認すると、時間の下に表示された履歴の方に視線が向く。どうやら少し前に、着信があったようだ。電話をかけてきたのは、水蓮だった。
「なんだろう?」
電話があった事を不審がっていると、ピロンッという音が手元にあるスマホから鳴った。それは水蓮からのメールだった。僕はなにかと思い、メールの中身を確認する。
「…なっ?!」
一瞬、思考が停止した。
僕は考えるよりも先に体が勝手に動いていた。僕は急いで外に出て、走った。そこに居るであろう場所へと……。
□□□
メールにあった、一通の手紙には。
『……ごめんね、さようなら。』
と、言葉がつづられていた。彼女はどういう気持ちでこれを送ったのか、僕には何一つわからない。でも、今行かないと、きっと後悔してしまうことは、なんとなくわかった。
あの時見た夢の景観。
暗い屋上、ザーザーの雨、彼女のメール、そして、紫のアネモネ。
全て、合点がいった。つまりあの夢は、僕に向けてのメッセージだったという事になる。
「はあ…はあ…はあ…。」
息を切らしながら、学校へと侵入し階段をかけ上がる。そしてやっと
屋上へと辿り着いた。
「やっと……着いた。」
どうやら、運良く屋上のドアが開いていたようだ。僕は呼吸を整えたあと、そこに居るであろう、彼女の名前を叫ぶ。
「水蓮!」
「……えっ?」
彼女は、どうしてここにいるのかわからないと言った表情で、僕の方を向いた。
「どうしてあなたがここに…?」
「どうしてってそりゃあ……。」
つい、言うのを躊躇った。
だって、君がここから飛び降りる夢を見たなんて、言えるはずがない。
信じてもらえるはずがないからだ。
「………なにもないなら、はやくどっか行って。」
そう彼女は、冷ややかに告げる。
僕は、どうすることも出来なくて、後ろへと後ずさろうとして。
ーー本当にこれでいいのか?
刹那、誰かが僕に問いかけて来る。それと同時に、僕の足は止まった。
ーーお前はこのまま、なにも出来ずに降りるつもりか?
『それは……。』
思わず口籠もる。だって、今のこの状況を打開できるものなんて無いからだ。
ーーもう一度聞こう。お前は本当にこれでいいのか?
『良くない。いいはずがない。』
切実に、そう言葉を吐く。
ーーでは、行け!
「水蓮!」
僕はまた、彼女の名を叫ぶ。
そして、彼女が振り返るより先に、僕は水蓮を包むかのように、胸の中に抱き留めた。
「なっ、何をするの?!離してよ!」
「だめだ!離すもんか!絶対に!」
僕は、さっきよりも強く抱きしめる。
「お前の中で、いったいなにが起きて、こんな事をしようとしているのか、僕には全然わからない!だけど、」
と、一拍を置いてから告げる。その、一言を。
「辛いことがあるなら!俺の胸で、思いっきり!吐けー!!」
今、彼女はどんな顔をしているのだろうか?僕にはわからない。だけど、僕の胸に顔を渦組ませて泣いていることは、分かった。
「ーーヒッグ…!…うぅぅ〜……。」
冷たくて、悲しい雨の中、彼女は全てを吐き出した。僕は静かにそっと、彼女の頭を撫でてやった。
ふと、彼女の手元に目をやると、紫のアネモネがキラキラと美しく咲いていた。
僕はその花の花言葉を知っている。
その花の花言葉は……。
『あなたを信じて待つ』
という意味である。
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