脳出血後のリハビリ習作・400字詰め原稿用紙1枚で何が書けるか(46)
脳出血後の失語症状リハビリとして、400字詰め原稿用紙(+α)に手書きしていたものです。
恥ずかしいミスがあってもそのままテキスト化しているので、誤字脱字やオチ不明等はご容赦を。
リハビリは現在も継続中です。
二月十二日
※三題:洋館、絵、ホタル火
『飛んで火に入る冬の虫』
「絵が光るものかよ。肝試しがしたかっただって? 馬鹿馬鹿しい」
A男は廃墟となった大階段の踊り場に立ち、腐りかけた絵画を仰ぎ見た。
『廃墟の洋館に残された絵画にホタル火が点るとき、訪れていた誰かが死ぬ』
そんな都市伝説があることくらい、A男も知っている。知らなかったのは、B美がA男と向かった理由だった。
「お前の親父さん、理系のエリートだろ。肝試ししたって聞いたら怒るだろうぜ」
A男は、B美に向かって毒づいた。オカルト信仰は不快だったし、B美から告白されると勘違いしたことも腹が立っていた。
「そんなことない! そのお父さんが言ってたの。燃えて死にたくないなら、あの洋館には近づくなって」
「お化けのせいで燃え死ぬ? ねえよ! ふざけるなっ!!」
絵を凝視し続けるB美に腹が立ち、A男は足元にあった古いトランクを放り投げた。重すぎたトランクは絵画に届かず、床に転がり落ち、そして……A男は言葉を失った。
ぶわっ、ぶわわっ。ふわりと輝いた燐光の中、肖像画は歪んで般若となった。
「ほら、幽霊はいたのよ……」
恍惚としたまま、B美は死んだ。A男の返事はない。もう、死んでいた。
B美は知らなかった。父がテロリストのシンパであるとも、トランクを持ち込んだことも、そしても込んだ物のことも。
盗まれたウランの光りで微笑むような幽霊などいない。
(終り)