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 その次の日のこと。


 荒々しく扉を叩く音でルカは目覚めました。窓から外を見れば、太陽はとっくに昇っています。いつもなら母さんが起こしてくれるのに、と訝しみながら起きあがります。


「さて、金は用意できたか?」

「いえ、申し訳ないですけれど。でも、あの子は何も悪くないんです……ですから、見逃してやってくれませんか? わたしなら、なんでも致します」

「俺は言ったよなぁ? 金が用意できなきゃ、どうなるかわかったもんじゃないぞって。それになぁ、ガキは金になんだぞ。あんたよりも、な」


 と、玄関の方から声がしました。昨日やってきた男と、母親が揉めているようです。

 ルカは扉に近づくと、そっと聞き耳をたてました。二人の会話は鮮明に耳に飛び込んできます。


「だいたい、昨日俺が散々教えてやっただろう? 逆らえばどうなるかはだいぶ身に染みただろうに、まだそんなことを言うのか?」

「だからこそ、あの子を辛い目に遭わせたくないんです。あんな大金は用意できませんし。ですから」


 母親はここで声量を落とし、けれど明確な意思で男に頼みこみました。


「あの子が起きる前に、わたしをはやく連れてってください。もう手紙も書きましたし、夫とあの子がいない世界に生きる意味もないようなものです。わたしだって、あなたの店で働けばそれなりに稼げるのでしょう? ほら、はやく」


 子を思うが故の献身、犠牲でしょうか。母親はこげ茶の瞳をめいいっぱいに見開かせて告げます。彼女は昨日の話を聞いてさらに、ルカには心配させたくないと考えていました。ルカに知られないように、幸せになれるように、と。


 けれどもそれは、母親の意図に反して彼の耳に届いてしまったのでした。


「母さんを、連れていかないで……!」


 気がつけば勝手に足が動いていました。ルカは部屋を飛び出し、玄関へと駆けつけます。そして、母親と男の間に躍り出ると、男の方を睨みつけました。


「ルカ、だめよ」

「おい、子どもの方から出てきちまったなぁ?」


 男は下卑た笑みを浮かべます。その瞳には嘲りと企みが映っていました。


「ルカ。あなたは部屋に戻ってなさい。ここは母さんがどうにかするから、安心して。――はやく、わたしを連れて行ってください」

「やだよ! 母さんを辛い目になんか遭わせたくないよ」


 親子が言い争う間に、男はゆっくりと二人の方へ近づいてきます。


「そんなにいうんなら、子供は連れてかないでやるよ。ほら、別れの挨拶でもしたらどうだ」

「……ありがとうございます。ルカ、母さんのことなら大丈夫だから。すぐに会えるわよ」


 そう微笑んだ母親は、隣に来た男の手を取ろうとします。しかし、


「だめだ‼︎」


 ルカが叫んだ瞬間、雷鳴が響き渡りました。轟音に怯んだ母親は後ずさり、反射的にルカの腕を掴みます。母親に腕をとられた彼は、目の前の光景を呆然と見ていました。その母親譲りのこげ茶の瞳に映し出されるのは、男が雷に打たれる姿。雷が家の天井を突き破り、前にいる男を焼く様子でした。


 その凄まじい稲光を直に受けた男は、自分の身に起きていることが理解できないままに事切れてしまったようです。けれど、彼が身を守ろうとする一瞬もなかったほどに、その稲妻は突然だったと言えるのでしょう。表情にはあさましい謀を残し、目はだらしなく見開いたままに、男は玄関に身を横たえています。いつのまに降り始めた雨は土砂降りとなっていて、絶え間なく男のもとに水が降り注ぎます。


 親子は自分たちが前にした光景をただただ見つめていました。


「まぁ、災難ね」


 同じく現状を理解できずにいた母親がそっと呟きました。そんな現実から逃れるような言葉を放った彼女にルカが向き直ります。


「母さん。あれ、ぼくがやったんだと思う」

「……え?」

「母さんがぼくのことを考えてくれてたのはわかるけど、やっぱり母さんがあいつに連れてかれるんだって思うとやっぱり、ぼく、耐えられなくって。あのとき、とりあえず母さんを守るんだって、それだけで頭がいっぱいだったんだよ。そしたら、次に頭の中が真っ白になっちゃって、気づいたらあいつに雷が降ってたんだ」


 豪語する息子に彼女は懐疑的に訊ねます。


「偶然よ、きっと。そういう奇跡の力、今まであなたは使えなかったじゃない」

「ううん。これがきっとあの人のおくりものなんだよ! あの人はぼくに奇跡の力をくれたんだ!」


 ルカはその手に雷光を纏わせてみせました。


「母さん、奇跡の力を持っていればお金持ちになれるんでしょう? これからはぼくが稼ぐよ、だから安心して!」


 無邪気に喜ぶ彼の姿を、母親は心配そうに見つめていました。

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