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お店を出すために



 改めて、お店を出すと決めたヒスイ。だが、それを決めたからといって、はいとすぐにお店を出せるわけでもない。


 いろいろな手続きがいる。なにより……



「国王様が、許してくださるとは思えません」



 と、アニーシャは言う。国王とは、ヒスイをこの世界に召喚した、人の皮を被った鬼である。限定ラーメンを食べる寸前だったヒスイをこの世界にした、極悪人。


 なのでヒスイは、その人物の許可なんかいらないと思っている。



「ですが……やはり、国内にお店を出す以上、最終的には……国王様の決定が、絶対になってくるので……」


「よしじゃあ今すぐぶん殴ってお店を出すよう交渉しに行こう」


「やめてください!?」



 もはや交渉ではなく恐喝しに行きかねないヒスイを、アニーシャは必死に止める。考えてみれば、今の状況は非常にまずい。


 ヒスイはただでさえ、異世界召喚に納得できないとして、国王の顔面をぶん殴った上、城の兵士をバッタバッタなぎ倒したのだ。それでもヒスイが捕まらないのは、ひとえに勇者として扱われているからだ。


 もちろん、勇者だからといってなにをしていいわけでもないが、勝手に召喚したと言うヒスイの訴えも最もなので、多少の暴挙も見逃され受け入れられている。


 しかしそこへ、"お店を出したい"などと言ってみたとしよう。それはつまり、魔王退治なんてしないということだ。そうなれば、国王はどんな対応に出るかわかったものではない。


 勇者だからと見逃されていた不敬罪により、捕まるかもしれない。ヒスイは簡単には捕まるつもりはないが……それでも、確実なものはない。


 よって、国王にお店を出す許可をもらうのは、ほとんど不可能ということになってしまう。



「うーん……内緒で出すっていうのは?」


「バレないわけがないでしょう」



 国王に許可をもらわなければいけないとはいうが、内緒で作ってしまえば問題ないのではないか……その意見は、すぐさま却下される。


 国王の申請が通っていない店など、見つかるのは時間の問題だ。この国は治安がいいが、ゆえに国に内緒でなにかを為すのは難しい。



「ちっ、ダメか」


「なんだか悪人みたいな考え方になってますよ」



 国王への許可をもらうには、どうすればいいか。それはほぼ、無理な話だろう。


 国王、いや勇者(ヒスイ)を召喚した側の人間からすれば、いっこくも早く魔王討伐に向かってもらいたい。なのに、よりによってお店を出すなどという、国を発つのとは真逆の行為をしようというのだ。


 そんなもの、受け入れられるはずがない。だからといって、はいそうですかと納得もできない。さて、どうしたものか。


 こうなれば、ダメ元でお願いしてみるか……



「いやしかし、私は先ほど魔王様にお願いして、進軍を止めてもらいました。それではダメなのですか?」


「その言葉を、国王様が素直に信じてくだされば問題はありません。ですが……」



 魔族の言うことなど、信用できない……きっとそう一蹴されると、アニーシャは告げる。それに、なぜこの場に魔族がいるのだと、ジェイドが殺される可能性だってある。



「あのおっさんだって、ジェイドのことを知ってくれれば納得してくれるかもよ。だってジェイド、こんないい人……魔族なんだし」


「あっはは、嬉しいですねぇヒスイ」



 勇者(ヒスイ)魔王軍幹部(ジェイド)は、すっかり仲良しだ。本来交わることのない両者が、こうして仲良くしている姿を見ると……なんだか、不思議な感覚がある。


 もしかしたら、という可能性を、感じさせられる。しかし……



「それでも、国王様はお認めにならないと思います」


「なんでさー」


「国王様は、魔族という存在を憎んでいらっしゃるからです。ですから、魔王軍を討伐しようと、策を労しておられるのです」


「魔族を、ですか?」


「えぇ。国王様は昔……」


「いや、いいいいあのおっさんの過去は。興味ないから」


「魔族に……えっ」



 ヒスイにとって重要なのは国王の過去ではない、いかにしてお店を出すかだ。そのために、できることは……


 そのヒスイの肩へ、ジェイドが手を置く。



「なら……私が、国王と話してみますよ。魔王軍の進行を止めたので、お店を出させてくれと。そして魔王様に頼んでみます……ヒスイのお店で出したものが、口にあえば……人々に危害を加えないことを、約束していただきたいと」


「え……」



 そう語るジェイドの表情は、キリッとしていた。さっきまでの変態と同一人物とは思えないほどに、かっこいい。


 魔族を憎む国王に、自ら進言するというのだ。さらに、魔族の頂点に立つ魔王にも、同じく進言……いや、約束を取り付けると。


 さすがに、ジェイドでも無事に済まないのではないか。ヒスイの額に、冷や汗が流れていた。

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