ラーメン作り開始
火属性の魔法を持つヒスイ、水属性の魔法を持つジェイド……二人の共同作業んにより、ついにラーメン作りはスタートする。
魔法を使えないアニーシャには、もはややることはない……なんてことはない。むしろ、料理なんて魔法を必要としないもの……ただ便利にするだけで、必要不可欠ではないのだ。
それに、ヒスイが目指すのは、万人に美味しいと言ってもらえるような料理だ。異世界の人間、魔族……二人に受け入れられてこそ、真の料理というもの。
「ヒスイ、キミは料理が得意なのですか?」
「あっはは、得意ってほどじゃないよ。趣味、って言った方がいいかも」
ヒスイにとって料理とは、趣味。常に、というほどではないにしろ、暇があれば料理の勉強をしたり、普段自分が食べているものにどんな味付けをしたらもっと美味しくなるか考え、実際に試す。
ヒスイは食べるのが好きだが、作るのだって好きなのだ。そしてその作ったものは、なかなかに評判でもあった。
「うーん、あれは……そうだ、これで代用して」
そのおかげか、ラーメン作りは滞りなく進んでいく。元いた世界とこの異世界では、世界自体が違うために、まったく同じ調味料、品物など存在しない。
しかし、似たもので代用することはできる。そのため、ヒスイは頭の中にある知識をフル活用し、料理を仕上げていく。
アニーシャやジェイドに、この世界のこの食べ物についてを聞き、元いた世界のなにと一番近いか、考える。考えて、その上で行っていく。
「おぉ、いいにおいですね……」
スープの香りが、辺りを包み込んでいく。それを嗅いだだけで、ジェイドは涎が垂れそうになるのを堪え、アニーシャは丸い尻尾をふりふりと振っていく。感情が隠しきれていない。
その尻尾に触れようとしたジェイドであったが、アニーシャの耳によってビンタされ、阻止される。しかし耳ももふもふであるため、心なしかジェイドは嬉しそうだ。
そんなこんなで、スープにゆで上がった麺が投入され、チャーシュー、野菜と続々入れられていく。
「……よし、完成! 異世界初記念、醤油風ラーメンの出来上がり!」
額に流れる汗を拭い、ヒスイは笑みを浮かべる。それは、異世界で初めて作られた、異世界の料理……ラーメンの誕生であった。
それを見たアニーシャもジェイドも、目を輝かせている。香りもさることながら、まるで麺が光っているように感じられるからだ。
「こ、これは……」
「美味しそう……ですね」
自身の進めたお店の評価が酷評だったジェイドでさえ、目の前の料理に正直な感想を抑えきれない。
香りを嗅ぐだけで、お腹の音を抑えることができない。
グギュルル……
キュルルル……
しかし、鳴ったお腹の音は二つあった。その一つはジェイドのものであるが、もう一つはヒスイのものではない。確かに彼女も、我ながら美味しそうなラーメンにすぐにでも食いつきたいとはいえ。
となると、残るは一つ。
「ん……」
俯き、顔を赤らめるアニーシャのものだ。彼女は、恥ずかしげに耳を垂れさせている。かわいい、もふもふしたい。
「ジェイド、顔」
「ん、んん!」
顔に出てしまっていたのをごまかすように咳払いするジェイドであるが、それはもはや意味がない。二人からの冷たい視線を受けている。
「ま、いいや。さ、まずは二人とも、食べて食べて!」
ジェイドのだらしない顔は置いといて、自信作を冷めないうちに、食べてもらわなければ。ラーメンは、熱々が美味しいのだ。
冷めては、麺も伸びてしまい美味しさ半減だ。
「えぇ、ではさっそく」
「は、はい」
作ったラーメンは三杯。この場にいる三人のものであり、ヒスイも早く食べたいが、まずは二人に食べてもらい、感想を聞いてみたい。
二人も、もはや待ちきれないようだ。ヒスイと同じくグルメであろうジェイドはもちろん、あれだけ料理作りに呆れていたアニーシャでさえ楽しそうだ。
尻尾や耳が、もふもふ動いている。
「体は正直だね……」
「「いただきます!」」
すでにヒスイの言葉は、耳に入っていない。ジェイドはスープから、アニーシャは麺から口にそれぞれ、運んでいく。
ズズッ……
ジュルルッ……
スープを啜る音が、麺を啜る音が……辺りに、響いていく。