胃袋を掴め
「んんむ、おぉ!」
「これは、なかなかどうして……」
「おい、まだあるか!?」
……ヒスイとジェイドの作った料理、ラーメン。それは結果的に言えば、魔王含め魔族たちに大盛況であった。
この世界に存在するものよりもおいしく、その上魔族はそもそもラーメンのようなものさえ食べたことがなかったらしい。その物珍しさは、すぐに彼らの心を掴んだ。
ついさっきまでヒスイたちを小バカにした様子だったというのに、今や夢中で食事をしている。一つ残念なことがあるとすれば、用意した器が半数以上の魔族には小さすぎたことだろうか。
人間サイズのそれは、人間サイズの魔族にとってはちょうどいいものだが……ここにいる魔族は、人間より一回りか二回り大きい。場合によっては、もっと大きいものも。
だが、体のサイズは違っても、味の好みという問題を除けばみな同じだ……食べ物に対する、気持ちは。
おいしいものを食べたい。ただ、それだけ。
「んん、んめぇ、んめぇ」
「それにあったけぇ……いつぶりだろうな、こんな料理食べたの」
凶暴だった魔族が、田舎のおっかさんを思い出すような、遠い目をしている。中には涙さえも流しているではないか。
それは、まさしくヒスイの望んだ光景だ。
「うんうん、これでいいのだ」
殺気だっていた魔族たちはすっかりおとなしくなった。みんなに料理を配った作業で疲れたアニーシャとペイは休んでいるし、ジェイドはどこか誇らしげだ。
だが、ヒスイの目的は魔族に料理を食べさせること……その先にある。
「さてさてさて。魔王さんや、ちょっといいかい?」
「んん?」
満足げにラーメンを食べていた魔王へと、話しかける。先ほどまで黒いシルエットしか見えなかったが、なんだか毛並みが見える気がする。
もしや、毛深かったりするのだろうか。だとすると、ジェイドのもふもふ対象になりそうなものだが……まあ、それは置いておいて。
ヒスイがこうして料理を振る舞ったのには、理由がある。
「……ふむ、なるほどな」
ヒスイの料理が美味しいと感じたら、人里を襲うのをやめてくれ……要は、こういうことだ。
ちなみに魔王始め、魔族はヒスイと国王との勝負を知らない。だから、訳もわからないまま、二週間もこの場に留まっていたわけだが……
「ははは、面白いな小娘。ふむ、確かにお前の作ったものは最高だった。このまま人里を襲えば、もうこれが食べられんのか……それは痛いなぁ」
と、考え込む仕草。男の胃袋は料理で掴め、と母から教わったヒスイは、いつの間にか魔王の胃袋も掴んでいた。




