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拳でじゃない、料理で



 魔族からのヤジを受けながらも、ヒスイとジェイドは調理を進めていく。



「ねえ、なんか魔王の姿シルエットだけで姿がよく見えないんだけど」


「そういう仕様です」


「ふーん」



 そんな会話をしながら、二人はラーメンを作っていく。ヒスイが、三重を出そうと決意するに至った、料理を。


 ちなみに料理が出来るまでの間、アニーシャとペイが魔族を飽きさせないためになんかやってくれている。ありがたいことだ。



「ああああの、えっと……」


「はわわわわ……」


「なんだよこの二人、ビビりまくって足が震えてんじゃねえか!」


「ぎゃはは!」



 ……どちらかというと、遊ばれているだけのような気もするが。


 元々、店ではウェイターのような存在だったわけだし、料理は作れないのでやることがない。だから、なんとか魔族に暇を感じさせないために、しているようだが……


 聖女であるアニーシャはともかく、ペイにとってはジェイド以外で初めて目にする魔族。しかもこんなにたくさん。もう泣きそうだ。


 これは急ピッチで、料理を作らねばならないだろう。そのために……



「この二週間鍛え上げた技を、見せてあげるよ!」



 ヒスイはこの二週間、料理のスキルだけではなく、その速度も上昇した。いかにお客さんを待たさないか、それを考えて。


 思い出せばほら、懐かしい日々……



「へいお待ち!」



 懐かしい日々を結局思い出す暇もなく、とりあえず一人前完成。スールに関しては、実はここに来るまでの間にことこと煮込んでおいたので、味はバッチリだ。


 最初の一杯はまず、魔王から。茹でた麺、チャーシュー、野菜諸々を入れ、完成したラーメンを差し出す。



「……なんだこれは」


「ラーメンです」


「食べて見て下さい、魔王様」



 魔族にとっては、初めて見るらしき食べ物。それを訝しげに見つめる魔王であるが、ジェイドの進めもあってか、それに手を伸ばし……



「! あっつぁ!」


「あぁっ、ダメです魔王様! 箸を使わないと!」



 熱々のスープに手を突っ込んだ魔王は、その姿がはっきりしないにも関わらず涙目になっている。瞬間凄まじい殺気が出た。


 慌てたジェイドが箸を渡し、事なきを得るが……ちょっとした先制攻撃だと、思われなかっただろうか。


 そうか、魔王は箸なんて使わないよな……ヒスイはぼんやりとその光景を。アニーシャはハラハラしながらその光景を。ペイは今にも気絶しそうでその光景を、それぞれ見つめていた。



「ふむ……毒などないだろうな。まあそんなもので、私を殺すことはできんがな」


「やだなー、愛情込めた料理に、そんなもの仕込みませんって。料理への侮辱ですよ」



 料理に関して、真摯に望むヒスイ。それは、たとえ人間相手だろうと魔族相手だろうと変わらない。それに、仮に毒なんて仕込んで魔王を殺したとしても……たった四人で、この魔族の軍勢から逃げ切るのは不可能だ。


 ヒスイは、確かに戦いに来た。だがそれは拳でじゃない、料理でだ。



「ふん……まあ、食うだけ食ってやる」



 腹も減ってるし、と、魔王は不馴れな手つきで箸を使い、麺をすすっていく。なんだかんだ食べてくれるんだとありがたく思いながら、ヒスイはその光景をじっと見つめて……



 ズズズッ……

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