料理で心を動かしてみせるからとまるんじゃねぇぞ
ヒスイ様が、変なこと考えてる……その予感は、確かに当たっていた。当たってはいたが……その内容は、斜め上過ぎた。
「私が交渉するよ、魔族……いや魔王と。私の料理を食べてもらって、その舌を唸らせてやる! 『お、この料理マジんめぇわおほほほんまんまぁへへへ人間襲うのやめるわぁ』って言わせてやる!」
「まっ……魔王と交渉……!?」
「料理で、魔王を黙らせようって言うんですか!?」
「ヒスイさんすごい……!」
「魔王様はそんな品のない喋り方はしない」
ヒスイの考えたこと……それは、彼女の言葉通り。名付けて『勇者の料理で魔王の胃袋を掴んじゃうゾ』作戦だ。
「だせぇ」
「おい誰だ今ださいって言った奴! 聞こえたかんな!」
驚く国王、アニーシャ、感激するペイ、無表情のジェイド。兵士たちからも、ざわめきの声が聞こえる。それはそうだろう。
魔王とは討ち倒すべき存在で、料理で唸らせるなんて考えたこともなかった。というか……
「無理じゃ、無理に決まっとる!」
そもそも、そんなことできるはずがない。と、国王は首を振る。兵士の大半も、同じ考えのようだ。
「なんで」
「いや、なんでって……こっちの台詞だ。だいたい、魔族なんぞに料理の良し悪しなどわかるはずが……」
「ここにいるジェイドくんも魔族なんですけどォ?」
「くっ……」
人間と魔族では、味覚が違う……その通りだとは言い切れないが、少なくともヒスイとジェイドが共感し、互いの料理が好評な時点で、似た感性は持っているはずだ。
ならば、たとえ魔族の頂点たる魔王であっても、舌は変わらないはず。
「いや、しかし……無理じゃろう、そんなこと普通に考えて」
「どのへんが無理なんですかァ」
「どのへんって、そもそも料理なんかで魔王軍の進行が止まるわけが……」
「現に今止まってるじゃないですかァ。もっと説得力のある理由くださいよォ。30文字以内でェ」
「その語尾変に伸ばすやつやめろ! イラッとする!」
ともかく……どのへんが無理かと言われると、国王も言葉に詰まってしまう。舌の問題は解決したし、他は……無理だと、最初から思っているから、だろうか。
「それに、元々はジェイドのお願いのおかげで進行は今止まってるんだし、私の約束が勝てば説得して帰ってもらうつもりだった。説得するのが私で、材料が直接食べさせることになっただけだよ」
「ぬぅ」
「人の心を動かせたなら、魔族の心だって動かせる。みんなを見て、そう思ったんだ」
ヒスイの瞳は、輝いている。料理は、心を動かせる……人々が、そして魔族であるジェイドが、一体となれたのがその証。
きっと魔王と呼ばれる存在とだって、わかりあえるはずだ。
「……やはり、危険じゃ! 相手は魔王、その配下もごろごろおるじゃろう。いかに勇者殿といえど、召喚されてからこっち料理ばかりしていたのでは……」
「あー」
ヒスイの知る勇者は、異世界に召喚されてから、仲間を集めるなり武器を得るなり……自らのパワーアップを、図って行動している。そりゃ召喚されてチート能力を得た勇者もいるだろうが、それだっていきなり魔王にカチコミにはいかないだろう。
……だとしても。
「ま、なんとかなるでしょ」
「おぉっ?」
「これでも勇者として召喚されたってことは、まあそういう才能があるってことでしょ。なんとかなるなる」




