約束の果てに
「料理店、ユウシャの家。……その成果は、この国一番の売り上げ……ではありません」
「……っ」
読み上げられた、ユウシャの家の実績……それは、約束にある国一番の売り上げを出す、というものは果たせなかったという事実。
ヒスイの、四人の意気込みもむなしく……納得する成果を得るには、至らなかった。
「そんな……」
「くっ……」
始めこそムリムリギャーギャー言っていたアニーシャだが、店を続ける内に……本気になっていたようだ。それは、共に料理を作ってきたジェイドも同じこと。
ヒスイはなにも言わず、ただ立ち尽くしている。
「……これが結果だ。約束通り……」
「うん……約束は守るよ。お店は畳む、魔王退治に出かける」
「え、え?」
二人の、やり取り。それを見て、困ったようにペイがキョロキョロしている、ペイは、なにもヒスイと国王の間の約束を、知らなかったわけではない。知らなかったから、困ったようにしているわけではない。
その、やけにあっさりとしたやり取りに……困惑しているのだ。
「あの、ヒスイさん。ほん、ホントに……? お店、やめちゃうの……」
「……約束、だからね」
この国で一番の売り上げを上げられなかった……そのため、これにてユウシャの家は終了。そういう約束であるため、ヒスイはあがくことはなかった。
それを断言された瞬間、ペイの耳は垂れ……泣きそうに、なってしまう。その頭を、ヒスイが撫でる。
大泣きすることはないが、すすり泣く声。ぐすぐすと、ひっくひっくと、声を押し殺したものが響く。
交わされた約束の結果。そのはずなのに、国王や兵士はなんか悪いことをしている気分になった。
「むぅ、勇者殿……」
「なんであなたが気難しい顔してるのさ。わかってる、約束は守るよ。私からわがままを言うつもりはないし」
ヒスイにとっても、すでにわがままを通した結果がこれだ。不可抗力でヒスイにははた迷惑この上ないとはいえ魔王討伐のためにこの世界に召喚された。この世界での料理に絶望した。だから、自分がお店を開きたいと思った。
わがままを遠し、その上で賭けには負けた。だから、悔いがないわけではないが……諦めは、ついた。
「じゃ、早速準備しに帰るよ。パーティーメンバーは、そっちで用意してくれてるんでしょ?」
「あぁ。ゆっくり体を休めてから、出発するといい」
この先どうするか、どうやって出発するか……それはまた、もう一度ここを訪れたときに話し合うとしよう。今はとりあえず、この三人のケアが優勢だろう。
そう思って早々に、ヒスイは三人を引き連れて、城を出ようとして……
「……ん?」
城の外で、なにやらわーわー言っているのが聞こえた。これは、一人や二人ではない。その異常に、国王も眉を潜めて……
「どうした」
「そ、それが……国民が城前まで押し寄せていまして。ざっと百は越えているかと……」
「何事!?」
百を越える国民が、城へと押し寄せているというのだ。なにが起こっているのかと、ヒスイたちは国王含め、外が見える場所へと向かう。
そこには、確かにかなりの数の国民がいて……何事かを、叫んでいる。
「なんだというのだ、これは……」
「それが……どこから漏れたのか、勇者殿が国王様と賭けをしていて、それに負けたら店を畳む約束をしていたことを聞き付けた者が、やめさせるよう抗議しているようで……」
壁に耳あり障子に目あり、とはヒスイの世界の言葉だが……城の中でしか知られていないはずの約束が、国民にまで伝わっていた。
しかも、ユウシャの家をやめさせるなと……そう、抗議をしに来たというのだ。こんなにも、たくさんの人たちが……
「ユウシャの家をやめさせるなー!」
「ヒスイちゃんの料理が食べたいんだー!」
「もっと料理作ってくれよー!」




