約束は約束だからどうなるかわからない
国王との約束から、あっという間に二週間が過ぎた。一週間前に、城の兵士と思われる三人がやって来て以降、あの三人以外にも城の人間がやって来ていた。
人の噂というのは怖いもので、あの三人が国王への報告以外に、他の人間にも話したのだろう。ユウシャの家の感想を。
あそこの店は美味しい。そう、一人から別の一人へと伝わるだけで、効果は絶大だ。別の一人が、また別の一人へと、また別の一人へと見せの感想を広げていく。
人から人へ、見せの評判は伝わる。おかげで、ユウシャの家は毎日大盛況だ。
異世界の人間が出す料理、聖女が笑顔で働いているお店、かわいらしいクマさんを見て癒され……さらに、嘘かまことか魔族と共に料理を作っているのではないかという噂も。
ジェイドが魔族であることは、当然誰にも言ってはいないのだが……これも、人の噂によるものだ。兵士の誰かから漏れたか、魔族の気配でも察知できる誰かが漏らしたか……
本来なら、魔族がいるお店なんて立ち寄りたくもないのが人の性だ。だが、それと食欲、それにあの勇者が魔族と仲良くやっているというのは大いに人々の興味を引いた。
「お待たせしました、もふもふのお客様。こちらあつあつのスープになります。お熱いので、私がふーふーして食べさせて……」
「だからあんたは料理!」
実際に言ってみると、魔族と思われる店員は俗に言うイケメンだった。そして変態だった。
勇者が、聖女が、子供すらも……魔族と共に働き、笑い合っている。その光景が、人々から魔族に対する恐怖を取り払っていた。
それに、あの魔族面白いという話題もあった。変態という問題だけではなく……
「うひゃー、すごい人! 手が回らないよ!」
「ふふ、なら……これで、どうですか?」
「え……わ、なにこの黒い人影。え、影?」
「そう、私の魔法は影を操ることもできるのです。これで、足りない人手をカバーしましょう」
「わー。すごーい!」
「確かにすごい……でも、こんなことができるなら先に言え!」
「顔面がは!?」
「あれ、停電?」
「暗くなっちゃた!」
「ふふ、心配ご無用。これは私の闇の魔法で一時的に店内を暗くしただけのこと……ちょっとしたサプライズで……」
「紛らわしいことをするな!」
「顔はやめて!」
このように、毎日毎日勇者とのコントが繰り広げられ、客たちを飽きさせない試みも行われていたのだ。
ちなみにこれは、本人たちの中ではコントではなくマジである。
ユウシャの家は、勇者がやっている店だ。まさかそんなところで食い逃げをするなんて輩はまさかめったにいないが、それでも少しはいる。
そんなときは……
「いで、ででで! わ、悪かった! ちゃんと金は払うから、離してくれ!」
「おきゃくさーん、あれだけ食べといて払わないなんてそりゃないでしょ」
「だ、だから悪かったって! もうしないから!」
「料理に感謝もできないような奴は、燃やすぞ!」
「それとも私の氷で氷漬けになりますか?」
「二人共待ってー!」
……おかげで、店内だけでなく周辺での騒ぎもなくなった。騒げば、店から勇者と魔族が飛び出してくるのだから。
本人たちの意識していない所で、治安が悪かったのを良くしてくれていたのだ。
客の数は増え、そして客たちにとってはもはやなくては困るほどに、ユウシャの家は大きくなっていた。しかし、約束は約束。
約束である、売り上げ一番を守れなければ、このお店はたたむことになる。
「……さて、行こうか」
今日が、その日。ヒスイたちは、城に行って国王と話をするために、出発の準備を終えていた。




