お◯だけ
気持ちの悪い男が連れていかれ、騒がしかったのがやむ。あれは聞くところによると、魔王軍のそれも幹部に位置する存在らしいが……
「あんなのが……?」
もし魔王軍があんなのばかりなら、自分たちでも勝てそうだと、サード、グラエム、ピサラの三人は思う。
と、まあとりあえず今は、並べられた品を見つめていく。
「こ、これが……」
ピサラだけでなく、サード、グラエム、の注文した品も届けられ、三人分の品が並ぶ。
初めて見るもの、だ。だが、似たものは見たことがある。この店ではそれぞれ、サードの頼んだものをカレー、グラエムの頼んだものをうどん、ピサラの頼んだものをミートスパゲティと言うようだ。
どれも、ほかほかに湯気が出ていて、思わず腹が鳴ってしまうほどに美味しそうな見た目をしている。
「せ、先輩、はしたないですよ。今お腹が鳴ってましたよ」
「お、お前だって、一応女なんだから、もう少し慎みってものをだな……」
皿に乗った料理を覗き込み、三人は唾を飲み込む。これは、あくまで任務……この店の、料理の味を調べ、報告するという任務。それだけだ。
別に、お店の邪魔をしろとか、悪評を広めろとか、そんな任務ではない。単純に、料理の味を報告するだけのものだ。
だから、ここはただの一客として、食事を楽しもうではないか。
「……楽しむ、か」
とにかく、実食あるのみだ。あれこれ考えるのは、それからでもいいだろう。三人は、目の前から漂う美味し気な香りに、生唾を飲むのを抑えられない。
そして三人、同時に食器を手に取り……食べ物を、口へと運んでいく。
一口食べた、その瞬間……
「……!」
「おっ……」
「ふぁあぁああ……っ」
三者三葉の、反応。しかしそのどれもが、恍惚とした表情を浮かべている。
全身を駆け巡る、この感覚……まるで、体の内側から喜びが弾けださんとするばかり。今まで、なにかを食してこんな反応になったことなど、ない。
たとえるならばそう、内側からのエネルギーが抑えられず、身に纏っている服が全部破けてすっぽんぽんになってしまうほどにエネルギーが爆発してしまったかのような……
「んーっ、よくわかんない表現が……」
「あぁ、なんというか……」
「言葉に出来ないってのは、まさにこのことだな」
三人は互いの表情を確認した後、再び料理を見つめる。自分たちの任務は、ユウシャの家の料理の味を調べてくること。だから、別に出された料理を完食する必要はない。
必要は、ないのだ。
「だ、だけど……まあ」
「あぁ、せっかくの料理だ……残すのは、もったいないしな」
「責任取って、全部食べましょう」
これは任務ではあるが、正直な話、もしも出てきた料理がまずかっら……完食するつもりどなかった。任務ではあっても、必要なのは味の報告。だから……
完食するのは、完全に個人的な感情だ。
「……っ!」
その後三人は、夢中で食べた。口の周りに汚れがつくのも気にせずに。久しぶりだ、マナーを気にせずに無我夢中で食べたというのは。
「うまい、うまいぞ……!」
「あぁ、あつあつなのに手が止まらない……!」
「身に染みわたるー!」
ここの店員は、変なのがいる。だが、料理の腕は本物だ。店の前に行列ができていないのが不思議なほど……
そう思って、ふと外を見る。すると、すでに人の行列ができあがっていた。
「……!」
自分たちが来たときは、たまたま行列が』途切れていただけだったのか……それを口にする時間すら、惜しい。手間すら、惜しい。
今はただ、目の前の食事を続けていたい! 三人の頭の中は、今はそれだけだ。




