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その店の評判は



『メニュー?』


『そう。お店がおすすめする料理を、書きまとめたもの……それを、作ろう。ジェイドに案内されたお店は、基本的に料理の名前が書かれたものが立て札としてかけてあるだけ。そういうお店もあるけど、やっぱり人の目を惹くには、手に取って見れるものじゃないと』


『ふむ、悪くない案です。実際、どこのお店も同じような方法で料理名が記してあります。他と違うことをするだけで、まず集客は見込める』


『それだけじゃなく、写真……はこの世界にないから。絵かな』


『この世界?』


『うぉっほん! とにかく、絵を描ける人はいるかな?』


『あ、私描けます! 上手では、ないですけど』


『いいよいいよ、なにかわかればいいからね。ちなみにこれ描いてみて……うま! うまいじゃんペイちゃん! プロ並みだよ! よし、メニューに書く料理の絵は任せた。オリジナルさえ作れば、あとは魔法で複製できるしね!』


『ふっ、お任せください』


『アニーシャは、店員としてのイロハを学ばせてもらうね!』


『えぇ!? 私、店員なんて……』


『この中で、一番従業員……いや物腰が丁寧なのって、聖女であるアニーシャが適任なんだよ。だからよろしくね!』


『えぇえ!』



「いらっしゃいませー!」



 話し合いの前の時点から、アニーシャとペイが接客というのは決まっていたことだが、ペイのお手本となるように努めるよう言われたアニーシャは、余計にプレッシャーを背負っていた。


 常に聖女として立ち振舞いには気を遣ってきたが、まさか接客のお手本となる日が来るなんて。そんなこと、思いもしなかった。


 だが、さすがは幼い頃より数々の姿勢を学んでいるアニーシャ……その立ち振る舞いは、長年働いてきたかのよう。ペイもペイで、吸収力が高い。


 そして、なにより注視するは……



「はいっ、チャーハン出来上がったよ!」


「こちらも、らーめん上がりました!」



 たった二人で、満席に近い店内の客一人一人の注文をこなす二人の人間。アニーシャとクマの接客も大したものだが、料理を作っている二人は一度聞いただけで、手早く作っていく。


 それは店内へと香りを伝え、注文した客以外の客の空腹も誘っていく。店内は、一気に大盛り上がりだ。



「こ、これは……」


「あぁ、すごいな」



 店内の盛り上がりもさることながら、このメニューに描かれた絵のうまいこと。


 そして、周りの様子を見ていると……どうやら、この絵と実物のものに大差はなさそうだ。つまり、この絵の通りの料理が出てくるということだ。


 それは、どれも美味しそうで……



「よ、よし……俺は、これにする」


「俺はこれだ」


「私はこれでー」



 サード、グラエム、ピサラ。それぞれが注文する料理を決め、ボタンを押す。どういう原理だろうか、ピンポーンと音が響いていき……



「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」



 先ほどの、クマの少女がやって来た。



「ええと……これと、これと、これを」


「はい……かれーと、おうどんと、みーとすぱげてぃですね。少々お待ち下さい」



 聞きなれない言葉を言ったあとに、店員は大声で「かれー、うどん、みーとすぱげてぃ一つずつぅ!」とその場で調理場にいる二人に叫ぶ。


 その見た目で、まさかこんな大声を出すとは、驚きだ。


 その後も、人が出ては入ってきて、出ては入ってきてが繰り返していく。どうやらこのお店、それなりに繁盛はしているようだ。


 だが、それだけだ。一週間でそれなりに繁盛しているようでは、とても残り一週間でこの国一番の売り上げを上げることなどできないだろう。



「……むっ! すまないヒスイ、ちょっとこれ届けてくる!」


「はぁ!? ちょっと待てぇ!」



 ……調理場からなにやら慌ただしい声が聞こえたあとに、誰か一人が出てくる。それは調理をしていた二人のうち一人の男だ。手には、盆に乗せた品物を持って運んでいる。


 はて、なぜわざわざ作っている人が、運んでくるのか。アニーシャや、あのクマの子の役目ではないのか。というか、聞いていた話から察するにあの男魔族ではないのか。


 男は、注文したサードらのテーブルへとやって来て。



「こちら、ご注文のみーとすぱげてぃでございます、お客様」



 みーとすぱげてぃを頼んだピサラの前へ、品物を差し出した。



「え、あ、ありがとう。けど、どうしてこれを私が頼んだって……」


「見てましたから」



 ……瞬間の、静寂。先ほど注文を直接聞いていたクマの子ならともかく、調理場にいたはずのこの男が、わかるはずがないのだ。


 三人とも、それぞれ別の品物を注文した。誰がなにを頼んだかピンポイントで当てるなんて、三分の一の確率だ。


 が、今の台詞は、おかしい。偶然なんて言葉では片付けられないくらいになにか、はっきりとした断言があって……



「貴女のような、美しい女性の注文したものなら、どんな遠くにいても聞こえますよ」


「えっ……美しいなんて、そんな……」


「えぇ、この美しい毛並み……あぁ、桃色に輝く毛一本一本が、芸術品のように素晴らしい。それにこのもふ度……あぁ、いぃ!」



 男の言葉に顔を赤らめるピサラであったが……直後の行動に、固まってしまう。手をとられるまではまだいいが、手の甲をめちゃくちゃ触られる。


 揉んでいるというか、撫でているというか……とにかく、やらしい手つきで触ってきて……



「アニーシャぁ!」


「せい!」


「あぁっ、離してくれ! うぉあぁ!」


「ペイちゃんお願い!」


「あ、はいっ。えいっ」



 アニーシャが、すぐに男の首根っこを掴みその場から引き剥がす。そして、暴れる男の顔に、ペイがパンチ……それは、クマのもふ手による、もふもふパンチ。


 ぽふっ、と、もふパンチをくらった男は、暴れていたのとは一転、恍惚そうな表情を浮かべている。気持ち悪い。



「戻ってきなー」



 変態的な男の行動と、それに対して手慣れた様子の三人の店員。なんなんだ、この店は……本気でそう思う、サード、グラエム、ピサラであった。

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