表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

ユウシャの家開店



 まずは、店内の飾り付け。四人で取りかかれば、あまり時間をかけることもない。それに、この家はペイが一人で掃除できるほどの広さ……広くはないが、狭くもない。


 それに、アニーシャは聖女としての振る舞いを幼い頃から叩き込まれているため、なにをどこに置いたら見映えがどうか。そういった目を養っている。聖女あまり関係なかった。


 ペイも、掃除好きということでてきぱき動いてくれる。指示したことをちゃんとやってくれるし、配膳係としての的確さも、すでにあると言える。


 問題は……



「あぁ、美しい……あの水色の毛並みが、動く度にふさふさと揺れて。それに、あの白いもっふもふの毛並みも、あぁあんなに魅力的に、甘美に私を惑わして……あぁっいけませんいけませんよぉぶべら!」


「いけないのはお前の脳内だ!」



 さっきから、この男はなにをしているのか。せっせと働くペイ……の毛並み……とアニーシャ……の毛並み……を見て、恍惚とした表情を浮かべているではないか。


 その後頭部に、思い切り蹴りを入れる。



「手伝え働けせめて彼女たちを変な目で見るな!」


「いや、しかし、これは……ほら、あんなに恥じらいも惜しげもなく、もふもふをふりふりさせて! いやらしい! ここはそういうお店なんですか!? もふっていいんですか!? いいのね!?」


「いいわけないだろ! なんだその口調! そんな目で見てるのはあんただけだから!」



 ……などという一幕がありながらも、店内の準備、そして看板の制作と順調に行われていった。


 そして……



「かん、せー!」


「わぁー!」


「なんというか、感慨深いですね……」



 なんということでしょう、ただの空き家が、あっという間にお店へと早変わり。


 とはいえ、外観はお店の看板を立て、ペンキで壁をきれいにしただけではあるが。それでも、寂れた空き家とは見違えるほどになった。


 壁の色は赤。看板には『ユウシャの家』という、いかにもその場で思い付きましたという名前が書かれている。



「でも、勇者のなんて……いいんでしょうか」


「いいのいいの」



 あの国王(おっさん)は、看板名に勇者の名前を使うな、などといったことは言わなかった。ならば、使えるものはなんでも使わせてもらおう。



「勇者っていうネームバリューが、人を呼び込んでくれるなら大歓迎。そもそも二週間で国一の売り上げをあげなきゃいけないんだから、多少の力業は必要でしょ」


「まあ、そうですが……」



 看板名というのは、それこそお店の目玉だ。だからこそ、一目で人目を引くような、インパクトあるものにしなければならない。


 勇者という単語を使って、客が一人でも増えるのなら、存分に使わせてもらう。



「そうだ、このために私は、勇者になったんだ……」


「それは多分違います」



 さて、残るはメニューだ。とはいえ、ラーメン専門店、のようななにか一つの専門にこだわるつもりはない。


 店名をユウシャの家にしたのは、なにを専門として料理を出す店なのか興味を引かせるため。だがこの店は、専門店ではない……言ってしまえば、ファミレスのようなものだ。


 たくさんのメニューの中から、あくまでもおすすめ商品はあるが豊富な品揃えを提供する。問題は、メニューをどのようにするのかだが……



「ジェイド、得意料理はなにかある?」


「得意、ですか。料理は基本、全般いけますよ。和食洋食魔食……」


「なんか最後聞きなれない単語があったんだけど、一応聞いておこう。聞かなくても想像つくけど、一応ね。魔食って?」


「魔物のお肉などを使った料理で……」


「却下」



 ともあれ、基本なんでも作れるならば充分だ。ヒスイも、ジェイドもアニーシャにご馳走したラーメン以外にも、作れるものは結構ある。


 本来なら、お店に並べるメニューの試作品を作りたいところだが……できる限り、工程は省いていきたい。だから、料理はもうぶっつけ本番でいくか。



「でもヒスイ様の料理の腕前は、わかりましたけど……」



 と、心配するのはアニーシャ。実際にヒスイお手製ラーメンを食べたアニーシャには、ヒスイへのある程度の信頼がある。


 だが、ジェイドはまだ、未知数だ。



「ふふ……心配ならご無用ですよ。不安に思うのも仕方ないとは思いますが、それはこのあとの働きを見せることで払拭するとしますよ」



 自信満々だ。ヒスイも、直感でこの(まぞく)はできる、と感じたのだ。おそらく自信の表れは嘘ではあるまい。


 そうして、お店を出すための準備がちょうど、整った頃……



 カランカラン



 訪問者を知らせる鐘の音が、響いた。ドアが開いたら鳴るようにしてある、ヒスイのアイデアである。


 お客様第一号というわけだ。



「いらっしゃいませー! 『ユウシャの家』にようこそ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ