準備は整った
「お料理作り……!」
ペイがここに訪れた理由を聞いたヒスイは、自分たちがここにいる理由も話す。料理店を出すためにこの空き家を使うこと、店を出すにあたって人を集めることを考えていたこと。
それを聞いたペイは、つぶらな目をさらに輝かせている。
「私も、お手伝いして、いいんですか……?」
「もっちろん!」
「あ、でも私、お料理は得意じゃなくて……」
「ううん、全然オッケーだよ。それに、できることは他にもある」
変態が言っていたように、配膳係としても十分に意味はある。それに、こんなに目をキラキラさせているのにむげにできるはずもない。
ちなみに変態は、ヒスイの蹴りを受けて伸びてしまった。変態でも、魔王軍の幹部なのだが……さすがは勇者としてこの世界に召喚された人材である。
「じゃあヒスイお姉ちゃんとアニーシャお姉ちゃん、それにジェイドお兄ちゃんが……」
「お兄ちゃん、だと……!」
「寝てろ!」
「へぶ!」
今一瞬、お兄ちゃんと呼ばれたジェイドが起きそうな雰囲気があったが、気のせいだ。ヒスイの蹴りが後頭部に直撃したのも気のせいだ。
「こほん。とにかく今のところは、私とアレが料理担当。アニーシャとペイちゃんが配膳係で考えてるよ」
「へ、へー」
今は四人。これだけいれば、とりあえずお店を回すのに困りはしないだろう、多分。二週間でこの国で一番の売り上げを出さなければいけないという条件があるとはいえ、最初はあまり人も来ないだろうし。
とにかく、時間がない。人手が足りなくなれば最悪、商売の裏で勧誘だってできる。ヒスイやジェイドは、よぼど店が繁盛でもしない限り一人でも問題はないスキルは持っている。
それに、この世界には魔法がある。ヒスイの知っている料理のレシピとこの世界の魔法をかけ合わせれば、料理を作る時間だって短縮できるはず。
時間をかければかけるほど美味しくなる料理もあるが、この時間の中ではあまり凝ったものも作れないのが現状。
「まずは、掃除……はペイちゃんがやってくれてたから、ひとまず問題ない。お店の外装内装、それに食材の調達。まずはこの問題を片づけるよ!」
「「おー!」」
寝ているジェイドを叩き起こし、かくしてお店開店のための準備が始まった。ひとまず、お店としての機能を働かせるため机や椅子、看板などを買いに行く班と、食材調達の班にわかれることとする。
「では、いってまいります!」
「が、がんばります!」
なにを頑張るかはともかく、意気込むペイとアニーシャを送り出し、ヒスイとジェイドは買い出しに。
「ヒスイ、なぜわざわざ私と? もしかしてキミ、私のことを……いやしかし、キミは人間とは言え魅力的だが、残念ながら欠けているものがある。もちろん女性の魅力はそれだけで決まるものではないが、キミにはやはり私の思う魅力には及ばなくて……」
「そういうところだからアニーシャやペイちゃんとは行動させなかったの。あと勝手な妄想で盛り上がって私がフラれたみたいなのやめてくれない」
キッチンに立つ者として、この二人が食材調達に行くのは自然なことである……というのが、本来の理由。だが実際は、この変態をもふもふのどちらかと二人きりにさせなれないのが一番の理由だ。
アニーシャならともかく、あの無垢なペイが変態の毒牙にかかってしまえば、どうなってしまうかもわからない。
「今、すごく失礼なことを考えられているような気がするんですが」
「気のせーだよ」
そんな調子で、二人は近場のお店を回っていく。鮮度、値段、大きさ……それらをよく観察し、よりよいものを選んでいく。
「ほほお、これはいいですね。大きさは一見物足りないが、中には栄養がたっぷり詰まっている」
「お、あんちゃんお目が高いねえ。それは今朝一でとれた新鮮な……」
その中でも驚いたのが、ジェイドの目利き能力だ。新鮮なもの、そうでないものを瞬時に見分けている。
……魔王軍幹部のお買い物など、まさかここにいる誰もが思うまい。
そんなジェイドの活躍もあり、食材集めは順調だ。ヒスイ一人では、この世界の食材の詳細はいちいちお店の人に聞かなければならない……元の世界と似通ったものは多いが、それでも若干でも違うものは多い。
食材を選び、聞き、選ぶ。その手間をすっ飛ばすために、こうして二人で行動する意味も含まれている。
「あ、ヒスイ様」
途中、アニーシャたちとも合流し……必要なものを揃え、空き家……いや自分たちのお店となる建物へと、戻っていく。
あとは、お店をお店とわかるように改装し、食材の下ごしらえをすれば……準備、オッケーだ!




