条件
「ダメに決まっているだろう!」
ダンッ……と、拳を打ち付ける音が怒号と共に響く。その声の主は、額に青筋を浮かべている。
「お願いしますよ、国王サマ」
「い、いくら勇者殿の頼みであろうと、魔族の言うことを信じろと!? それどころか、料理店を出す!? そんなもので魔王が止まると!? ぅ、ごほごほ!」
「こ、国王様!」
ジェイドを連れ、ヒスイとアニーシャは国王の下を訪れていた。本来、この城に魔族を入れることなどできないが……勇者たっての希望だということで、なんとか許可を貰えた。
が、許しを貰えたのはそこまで。魔王討伐を放って料理を作るお店を出すことの許可など出るはずもなく、また『ヒスイのお店で出したものが口にあえば、人々に危害を加えないことを約束する』と魔王に頼むジェイドが信じてもらえるはずもない。
ちなみに今部屋にいるのは、ヒスイ、アニーシャ、ジェイド、国王のみだ。
「あぁ、どうか怒りをお静めください国王様。どうか私を信じて……」
「ええい、魔族が私に気安く話しかけるな!」
「……私の言葉に嘘偽りはない。わかったら黙って首を縦に振れ人間」
「気安くなければ話しかけて良いわけじゃないしなんだその口遣いは!」
それが頼み事をする者の態度か、と一喝され、ジェイドはしゅんと黙り込む。
「ちょっと国王サマ、勇気を出して城に足を運んでくれたジェイドにあんまりな言い方じゃないですか。謝れよこら」
「え、私が悪いこれ……いやしかし、魔族なんぞに……」
「悪いことをしたら謝るのが基本でしょうが! 偉ければなんでも許されると思うなよ! あんたなんか権力を取ったらお腹の出たおじさんだからね!」
「ヒスイ様!?」
しゅんとしたジェイドをよしよししながら、ヒスイが吠える。その言葉に、今度は国王がしゅんとしてしまう。
「こ、国王様になんて言葉遣いを! こんな侮辱死罪でもおかしくないですよ!?」
「はぁーあ、言いたいことも言えない世の中だから、異世界でくらいなににも縛られたくないんだよね」
「なに言ってるんですか!?」
ともあれ、国王は魔族であるジェイドに並々ならぬ思いを抱いているらしい。ジェイド個人というより、魔族全般に対してだが。
アニーシャが、国王は魔族を憎んでいると言っていたが、やはりそれが関係しているらしい。
「でもさ、憎しみはなにも生まない。ね、国王サマも大人になろ?」
「それが城で暴れた者の言うことか」
ヒスイの変わらない態度に、国王は嘆息。もはや、なにを言ってもヒスイには届かないと理解したのだろう。
「……本当に、魔王軍の侵攻は止まっているんだろうな」
「嘘なら、私をどうとでも処分して構いません」
「そうそう、ジェイドが嘘言わないって」
「差し出がましいですが国王様、この魔族の言っていることは真実かと。魔族ですが、誠意のようなものを感じられます」
「……聖女であるお主が言うなら、そうなのだろうな」
三人のそれぞれの言い分に、国王は再び嘆息。長い長い、嘆息。
「……魔王軍の進行が止まる期間は、あるのか?」
「おおよそ、一か月は問題ないですよ」
「…………なら……期限を設ける。店を出し、二週間でこの国で一番の売り上げを出してみせるがいい。ならば、認めてやろう」
思案したが故の、決断。冷静に考えて、もし血を流さずに魔王軍との衝突を免れるなら、それに越したことはない。
だが、その条件は……
「た、たった二週間で……!?」
「元より成功するとは思っていない。うまくいかなかったときのことを考え、魔王軍が進行を止めているうちに出発する。その最低限の期間が、これだ」
その条件に困惑するアニーシャ。そんなの、冷静に考えなくても無理だとわかる。この国に、どれだけのお店があると思っているのだ。
いくら、ヒスイの料理がおいしいとは言っても。こんな無理難題、さすがのヒスイも……
「二週間、か。言質、とったからね」
慌てる……どころか、自信満々な笑みを浮かべていた。




