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センス皆無の最強錬金術師~のんびり旅をしながら異世界を存分に楽しみます~  作者: 徳川レモン
三章 ブリジオスの王都

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五十七話 腕輪の起動

 宿泊した部屋には奇妙な物体がいた。

 巨大な顔に手足が生えたようなそんなデザインだ。


 顔はたるんでいて皮などが垂れている。

 全体的にいびつで醜いの表現が適切かと思われた。

 皮膚も小豆色で気味が悪い。


「それではごゆっくり」


 仲居さんは見えている様子もなく退室。

 残された俺は呆然と立ち尽くす。


 ……この部屋に泊まれと?


 その物体は必要以上には動かなかった。

 俺が来たことを感じ取ると部屋の隅に移動したくらいだ。

 むしろ気を遣われた感じがして不気味。


 敵意はないのか?

 そんな考えがよぎる。


 今まで出会ってきた幽霊は、必ず俺に干渉をしてきた。

 なのに目の前のコイツは無視しているのだ。まるでどうでもいいとばかりにぼーっとしている。

 それとも昼間はこんな感じだが、夜になると豹変するのだろうか。


「あれに……害はない……」

「うわっ!?」


 耳元で声をかけられたので飛び退く。

 いつの間にかあの女幽霊がいた。


 少し前から思ってたけど、こいつ普通に話しかけてくるようになったよな。

 王都にいる時も頻繁に周りをうろついてたし。

 それに心なしか雰囲気や顔色も柔らかくなった気がする。


「あ、あいつは襲ってこないのか?」

「大丈夫……ここに縛られているここにいたいだけの存在……」

「地縛霊ってことか」


 彼女はこくりと頷いて消えた。


 つーか普通に会話が成立していたな。

 まさか異世界に来て霊能力者になるとは。人生ってのは何が起こるかさっぱり分からないよな。

 まぁだからこそ楽しいってことでもあるが。


 俺は奇怪な物体を無視して荷物を置く。

 今夜はエレインの部屋で寝るだろうから、端から怯える必要なんてなかったんだよ。

 こんなのがいようがいまいが関係ない。いつも通り嫁とイチャラブするだけさ。


 部屋を出るとちょうどエレインが部屋から出てきていた。


「義彦」


 すすっ、身体を寄せてきて甘えてくる。

 頭を撫でてやるとまるで子犬のように俺の胸に顔を擦り付けてきた。


 マジホント可愛い。興奮のし過ぎで死にそうだ。

 つーかスマホがあったら絶対エレインを撮りまくってたよ。

 で、一人の時に見て悦に浸るんだ。


 宿の玄関まで来るとリリアが一人で待っていた。


「ロナウドは?」

「温泉に入りたいから別行動するってさ」

「そういやそんなこと言ってたな」


 ロナウドはここに来てから妙にそわそわしている。

 温泉に入れると聞くと子供のように目をキラキラさせてたしな。

 祖国に帰ってきたような気分なのだろうな。

 今は好きなようにやらせておくか。


 てことで三人でギルドに向かった。


 レイクミラーの一件以来ちゃんと顔を出していなかったので、ランクなどがどうなっているか気になっていた。


 ギルドに入ると早速カウンターへ。


「西村義彦様へ昇格のお知らせが届いております。おめでとうございます」


 おおおっ、レイクミラーの一件が認められたようだ。

 俺だけでなくエレインとリリアも昇格していた。


 西村義彦【I】→【H】

 エレイン【I】→【H】

 リリア 【H】→【G】


 とうとうHランクに上がった。下から八番目の階級に昇格したのだ。

 別の意味でのHにもたどり着いたし順風満帆だ。


「うへへへ、Hかぁ、うへへぇ」


 エレインは返されたカードを見つめてニヤニヤしている。

 ギルドに実力を認められて嬉しいんだろうな。

 ここまで必死で頑張ってきた彼女だかこその悦だろう。


「もう少しこう、ずばっと一気に上がらないのかなぁ。ちまちま面倒だ」


 リリアは相変わらずランクには興味を抱いていない様子。

 彼女にとっては勝手に上がっていくものにしか見えないんだろう。実際、リリアは戦闘しか頭にないからな。

 戦いこそがご褒美みたいなものだ。


「それとエレイン様宛に、ブリジオス国王よりメッセージを預かっております」

「お父様から?」


 エレインが受け取った小さな紙切れ。

 彼女の手元をのぞき込むと、そこには『クリスティーナよ、戻ってきなさい』とだけ書かれていた。


 紙をその場でびりびりに破いた彼女は、職員に紙とペンを借りて一行だけ綴る。


 『私はもう結婚しました。放っておいてください』


 職員に預けた彼女は腕を組んでフンッと鼻を鳴らす。

 どうやら本当に父親と決別するつもりらしい。

 嬉しい気持ちの反面、大きな問題になるだろうなと内心でため息を吐いた。



 ◇



 ギルドを出た俺達はその足で各店を回る。

 買う物は、食料、水、緊急時の備え、素材、生活消耗品などなど。これから先、山や森が続くので買える時に買っておかなければならなかった。


「こ、これください……」


 日用雑貨などを扱う店で俺は、二人が別商品に目を向けている間にとあるものを購入する。

 それはぬるぬるした透明な液体と一緒に入ったバルーン草の小瓶である。


 店員は特に何かを思ったわけでもなく事務的に会計を済ませた。


 俺は小瓶をリュックに素早く収納する。

 一瓶に入っている草は二十枚程度、それを俺は二十個購入していた。

 単純計算で四百回分の枚数だ。でも恐らく一ヶ月ももたない。


 嘘だろと思うだろうが、ステータスの上昇というのは実はそっち方面も強化されていて、地球人のそれとは桁が違うのだ。

 当然ながら四十万クラスの俺達が普通の夜の生活を送るはずがない。

 恥ずかしいのでこれ以上は考えたくもないが。


「じっ……」


 ハッとする。リリアが物陰からピーちゃんを抱いて見ていた。

 まるでどこかの名探偵家政婦のようだ。

 まさかバルーン草を購入するところを見られた?


「変わったところはなし――次はエレイン」


 すっと探偵リリアが姿を消す。

 思わず安堵の息を吐いてしまった。


 まさか説明するまでずっとこの調子が続くのか。

 そりゃあ知りたいって言うのなら教えるのもやぶさかではないが、あいつの場合無知なだけに斜めの上の質問をしてくる可能性が高いんだよ。それこそ俺達の生々しい話にまで踏み込んでくるかもしれない。

 バカだからこその怖さがあるんだよあいつには。


 店を出ると、次は装飾品を扱う店に入る。

 俺は自作の装飾系アイテムをカウンターに置いて買い取りをお願いした。


 さて、俺の作ったアクセサリーがどれだけ売れるやら。


「ほぉ、これはなかなか手の込んだ。鑑定を始めますのでしばしお待ちを」


 貴金属店のオーナーは、二十点のアクセサリーをルーペで覗き小さく唸る。

 その間、俺達は店内をくまなく回った。


「このネックレス可愛いですね」

「……この豚の顔がか?」

「はい。鼻の穴に宝石が埋め込まれているのがキュートです」

「なるほど。分からん」


 リリアに至っては金のマウスピースがカッコイイとか言ってる始末で、俺はまったく二人に共感することはできなかった。

 前々から思ってたが、この二人の方がセンスないよな。

 それともこれこそが俺のセンスのなさなのか。


「そうですな、二十点で五百万ブロスというのはどうでしょうか」

「ずいぶんと高くないか?」

「いえいえ、これぐらいが適正かと。腕の良い職人でなければスロット付きの物は作れませんし、高位の付与師が付けるような能力まであります。むしろこの値段でなければ私の評判が下がってしまいますよ」


 オーナーは金額通りの金貨と銀貨を目の前に置いた。

 百万くらいになれば儲けものとか思ってただけに、この値段はちょっと予想外だった。

 もしかしてもしかするとアイテム販売ってめちゃくちゃ儲かるかも。


 てことで俺は儲かった分でエレインとリリアにアクセサリーを購入してやった。

 わざわざ買わなくとも自作すれいいのだが、正直二人が満足するようなデザインがまるで浮かぶ気がしなかった。

 俺にはあの豚のネックレスを作れるセンスがない。


「うふふ、ありがとうございます義彦」

「いいって。それより結婚指輪を作らないとな」

「そうでしたね! どんなものにするか考えないと!」

「やっぱシンプルなのがいいよな」


 そんな話をしているところで、不意にエレインから手を握られる。

 彼女は恥ずかしそうにうつむきつつ顔を赤く染めていた。


 やばい。今すぐ持って帰って翌朝までニャンニャンしたい気分だ。

 煩悩が108個から爆発的に増えて胸が苦しい。

 もしここで俺が死ぬようなことがあるとすれば、それは間違いなく興奮に耐えきれなくなった心臓と脳みそが吹き飛んだ故のことだろう。名付けるなら”エレイン死”だ。


「今すぐ子供を作ろう」

「ふえぇぇぇぇぇえええっ!?」


 おっと、つい本音が出てしまったか。

 俺の中のラブが止まらない。


「義彦! みてくれこれ!」

「なんだそれ!?」


 どこからか戻ってきたリリアが持っていたのは馬鹿でかい串肉だった。

 ハンドボールほどの脂身たっぷりの肉が四つも極太の串に刺さっている。


 盛り上がっていた性欲が謎の物体の登場によって一気に下がった。


「どこに売ってたんだ!?」

「こっちこっち」


 俺は串肉を三つ購入した。



 ◇



 宿に戻った俺は夕食を前に温泉に入ることにした。


「おおおおおっ! ひろっ!」


 まず目に飛び込んできたのは、源泉掛け流しの大きな露天風呂。

 その次に雄大な景色と大空を舞う鳥だ。


 絶景を見ながらの温泉とはなんて贅沢。

 たまにはエレインのセンサーも役に立つんだな。


「極楽極楽でござる」


 見ればロナウドが湯船に浸かってタコのようになっていた。

 相変わらず風呂でも覆面は付けているが、その下の顔がだらしなく緩んでいるのはすぐに分かった。


 頭と身体を洗い、さっぱりしたところで湯に浸かる。

 無意識に至福の声が漏れて、温泉の温かさが身体の芯まで伝わった。

 最高、その一言しか頭に浮かばない。


「ギルドはどうでござった」

「昇格してたよ。これでようやくHランクだ」

「今の義彦殿ならCランクは確実でござろうな」


 俺はタオルで顔を拭いていたところで動きを止めた。


 四十万クラスでCだと? ここまできてまだC止まりなのか??

 だとするとAランクはどれほど化け物なんだ。

 どうやら最強への道はまだまだ遠いようだ。


「エレイン、なんか大っきくなってないか」

「そうですか? あ、でも、確かにそうかもしれないですね」


 隣の壁からエレインとリリアの声が聞こえる。

 それと複数の若い女の子の声も。


 おほほ、これは見過ごせませんなぁ。


 すすっ、壁側に近づいて耳を当てた。


「エレインの髪って綺麗だな。光を反射してるし」

「義彦のくれた石鹸のおかげですよ。でもリリアさんの髪も石鹸を使うようになってから、艶やかでとっても綺麗になりましたよ」

「そうなの? 義彦もそう思ってるかな?」

「それは分かりませんが、私は好きですよ」


 壁の隙間から向こう側を覗く。

 ちらりとエレインとリリアの顔が見えた。

 しかし、湯気で身体までは見えない。


 くそっ、他の女性客も見えないじゃないか。

 なんなんだよこの自主規制みたいなうっとおしい湯気は。


「やはり義彦殿はお若いでござるな」

「どう言う意味だ?」


 笑うロナウドに怪訝な表情を浮かべる。


「稲穂の国では風呂は男女共用。わざわざ覗かなくとも見放題でござる。拙者はもう女子の肌は見飽きるほど見たでござるよ」


 な、なんだってぇぇぇえええええ!?

 男女共用だとぉおおおおおっ!??


 俺の脳天を衝撃が突き抜けた。


「それはまさか……そういうことも?」

「お互いに気分が乗ればではあるが、よくあることでござる」

「あんたまさか、どれだけの、相手を」

「拙者もすっかり年でござるな。もう、そういうことには興味を失ってしまったでござるよ。若き者達の幸福を願うことが拙者の生きがいでござる。あとモフモフ」


 くっ、エレインという相手がいながら強く興味を引かれてしまっている。

 これも男として生を受けてしまったが故の定めか。

 というか稲穂の国、めちゃくちゃ行きてぇ。今すぐに。


 ピピッ。


 前触れもなく腕輪が音を発して光る。

 俺とロナウドはじっと見ていた。


「それは確か使い方の分からない腕輪だったでござるか」

「のはずなんだが……いきなり作動したみたいだな」

「ここを見るでござる。なにか書かれているでござるよ」


 腕輪の表面に文字が表示されていた。


 『最寄りゲート10299メートル』


 あ? 最寄りゲート?

 なんだよこれ。


 腕輪はウォンウォンと鳴動している。

 風呂の中を移動する。腕輪に表示されている距離は増えたり減ったりした。

 もしかしてこの腕輪は何かに反応するように作られてるのか?


 ――で、俺が壁際に近づいたことで反応範囲に入ったと。


「この距離の場所になにがあるでござるか?」

「分からない。とりあえず明日にでも調べに行ってみるか」


 俺はそう決断してから……女湯を覗きに戻った。



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