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センス皆無の最強錬金術師~のんびり旅をしながら異世界を存分に楽しみます~  作者: 徳川レモン
三章 ブリジオスの王都

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五十四話 ケントとシーラ

 曲刀が地面をなぎ払う。

 衝撃波が発生して砂埃を舞い上げた。


「うりゃぁ! 大正拳!」

「がら空きです!」


 猪突猛進とばかりにまっすぐ突っ込んだリリアの拳が混沌の王の身体を揺らす。

 空からは目にも留まらぬ速度で移動するエレインが、伸縮自在の細剣でこれでもかと切りつける。

 さらにロナウドと俺が攻撃を加えた。


「ぬるい、ぬるいわ! その程度か人間よ!」


 次の攻撃が俺達を襲う。


「むぅん、筋肉ハッピーセット!」

「ちっ、またもや精霊か」


 曲刀を阻むは五人の精霊。

 いや、正確には分身だ。

 それぞれ違うポーズを決める。


 隙ができたところでケントとピトが跳躍して強烈な突き込みを見せる。

 だがしかし、切っ先は甲高い音を響かせて弾かれてしまう。


 戻ってきたケントは憎々しげに槍を構え直した。


「こうも攻撃が効かないとはな。どうしたものか」

「やっぱりステータスの開きが大きすぎるんだ。せめて六十万や七十万台にならないと傷も付けられな――うわっ!?」


 奴の振り下ろした曲刀が、舞台を、大地を割る。

 ぐらぐらと足下が揺れて突風が巻き起こった。


 マジで化け物だな、唯一の救いは動き出しが遅いってことくらい。

 重量が重量なだけにトップスピードに乗るまでに時間がかかっている。

 これで俺達と同じサイズだったら今頃死んでたかもな。


「ぐ、ぐぬぅう!?」


 奴がぐらりと片膝を突く。

 ようやく効いてきたか。


 奴の立っている舞台は未だに俺の道具となっている。

 密かにじわじわと体力を吸収していたのだ。

 それに加えてロナウドの刀も切りつける度に同じ効果を発揮している。ダブルパンチで体力を削りまくっていた。


「アタシの新技を食らえ! バースト大正拳!」


 炎に包まれたリリアが突貫する。

 魔力が上乗せされているのか拳をめり込ませた瞬間爆発した。

 奴は吹き飛ばされて観客席へとめり込む。


「馬鹿野郎! せっかく弱っていたのに舞台から追い出すなよ!」

「アタシは馬鹿じゃない! ちゃんと教えなかった義彦が悪いんだろ!」

「ぐっ」


 それは確かに……そうだ。

 舞台でドレインしているなんて言ってなかったし。

 ド正論に反論できない。


「魔剣ニョルフェリスよ、私の求めに応じて力を!」


 エレインの細剣が青いオーラを漂わせた。

 すると彼女のステータスが強化される。



 【ステータス】

 名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:304567(704567)

 防:307998(707998)

 速:310044(710044)

 魔:233553(633553)

 耐性:236690(636690)

 ジョブ:姫騎士

 スキル:細剣術Lv21・鞭術Lv8・弓術Lv12・調理術Lv16・裁縫Lv20・栽培Lv18・カリスマLv19

 称号:―



 もしかして魔剣の能力『呼応』ってやつの力なのか。

 飛行速度が向上した彼女は見えない速度で斬撃を繰り出し、あれほど守りの堅かった敵の体を切り裂く。

彼女は最後に敵の左腕を切り落とした。


「すげぇじゃん! どうして試合で使わなかったんだよ!」

「あの、その、試合後にこの力に気が付いて……」


 なるほど、そりゃあ使わないわけだ。

 知ってたら結果は変ってただろうからな。


「くく、くくく……」


 腕を切り落とされた奴は笑っていた。

 落ちた腕は霧散して斬られる前の状態へともどる。


「なっ、私の攻撃が効かない!?」

「我は闇。根源より生まれし者。人の身で我を傷つけることなど不可能である」


 空が暗雲に覆い隠される。奴が曲刀を掲げれば王都に無数の雷が落ちた。

 俺達のいる会場にもいくつか直撃し、戦っている全員が焼かれる。


「まじかよ……大規模魔法まで使うのか……」


 なんとか立ち上がる。

 多少の火傷は負ったがダメージはそれほどじゃなかった。

 恐らく耐性が高かったおかげだろう。


「ピト! 大丈夫か!?」

「あぐっ……ケント……」


 ピトはステータスが高くなかったこともあって一番ダメージを受けていた。

 俺は懐から中級ポーションを取り出して飲ませる。


「ありがとう、もう大丈夫だ」

「お前はここから離脱しろ。これ以上は無理だ」

「でも僕は……」

「その代わりだが住民を守ってくれないか。たぶん外は混乱状態だ、お前が貴族として率先して動いてくれれば被害も抑えられる」


 俺の言葉にピトは無言で頷いた。

 良い奴は昔から早死にするって言うだろ。だから早めに逃がす事にした。

 ぶっちゃけ足手まといだしな。さっさと怪我のしない場所に行ってもらいたい。


 ケントはピトの背中を見送る。


「お前は行かなくていいのか?」

「愚問だな。スタークを堂々と殺せるチャンスが舞い込んだというのに、おめおめと逃げられるはずもないだろ。これは待ちに待った好機だ」


 そう言って彼は仮面を外す。

 整った顔は怒りに歪み、身体からは赤いオーラが発せられる。

 ステータスも七十万に達しており、禍々しい気配が辺りを覆った。


 怒りが強すぎるせいか、想定したよりも早いスピードで鬼になろうとしているようだ。

 ロナウドに聞いた話だが、鬼になった者は正気を失い狂気に身を任せるという。誰であろうと眼に入るものは全て殺し、血にまみれた獣の道を歩むそうだ。


「スターク様! スターク様!」


 観客席では未だシーラが残ってスタークに呼びかけていた。

 その光景をケントは悲痛な表情で見つめる。


「君を……あいつから解放する」


 爆発的な踏み込みで加速し、ケントは混沌の王の胸に槍を突き立てた。

 そのインパクトは会場全体を揺らし、怪物を観客席へと背中から叩きつけた。


「ロナウド!」

「応でござる!」


 俺は無拍子で切り込み、その上からロナウドが刀を叩きつける。

 単純な話だ。一人で斬れないのなら二人で斬ればいい。


 ざんっ。敵の左腕が再び落ちる。


「受けよ我が剣!」


 エレインの細剣が鞭のようにしなり右腕も斬り落とす。

 そこへ真上から炎に包まれて垂直落下してきたリリアが連打する。


「おららららららっ!!」


 分身撃も併用しているのだろう、何人もの彼女が重なり拳を振るう。

 その度に爆発が発生し、敵は反動で戻ってきたところを再び叩きつけられを繰り返す。

 スター〇ラチナさながらの圧倒的強連打。


「どどめ! バースト大正拳!!」


 ずんっ、衝撃波が駆け抜け会場が揺れる。

 混沌の王は身体をくの字に曲げて苦悶の表情で声を漏らす。


 くるりと空中で回転して戻ってきたリリアは蕩けた顔だった。


「うへへへ、気持ちよかったなぁ。お腹がキュンキュンしてる」


 眼がハートマークでモザイクをかけるべきか悩む表情だ。

 ドSでドMって相変わらずぶっ壊れてるな。


 がらがら、瓦礫を押し退けて混沌の王が立ち上がる。

 斬られた両腕は闇が集まって元通りとなった。

 あれだけ攻撃してもノーダメージなんて反則すぎんだろ。


「恐怖したか? 絶望したか? 貴様達のしていることが無意味だと分かったであろう。さぁ命を差し出せ。それが嫌ならば跪け。命乞いをしろ」


 そう言う割には積極的に攻撃をしてこないんだよなぁ。

 なんとなく戦いを避けようとしている気がしてしょうがない。


「どうする義彦、このままだと打つ手がないぞ」

「ん~」


 ケントの言葉を受けて俺は鑑定スキルで奴の前身をくまなく観察する。

 無敵の存在がどうして今まで俺達に連敗をしていたのか。そこを考えれば答えは出る気がするのだ。


 ……そういえばあいつ、能力は取り憑いた相手に左右されるとかいってたな。

 つーかそもそもあいつはどうして取り憑く必要があるのか。

 答えは明白、肉体がないからだ。

 だとしたら肉体を構築する為の核となったものを取り上げればいいんじゃないか。


 奴の頭部の中心にそれはあった。


 闇の中で漂うスタークである。

 あれこそが奴に肉体を与えている大本だ。


「全員あいつの頭に攻撃集中させろ! 中にいるスタークを引っ張り出すんだ!」

「ぐぬぬ、そこに気が付いてしまったか……させん!」


 今までの動きが嘘のように奴は素早い動きで攻撃を開始した。

 俺達は注意を散らすためにバラバラに移動する。


「まず貴様! 邪魔な魔法使いめ!」

「あぐっ!?」


 リリアはジャンプしていたところをはたき落とされた。

 観客席へ直撃した彼女は瓦礫に埋もれたまま動かなくなる。


「次は貴様だ! ちょろちょろと目障りな女め!」

「きゃぁっ!?」


 曲刀を細剣で受け止めたエレインも勢いよく地上へと落下する。

 奴は左手を彼女に向けて雷撃を放った。


「エレイン!?」

「っつう……だい、じょうぶです、まだやれます」


 俺はエレインに駆け寄る。

 彼女は全身から白い煙を漂わせながらもふらつく脚で立ち上がった。


「どこだ! あの黒いのは! どこへ行った!」

「…………」


 奴の背中にロナウドは気配を消して張り付いていた。

 ひとまずあいつはやられないだろう。


 混沌の王は標的を変え、ケントへと視線を向ける。


「スターク、今すぐ引きずり出して殺してやるからな」

「できるものならやってみろ負け犬。女を僕に寝取られて悔しいんだろ。残念だがシーラはもう僕の所有物だ。身も心も全てを僕に捧げたんだ」

「貴様っ!」


 奴はスタークの声と顔でケントを挑発する。

 怒りが増大するほどにステータスは跳ね上がり八十万に達した。


 顔はすでに般若と言っていいいほど変容し狂気をにじませていた。


 奴とケントの攻防が始まる。


 曲刀を槍で受け止め、そくざに反撃。

 武器が衝突する度に轟音が会場で反響する。

 押している。ケントなら勝てるかもしれない。


 ――突如として奴は闇を吐いた。


「あが、ぎぐ……動けない……!?」

「油断したようだな。我にこれがあるのだ」


 倒れるケントの上から巨大な足が落とされる。

 何度も踏みつけられ地面へとめり込んだ。

 そして、ケントは動かなくなる。


「エレイン、ポーションは飲んだか?」

「はい。もう大丈夫です」

「奴を……スタークを倒すぞ」

「はいっ!」


 二人で剣を構える。


 正直、勝率は四割もない。奴に対し備える時間がなかったせいだ。

 だが、ここで放置すれば碌な事にならないのは目に見えていた。

 それにエレインの故郷をめちゃくちゃにされるのは、俺としても避けたいところだしな。


「諦めろ。大人しく我に負けを認め――ぬぐっ!?」


 混沌の王が動き止めた。

 見れば奴の影に一本の矢が刺さっている。


「秘技・影縫い」


 会場の屋根で弓を構えるブライトの姿があった。

 これは味方になったと考えて良いのか?


「よくも私を都合の良い人形のように扱ってくれたな。今ここでその礼をさせてもらう」

「貴様……エルフごときが我に刃向かうか!」

「何様かはしらんが、御託は勝ってから言うのだな」


 ブライトは弓をぎりりと引いて、矢に魔力を込める。

 放たれた次の瞬間、左腕は矢によって弾け飛んだ。


「奥義・風滅矢」


 彼は同じ技で右腕も落とし、俺達に目配せする。

 最後は譲ると言いたいのだろう。


「行きます!」


 俺を抱えたエレインが町の上で大きく旋回する。

 そこから加速を続けながらまっすぐ混沌の王へ突貫する。


 狙うはスタークのいる頭部。


「「うぉおおおおおおおおおおっ!!!」」


 エレインの魔剣の力が俺にも及び、ステータスを急上昇させる。

 あの闇の衣を貫け。


 ミャー。


 どこからかピーちゃんの声が聞こえた気がした。

 するとステータスはさらに上昇して九十万へと達する。


 俺とエレインは一筋の閃光となって混沌の王の頭部を貫いた。

 頭は弾け飛び、中にいたスタークが外に放り出される。


 エレインは俺を抱えたまま螺旋を描いて地上に降下した。


「ぐが、ぐががが、ぐああああああああああっ!!」


 混沌の王はスタークを失ったことで形を保つことができなくなり、巨体は霧散し始めていた。闇は渦を巻いたかと思うと、蛇のように身体を伸ばし空へと昇って彼方へと消える。なんとか退けたのだ。俺は安堵した。


「スターク……ようやく!」


 足を引きずってケントがスタークの元へと向かう。

 だが、それよりも早く駆けつけたのはシーラだった。


「スターク様! スターク様!」


 彼女はスタークを抱き起こし心配そうに声をかける。

 スタークはうっすらと目を開けてシーラを見た。


「シーラ……お前は僕のことをそこまで……」

「はい」


 彼女の顔に手を伸ばすスタークにシーラは笑顔で述べた。



「やっとこの手で殺せますね」



「な、んだって?」



 胸元から取り出したナイフ。

 彼女はスタークの胸に躊躇なく突き立てた。


「ひぃ、ひぃいいいいいっ!? あぎぃっ!?」

「やっと、やっと殺せる! お前をこの手で殺す日をどれほど待ち望んでいたか! 死ね死ね死ね死ね死ね! このクソ野郎! クズが! お前なんかを私が愛するわけがないだろっ! ずっとずっと愛しているのはケントだけだ!」

「ぎゃっぁぁああああああああっ! やべ、やべろ! やめでぐれっ!」


 シーラを振り払って這いずってでも逃げようとする。

 スタークは血の道を作りながら俺達に助けを求めて手を伸ばしていた。

 

 だが、背中から容赦なく刃が振り下ろされる。


 ズシュ。ズシュ。ズシュ。ズシュ。

 繰り返される肉を刺す音。


 血しぶきが飛び散りシーラの狂気に満ちた顔を濡らす。

 いつしかスタークの悲鳴は聞こえなくなっていた。


「お前なんか――」

「もういい!」


 ケントは槍を投げ捨ててシーラを抱き寄せた。

 彼は泣いていた。


「君の心はずっと俺の傍にあったんだな」

「ケント……駄目なの……私はもう汚れてしまった……貴方の元へは戻れない……沢山傷つけて、沢山悲しい思いをさせてしまった……だから」


 ケントを突き飛ばしたシーラはナイフを自身の首に突き刺そうとする。

 だがしかし、彼は素早く戻り右手で刀身を握り止めた。


「俺が迷っていたからこうなってしまった。家なんて捨てて二人で逃げようと言えば良かったのに。すまない。俺の方こそ君に辛い思いをさせてしまった」

「ケント……ケント!」

「もう放さない。ずっと一緒いよう」

「うん」


 ケントは槍を拾うと、シーラと連れ添って歩き始めた。

 一度だけ振り返ると怨鬼槍を掲げて微笑む。


 俺には『またどこかで』という意味に思えた。


 きっともうここへは戻ってこないのだろう。

 二人きりで新しい場所からやり直すに違いない。


 俺は心の中で二人の行く先に幸せがあることを願った。



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