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センス皆無の最強錬金術師~のんびり旅をしながら異世界を存分に楽しみます~  作者: 徳川レモン
三章 ブリジオスの王都

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四十九話 本戦3

 医務室に向かうとエレインはベッドに寝かされていた。

 すぐに医師が走ってきて俺を追い出そうとする。


「部外者はすぐに出て行きなさい!」

「待ってくれ、俺は彼女の仲間だし麻痺消しの薬も持っている」

「本当かどうか怪しいな! 誰か兵士を!」


 駆けつけた兵士が俺を強引に退室させようとすると、エレインが目を覚まし俺に手を伸ばした。


「その方は私の大切な方です。無礼は許しません」

「ですが姫!」

「いいから言う通りにしてください」


 兵士と医師は渋々退室した。

 俺はベッドの脇にある椅子に座って声をかける。


「調子は問題ないか」

「まだほとんど動けないんです。かなり強力な痺れ薬みたいで、普通の回復薬では効き目がなくて……」


 俺は懐から麻痺消しの薬を取り出した。

 これは最近作った『麻痺消し改』と言う薬だ。


「これを飲め」

「起きれなくて」


 あ、そうか。うっかりしてたよ。

 彼女の身体を起こして少しずつ薬を飲ませる。

 コクン、コクン、口の端から滴が垂れつつ、小瓶の中の液体を飲み干した。


 数秒後には彼女は動けるようになっていた。


「ありがとうございます。義彦が来てくれたおかげで助かりました」

「いいって。でも試合は残念だったな」

「はい……でも、義彦は勝ってくれますよね?」

「当たり前だろ。その為に手は打ってある」


 ぱぁぁと彼女は明るい表情となった。

 そう、今の俺はあのエルフと対等に戦えるくらいには強くなっているんだ。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:263444→443444

 防:261531→441531

 速:248887→428887

 魔:290314→470319

 耐性:290241→470241

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv65・剣術Lv2・盾術Lv2・薬術Lv68・付与術Lv62・鍛冶術Lv66・魔道具作成Lv66・ホムンクルスLv66・????・無拍子Lv5

 称号:センスゼロ・大罪シリーズ【食欲の鎧】所有者



 俺は対エルフ戦を考え新たな薬の作成へと着手した。

 そして、できあがったのが『ステータス超UP』の薬である。


 爆UPの薬は一日千の上昇が限度だったが、超UPの薬になると一日一万もの上昇が見込めるのだ。

 おかげで今の俺はあのエルフともそこそこ戦えるくらいにはなった。

 もちろん技術的な面ではまだまだではあるがな。


「はははっ、これでクリスティーナをようやく僕の物にできるなっ!」


 ガチャリとドアを開けて入ってきたのはスタークだ。

 後ろにはあのエルフの姿もあった。


 奴は俺とエレインを見るなり憤怒の表情となる。


「どういうことだブライト! 王女は動けない状態ではなかったのか!」

「失礼。まさかあの麻痺から回復するとは予想していなかったもので。しかし、見た目以上に油断ならない人物ですな彼は」


 エルフは俺を見て目を細める。

 そう言うことか。エレインを試合中に弱らせ、動けなくしたところでスタークがやってくるという流れだったらしい。本当にどこまでも卑劣で愚劣な奴だ。


「なんだその目は。まさかこの聖騎士であり公国の王子である僕に刃を向ける気か。たかだか平民の雑魚の分際で」

「スターク様、ひとまずここは退きましょう。貴方が思っているほど彼は無力でも弱い相手でもありません。逆に下手なことを言えばこちらがやられます」

「はっ、貴様も案外大した目を持っていないな。僕には分かるぞ、あいつは見せかけだけの輩だと。どうやって予選を突破して試合に勝ったのかは不明だが、これからすぐにそのメッキが剥がれていく。楽しみだな」


 スタークは吐き捨てるようにそう言ってから出て行く。

 残されたブライトはもう一度俺を見てから立ち去ろうとした。


「ミャァ」

「!?」


 いつの間にか彼の足下にいたピーちゃん。

 彼は猫を見てかつてないほど恐怖に染まった表情を見せた。


 じっとピーちゃんがブライトを見ている。

 彼は冷や汗を流しながらじりじりと後ろに下がりつつ退室した。

 ピーちゃんはこちらを向いて「ミャ」と鳴く。


「なんだったんだ?」

「さぁ?」


 この世界には猫嫌いが多いのだろうか。

 ベッドの上に乗ったピーちゃんをエレインは優しく撫でて嬉しそうにする。


 不意に名案が浮かんだ。

 そうだ、もしもの為にこいつを彼女の護衛に付けておくか。

 猫嫌いなら不用意に近づかなくなるだろう。


「お前にはしばらくエレインを守ってもらうからな。できるか?」

「ミャー!」


 分かってくれたみたいだ。さすがは俺のホムンクルス。

 俺はエレインにまた会いに来ると言ってから医務室を出た。



 ◇



 Cグループ第一試合はピトとエイソンという男との戦い。

 どちらも戦闘スタイルは正統派剣士、剣と盾を巧みに使い分けながら攻防を繰り返す。


 ピトには悪いがかなり地味な戦いだった。

 観客も派手さを期待していただけに、ひたすら押したり引いたりを繰り返すだけの戦いは面白みに欠けていたのだ。


 とは言え接戦が長く続くと意外に盛り上がり始める。

 相手の剣がピトの頬をかすめた時は、一瞬だがヒヤッとした。

 逆にピトが相手を押し始めると「そのまま行け!」と叫んでしまった。

 最終的にはピトが相手の盾を破壊し、一気にたたみかけて勝利。


 見事に彼は初戦を勝ち抜いたのだ。


 次に行われたのは、同じCグループのハンニャとマリオダという男との戦い。

 こちらは数分で決着が付いてしまった。


 怨鬼槍を持ったハンニャの力は強力で、相手の槍を槍で粉砕する離れ業を見せた。

 武器を失ったマリオダは降参して試合終了。

 観客は彼の戦いぶりに喝采した。






「無事に初戦突破したらしいじゃないか」

「まぁな。これ、美味しかったよ。ありがとう」


 俺はベルザにバスケットを返す。

 本日の試合は全て終わったので、その帰りに工房に来ていた。

 適当な椅子に座ると一息ついた。


「そう言えばウルフレインはどうしたんだ」

「あの子は明日に向けてトレーニングしてるよ。負けた二人の分まで頑張るつもりなんだろう」


 ベルザの弟子はウルフレイン、ウルフサン、ウルフクモールの三人だ。

 名前で分かるとおり三兄弟らしく、みなしごだった彼らをベルザが引き取り母親代わりをしているのだとか。


 そんな彼らが大会に参加している目的は二位と三位で支払われる賞金だ。


 現在工房の経営はライバル店によって傾いているらしく、その立て直しの為に大金が必要なのだそうだ。

 母の為、育った工房の為に、彼らは戦っている。

 そう聞くと少し目元がうるっとしてしまった。


「気にしないでおくれ、アタイを助ける為とか言い訳してるけど、本当は自分達の武器と力がどこまで通用するか知りたいだけなんだ。鍛冶師ってのは自分の造ったものがどこまでの性能なのか確かめないと気が済まない生き物だからね」

「なんか分かるかも。俺も造ると試し切りしたくなるし」


 コツン。天井から小石が落ちてくる。

 ようやく戻ってきたか。


 見上げると天井のはりにロナウドがいた。


「王様はどうだった?」

「まだ近づくには早いでござる。しかし、大会が進むごとに警備は緩くなっているでござるよ」

「てことは決行日は決勝か」


 彼には王様の身辺を探らせつつタイミングを見計らってもらっている。

 強引にことにでればどのような影響があるのか不明だ。なによりロナウドを危険にさらしてしまうことになる。

 ステータスが上がっているとは言え、多数を相手に戦い続けるのは彼も至難の業だ。

 なので最も危険が少なく確実な方法をとることにしていた。


「今のは聞かなかったことにしてやるよ。アタイはただの鍛冶師だからね。面倒ごとはごめんだよ」

「巻き込んで悪いな。もしもの時は脅されてたとか言って誤魔化してくれ」

「そうさせてもらうよ。でも、陛下を助けようって心意気はアタイは好きだよ」


 国民の間では王様が傀儡と化していることは周知の事実だ。

 だからこそ彼女もこうして反逆行為を見逃してくれるのだろう。


「で、今日来たのは弁当を返しに来ただけじゃないんだろ?」

「少しの間、工房を貸してくれないか。造っておきたい物があるんだ」

「好きにしな。でも材料は自分で用意するんだよ」

「分かってる。ありがとうベルザ」


 さっそく俺は対エルフ用の秘密兵器作成に取りかかる。


 精霊壁の盾があるとは言えこのままでは心許ない。

 あいつは弓の腕の他に足の速さが目立つ。

 なので攻撃をするにはまず足を止めなければならない。


 ただ大会のルール上、持ち込める物は最初に報告した物に限る。


 新たに追加するとすれば、すでにある物を強化するか、装備の力として誤認させるしか方法はない。

 そこで俺は両方を選ぶことにした。


 付与術は一度能力を付与しても外すことができる。

 つまり武具をそのままの形で別物にヘと変えることができるのだ。


 とりだしたるは我が愛剣であるスタンブレイド。

 光るしか能のない剣だが、これだって上手くすればより強い武器にすることも可能のはず。

 えーと、付与するのは相手の動きを阻害するものと……。



 【鑑定結果】

 武器:光剣スタンブレイド

 解説:光る剣だよー(bot作成) 

 スロット:[自己修復][切れ味UP][強度UP]



 スロットにある『自己修復』をそのままにして、他の二つを外す。

 そこから別の二つを付与した。



 【鑑定結果】

 武器:光剣スタンブレイド

 解説:なんちゃって魔剣だよー(bot作成) 

 スロット:[自己修復][混乱作用][万能カウンター]



 これはかなり強力じゃないだろうか。

 試しにロナウドに向けて使ってみると、剣は仄かに点滅し始める。

 どうやらすぐには効果は出ないらしい。しばらく光を見つめさせていると、突然彼がしゃがんで何かを探し始める。


「ここら辺にモフモフがいたはずでござる。どこに行ったのだろうでござる。最近よく思うのでござるよ、モフモフはなぜにモフモフなのかと。モフモフがモフモフしてモフモフでモフモフモフモフモフ……はっ、拙者は何を!?」


 正気に戻ったロナウドは額を押さえて何が起きたのかを振り返っていた。

 効果が出るまでにおよそ十秒。その間、剣の光を見せ続けなければならない。

 ブライトの足を止めるには十分過ぎる効果だろう。


 ぬふふ、準々決勝が楽しみだ。



 ◆



 ダンッ。僕は勢いよくテーブルを叩いた。


「なんなのだあの義彦という男! 断じて許せない!」

「スターク様、どうか落ち着いてください」

「五月蠅いっ! 僕に軽々しく触れるな!」


 パシンッとシーラの手を振り払った。

 僕に取り入ろうとする卑しい女め。所詮お前は、あのいけ好かないケントを苦しめる為に寝取ったに過ぎない存在だ。いい加減飽きたんだよ。顔にも身体にも。


「しかし、麻痺が効かなかったとなると、これからは不用意に手を出すのは不味いですね」

「父上も貴様もなぜクリスティーナから僕を遠ざける! あんな女、力尽くでねじ伏せてしまえば早い話だろ!」

「力尽くで? ぶふっ、どうやら彼女と私の試合を見られていなかったようだ」


 ブライトは僕の言葉に吹き出す。

 たかが流浪のエルフの分際で僕を馬鹿にするか。

 あの男もそうだが、こいつも腹立たしい存在だ。常に下に見るような態度を、このフェスタニアの王子であるこの僕にするのだ。

 もし父上の頼みでなければ、今すぐにでもコイツを処刑台に送っていた。


「自覚がないようなのでこの際はっきりとお伝えしておきましょうか」

「ふん……自覚だと?」

「貴方は本大会の十七人の中で最弱。クリスティーナ様よりも圧倒的に格下です。お父上が近づけさせないのは、逆に貴方様が殺される心配があるからですよ」


 …………なんだと?

 僕があのクリスティーナよりも格下だと??


 ありえない。あの女は城を抜け出す前は、百にも満たないステータスだったのだぞ。

 それが五万の僕を超えているだと。冗談にしてもひどすぎる。


「あの義彦という男の仕業でしょうね。兵に調べさせたところ、あの者は腕のある錬金術師のようです。特別な武具を与え急速に強化させたのでしょう」

「それでも異常だ! この短期間に五万を超えるステータスを手に入れるなど尋常じゃない! それこそあのレイクミラーのヌシのような――!?」


 しまった! クリスティーナはそれが狙いであの大蛇と戦っていたのか!

 あの義彦という男の力を借りてステータスを!!


 どこまでも僕の邪魔をする男だ。西村義彦。

 殺すだけでは気が収まらないぞ。

 必ず自ら殺してくれと懇願するように仕向けてやる。


 だがその為にはまず、奴を倒し僕が優勝しなければならない。


「準々決勝で必ず奴を倒せ。それとできるだけ殺さずに勝つんだ」

「承知いたしました」


 ブライトは美しい顔で微笑んだ。



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