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三十四話 無謀な試み

 地下シェルターの蓋を開けて俺はこそっと顔を出す。

 人はいない。魔獣もいない。OK。

 俺とロナウドは外に出て近くの茂みで立ちションする。


「湖があるせいか早朝は冷え込むな」

「忍びになりたいのなら、そういうのにも慣れないといけないでござるよ。密偵や暗殺はいついかなる場所であろうと成功させなければならぬでござる」

「なるほどねぇ……」


 隣のロナウドのアレをちらりと覗く。


 マ、マジかよ!? なんて大きさだ!!

 俺は密かに度肝を抜かれる。

 風呂の時は上半身ばかりに目が行ってたからちゃんと見てなかったけど、まるで蛇がぶら下がっているみたいだ。すげぇ。


「よ、よしひこ殿。あまり見るものではござらんよ」

「あ、ごめんっ!」


 やっぱロナウドは色々とデカい男だな。

 俺も彼みたいに大人になりたいぜ。


 俺達は近くで枯れ枝を集めてたき火を始める。

 エレインとリリアはまだ地下で身体を拭いていて出てこない。

 シェルターにシャワールームがあれば良かったんだが、あいにくそんな便利な設備はない。

 鍋を取り出したロナウドは野菜を刻んで調理を始める。


「義彦殿、拙者はサンドイッチを作っていて手が離せないので、代わりに鍋を見ていて欲しいでござる」

「俺? 不味くないか?」

「水を入れて味付けをするだけでござるよ?」


 称号のことを知らない彼はスープの作成を俺にさせようとしていた。

 まだ肉と野菜を炒めている段階なので、完成すれば間違いなく変異するだろう。

 どうする? 説明して彼に作ってもらうか?

 でもかなり忙しそうだし……。


 と言うわけで俺がスープを作ることに。


 ダメでもスープだからすぐに作り直せるし、会心の出来がでればエッグベネディクトみたいな豪華な朝食が食べられる。

 当たりかハズレか。ほんと俺の人生って賭けばっかりだな。


 具材に火が通ったところで水を入れて沸騰させる。

 そこに塩、胡椒、香草を入れて味を整える。

 不思議なのは味見の時点ではまだまともなところだ。

 そうなんだよ、そのせいで家庭科の時は完成するまで誰も気づけなかった。

 苦い思い出だな。あ、涙が出てきた。


「義彦殿、なにかおかしくないでござるか?」

「…………」


 明らかにスープが茶色くなってる。

 さっきまで透き通るようなうす黄色だったのに。

 ただ、スープの放つ匂いには覚えがあった。


「こ、これはまさか! 味噌汁でござるか!?」

「…………」


 鑑定で見てみたが間違いなく味噌汁だ。

 毒物でもなく会心の出来でもないが、ある意味では大成功だ。

 彼の故郷にも味噌汁があるのか、ずっと鍋の中を見つめてわなわなしている。


「飲んでもいいでござるか?」

「どうぞ」


 懐から漆塗りの器を出した彼は鍋から汁をすくい取って、ごくりと俺にも聞こえる大きさで喉を鳴らす。


 ずずずーっ。


「はぁぁぁ」


 一口目の第一声は至福の声だった。

 日本食に飢えていた日本人が久々に味噌汁を飲んだような感じだ。

 表情は見えないが、ほころんでいることはなんとなく分かる。


「拙者は義彦殿と出会ったのは天命であると確信したでござるよ」

「涙!?」


 彼の目が潤んでいるのが分かる。

 どんだけ感激してんだよ。

 あ、でも、長く故郷に戻っていないとか言ってたし、味噌汁もそれくらいぶりなのかも。これで白米と漬物でもあれば最高だったのにな。残念。


 ひとまず俺は自分の称号のことを説明する。


「――なるほど、それでただのスープが味噌汁に変異したのでござるな」

「まぁな。でも作り方を覚えたから、これでいつでも味噌汁を飲めるようになったぞ」

「喜ばしい事でござる。しかし、具材がそっくり変わってワカメや豆腐が入っているのはいささか怪奇でござるな」


 俺もそう思う。


「あれ、なんか変わった匂いがする」

「そうですね。なんでしょうか」


 蓋が開いてエレインとリリアが出てくる。

 二人は鍋の前に座ってのぞき込んだ。


「茶色い……」

「茶色いですね……」


 味噌汁って知らない人からすると食べ物に見えないもんな。

 器に入れた汁をまずは俺が飲む。

 その後、二人にそれぞれ渡すと恐る恐る口を付けた。


「ちょっとしょっぱいですね。味は嫌いじゃないです」

「アタシはこれくらいがちょうどいいかな。味も意外に悪くないよ」


 まぁまぁの評価だ。

 そこへぴょこんとエレインの腰の小物入れからピーちゃんが飛び出す。

 子猫はそのままロナウドの膝元へと駆け寄った。


「ふぅぅ! ふぅぅ! モフモフが拙者の近くに!!」


 血走った目でピーちゃんを凝視する忍者。

 呪いが発動しないようにずっとピーちゃんから目をそらしていたのは知っていたが、至近距離にまで近づかれると無視できないみたいだ。

 正直、変質者みたいで気持ち悪い。


 スッ、と器を地面に置いた彼は、ピーちゃんを抱き上げてさらに呼吸を荒くする。


「モフモフっ! モフモフでござるぅうううううううう! 拙者はモフモフが大好きでござるよ!!」

「ナー! ナー!」

「ピーちゃんは匂いも最高でござるな! ふんがふんが!」


 俺達は一部始終を見ないようにしてサンドイッチと味噌汁を黙々と食べる。

 全部呪いのせいなんだ。だから見ないであげよう。


 それが俺達からのせめてもの優しさだ。



 ◇



 太陽がはっきり見える頃に俺達は準備を整え町へ行く。

 今日もヤマタノオロチ釣りをするつもりではあるが、そろそろちゃんと稼いでおかないと蓄えが底をついてしまいそうだ。


 ウチは食費がばかみたいにかかってるんだよなぁ。


 俺もリリアもめちゃくちゃ食うし、あとロナウドも結構大食らいだ。

 それに鎧が俺の二倍くらい食うから食費が飛ぶように消えて行く。

 救いはエレインとピーちゃんが小食なことだ。

 正直、地下シェルターでの寝泊まりを選択できたのは安堵した。


「なんだか騒がしくないですか?」

「ん? 言われてみれば確かにざわついている感じがするな」


 町に入ってすぐに人々の走っている姿を見かけた。

 大人も子供も老人もみんな湖の方へと向かっているようだ。


「スターク様がヌシを退治するらしいぜ!」

「どんなのが出てくるのかな! 楽しみ!」


 通り過ぎる子供の会話を耳にした俺達は顔を見合わせる。

 スタークがヌシを退治??


「もしや拙者達がヤマタノオロチを討伐しようとしているのをどこかで聞いたのでは?」

「あー、出没ポイントを聞いて回ったしな。あり得る」


 つーことは、俺達への嫌がらせか。

 王子のくせにやることが小さいというか。

 でもまぁ、代わりにあいつが釣り上げてくれるのならそれはそれでありがたい。

 あとからこっそり血液だけ採取すればいいだけだし。


 ひとまず湖の方へと行くことにする。






「みなのものよく聞け! この公国の第一王子であるスターク・フェスタニアが、湖に潜むヌシをこの機会に退治してやろうぞ! 民の安寧を守るこの僕に深く感謝するがいい!」


 おおおおおっ、集まった観衆が声をあげる。

 完全にお祭り状態だな。面白半分で集まった奴らばかりだ。

 ちらほらと貴族冒険者の姿も見かける。

 普通の冒険者はすでに森にでも出かけているのだろう。

 貴族のお遊びを見物するほど暇じゃないしな。


 満面の笑みを浮かべるスターク。

 その近くには仲間らしき3人の貴族冒険者と12人の兵士がいた。


 魔法使いに槍使いに聖職者か……バランスは悪くないな。

 ステータスも高いし、それなりに実践はくぐり抜けてる印象だ。

 自分のパーティーを見るとちょっとがっくりした。


「なんでアタシを見て落ち込むんだよ!」

「ウチはほんとバランスわりぃなぁって思ってさ」


 攻撃特化だよなぁ。ひどい。

 ああ、でもロナウドの忍術で少しはマシになるのか。

 防御面も新しい盾がある……けど使いたくねぇな。


「行け! ヌシをここまで引っ張ってこい!」


 スタークの兵士に向けた言葉に耳を疑った。


 ……ここにヤマタノオロチを連れてくる気か?


 俺の想像だが、恐らく相手はかなりデカい。

 それにここは公園もあって広めの造りではあるが、人の集まる町の中だぞ。

 ロナウドにそんなことが可能なのか尋ねようとしたが、目元を伝う冷や汗ですぐにそれが危険なことを察する。


「なんと馬鹿なことを。ヤマタノオロチはゆうに10メートルを超える大蛇でござるぞ。もしこんなところに招き寄せたら……」

「すぐに止めよう!」

「それが懸命でござる」


 俺とロナウドは人をかき分けてスタークの元へ走る。


「おい、ヤマタノオロチを町の中に入れるつもりか!」

「それは悪手でござる! やるなら湖の反対側にある、もっと広い場所でやるべきでござるよ!」

「あ? ああ、貴様達か。どうせこの僕がヌシを退治するのを阻止しようって魂胆だろ。知らないようだから言っておくが、この僕は王子でありながら聖騎士でもあるんだ。美しい剣技でヌシが倒されるところをせいぜい眺めているんだな」


 スタークが「追い出せ」と一言言うと、周囲にいた住人が俺達を掴んで、強引に集まりから追い出した。

 ダメだ。スタークも住人も好奇心と戦いへの刺激に冷静さを失っている。

 おまけに噂が人を呼び込み、集まりにどんどん人が集まってきていた。


「こうなるともう手が付けられないでござる」

「とりあえずすぐに対応できそうな場所へ移動しよう。俺達だけでも最悪を想定しておかないと」

「そうでござるな」


 俺達は少し上がった場所にある、湖を一望できる広場へとやってきた。

 湖ではすでに数隻の小舟が出ていて、大きな網で陸へと追い立てる作戦が始まっている。


「今のうちにこれを」

「はい!」「おう!」


 草団子とを二人に渡す。

 俺達は並んで団子を水で流し込んだ。


 ちなみに二日分の上昇を反映している。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:27122→29122

 防:27046→29046

 速:25799→27799

 魔:28088→30088

 耐性:28082→30082

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv63・薬術Lv65・付与術Lv62・鍛冶術Lv63・魔道具作成Lv64・ホムンクルスLv62・????・無拍子Lv2

 称号:センスゼロ




 【ステータス】

 名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:28888→30888

 防:28974→30974

 速:29766→31766

 魔:18099→20099

 耐性:18102→20102

 ジョブ:姫騎士

 スキル:細剣術Lv16・鞭術Lv3・弓術Lv9・調理術Lv12・裁縫Lv20・栽培Lv18・カリスマLv17

 称号:―




 【ステータス】

 名前:リリア・ソルティーク

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:22777→24777

 防:21678→23678

 速:21453→23453

 魔:42888→44888

 耐性:42766→44766

 ジョブ:賢者

 スキル:炎魔法Lv24・水魔法Lv20・風魔法Lv24・土魔法Lv23・補助魔法Lv20・格闘術Lv17・大正拳Lv11・分身撃Lv1

 称号:賢者の証



 さらに俺は風の精霊壁に付与を施しておく。

 使わないといけない可能性が高いからな。



 風の精霊壁 [魔力回復(大)][回避UP]



 この盾は自分の魔力を消費する。

 できるだけ長く効果を発揮するには回復は不可欠だ。

 それと回避は盾を使う俺がやられない為のもの。

 風の精霊はメンバー全員を守ってくれるみたいだが、使用者である俺が倒れてしまっては発動できない。なので精霊を呼ぶ前にまず俺が無事でないといけない。


「む、水面を見るでござる」


 湖を見ると、船が追い込む方向に大きな影が見える。

 時折水面が波立っており、そのサイズは10メートルそこらではない。


「やっぱ今のうちに逃げるか?」

「それはできません! なんの罪もない人々が愚かなスタークの行いによって傷つこうとしているのですよ!? 凶暴な魔獣ならば、暮らしを守る冒険者として立ち向かわねばなりません! それに、それに……お父様を元に戻す薬を作らなくては!」


 エレインはまっすぐな目で訴える。

 まったく優しすぎるよ。

 でもそんなところがエレインらしくていいんだけどな。


「デカいのだったらなおさらに歓迎だ! アタシは尻尾巻いて逃げ出すような臆病者じゃないんでね! 命をやりとりするギリギリが気持ち良いんだよ!」


 リリアは嬉しそうに笑みを浮かべている。

 お前は……ただ戦いたいだけだろ。最後に本音が出てるしな。

 まぁ、お前らしいよ。


「ヤマタノオロチは先人が得た知識がなければ倒せぬ難敵。拙者がいなければ困るでござろう?」


 シャリン。刀を抜いたロナウドは静かに呼吸を整える。

 彼がいるだけで心強い。


「ナー!」


 俺の腰の小物入れではピーちゃんが鳴く。

 全員やる気十分ってところか。



 そして、湖畔にレイクミラーのヌシが姿を現わした。



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