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12-4:雄二さんと面会

本日二話目です。

最新話で跳んできた方は御注意。

 面会場所として雄二さんが指定してきたのは、本来ならDPS・kantan社員しか立ち入る事の出来ない運営本部棟だった。半ば騙し討ちのような痛覚再現100%を発表したばかりだ。プレイヤーと遭遇すれば面倒なことにもなりかねず、暫らくは本部棟に引き籠るつもりでいるらしい。

 俺と、同行を希望して許可を得た真理恵さんには、今回限り有効な通行権が発行されている。


 その通行権を使って運営本部に入ると、お役所のような広い空間を背景にして、雄二さんが立っていた。


「……城太郎君、真行寺さん、ようこそ」


 雄二さんは俺達を見た途端に目を見開き、歓迎の言葉にも隠し切れない動揺が表れていた。


「雄二さん、御久し振りです」

「阿部さんにはこの素晴らしい世界に招待して下さったお礼を改めてお伝えしたいと思いまして……」


 そして俺が挨拶をするに及んで固まったようになってしまった。真理恵さんが同行した理由を丁寧に述べているのに聞いている様子も無い。呆然、と言っても良い表情で俺を凝視している。


「雄二さん?」

「……あ、ああ、済まない。豊から聞いてはいたけど……ここまでとはなぁ……」

「え?」

「いや、まあ取り敢えず落ち着こう」


 そうして案内されたのはほど近い場所にあった応接室。


「コーヒーでいいかな?」


 そう言う語尾は質問調だったが、俺達の返事も待たずにメニュー画面を操作して卓上に湯気の立つコーヒーカップを三つ実体化させ、そのうちの一つを手にするとグイッと呷った。――「熱っつ!」――そりゃ、湯気立ててるコーヒーは呷るもんじゃないからね。落ち着くべきは雄二さんだ。


 悶絶している雄二さんが復帰するのを待ちつつ、俺は慎重にコーヒーを啜る。うん、美味い。そんな俺につられて真理恵さんもコーヒーカップに手を伸ばすが、触れる直前で躊躇うようにその手を止めた。


「真理恵さん大丈夫だよ。運営の人が出してくるものはそのまま飲食できるから」

「あ、そうなんですね」


 プレイヤー間なら一杯のコーヒーでさえ通貨の移動処理をしなければならなくて面倒臭い。しかし豊さんとの飲み会や食事会を経て、運営から提供される飲食物はフリーなのを俺は知っていた。


「それで、雄二さんどうしたんですかいったい。……って、またそういう顔で俺を見て」

「……城太郎君と普通なテンポで会話できることに驚いている」

「どちらかというと、雄二さんがテンポを乱しているのでは?」

「……そういう的確な突っ込みができるのも驚きに値する」

「……」


 普通に話すだけでこれでは話が進まないではないか。


「……重ねて済まない。豊から聞いてはいたんだが……」

「それさっきも言ってましたね。豊さんから聞いたって、なにを聞いたんですか?」

「城太郎君がさ、現実リアルとは全然違うってね。初対面だと思うくらいに違う、と」

「あー……そういうことですか……」


 現実リアルとの違いに驚いたと言われれば納得してしまう。

 と言うか、俺だって雄二さんを見て軽く驚いてはいたのだ。

 俺が現実世界で会っていた雄二さんは、全身を苛む苦痛に対する忍耐を強いられており、眉間に皺を寄せた陰鬱顔が常態になっていた。動作や口調にもその影響は現れていたように思う。

 しかしここにいる雄二さんにそれらはない。さすがに初対面とまでは思わなかったが、同じ顔なのに受ける印象がまるで違う違和は感じていた。


 一方、現実における俺ときたら自室に引き籠り、寝て起きて食ってまた寝るような無気力な生活をしていた。現実逃避が過ぎて時間の経過や記憶が曖昧になってすらいた。雄二さんと会っている時だって即座のレスポンスは返せずにいたし、的外れな発言も多々あっただろう。


 ……普通に話すだけで驚かれるのも当然だな、うん。


「自覚はありますよ。引き籠りニートの現実逃避野郎が現実の俺ですからね。いや、卑下とかじゃなくて、そう言われてしまえば俺には否定できないから。ゲームクリアに向けて動けている今の俺は別人みたいに見えるんでしょうね」

「別人みたいに見えるのは確かにそうだけど、現実の君は別に引き籠りニートの現実逃避野郎ではないだろう?」

「俺自身認めたくはありませんけど、そう言われたら否定できないってのも確かなので」

「現実のきみを見てそんな事を言う奴がいる筈が無い。自宅で闘病生活しているのを指して引き籠りとは……」

「待って下さい」


 純粋な擁護の意図だとしても、雄二さんは言ってはならないことを言おうとした。


「闘病? 嫌だなあ雄二さん。まるで俺がなにかの病気に罹っているような言い方じゃないですか」


 例えば難病を患った患者が自宅療養しているのを引き籠りとは言わないだろう。難病の為に学校を辞めざるを得なかったり仕事に就けなかったとしても、その状況を指してニートは言うまい。

 しかし、だ。


「俺はいくつもの病院で何回も何回も検査を受けた。精神に異常があるんじゃないかと疑われるくらいに回数を重ねて、でも体には何も異常が発見されなかった。異常が無いなら、そりゃ健康ってことだ。そういうことに、なってしまうんだ」


 健康な人間が自室に籠り、学校にも行かず、仕事もしていない。

 引き籠りニートと言われたら否定できないだろう?

 高校の頃は『不登校の仮病野郎』とか言われて否定できなかった。病院での検査結果が“異状なし”、即ち健康なのだから否定のしようがないじゃないか。


「今は状況が変わったのは知っているけれど……俺にだって意地がある。さんざん『異常は発見されないから健康』って言ったんだから、俺だって異常が発見されるまでは自分が病気だなんて認められない」

「意地……それが、城太郎君がただ一人、ステージ6に到達できた理由なのか……?」

「意地は貫いてこそですからね。まあ、健康な俺にはステージがどうこうなんてのは関係無いけど……健康だったら自殺する理由なんて無いです、ってことで」

「そういう設定・ ・なのか?」

「設定とか言わないで下さいよ」

「……そうだね。あ」


 現実の俺が健康体であるとようやく納得した雄二さんは、そこでハタと顔を上げ、真理恵さんに目を向けた。


「流れのままに城太郎君の病気……いや、現実の城太郎君について話してしまったけど、これ、真行寺さんに聞かれても大丈夫だったのかな」

「大丈夫ですよ。俺達、現実での自分のことはお互いにある程度話して知ってますから」


 俺の発言を補強するように、真理恵さんも頷く。


「すると……真行寺さんの病気については?」

「もちろん知ってます」

「そ、そうか。あー……豊からきみたちがパーティーを組んでいるのは聞いていたんだが……もしかしてきみたち男女の仲という意味で付き合ってる?」

「「はい」」

「そうかー。真行寺さんの病気はパーティーメンバーくらいの仲で話すような事じゃないし、ペアルックだし……」


 パーティーメンバーくらいの仲だった“ノブさん”達に暴発気味にとは言え肉奴隷を提案した過去を持つ真理恵さんがついっとさり気なく目を逸らしていた。

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