12-3:告白2
お久し振りです。
年も変わったところで不定期ながら更新を再開させて頂きます。
随分と間が空いてますのでこれまでの話を忘れていると思います。私自身忘れている部分が多々ありました。前数話くらいを流し読み程度にでも読み返してから先に進むと判り易いと思います。
この後、本日12時と18時にも更新します。
俺が自らの迂闊と不注意を反省していると、開きっ放しだった受信トレイに新しい着信アイコンが出現した。差出人は他でもない、雄二さんだ。狙ったようなタイミング。いや、実際狙ったのか。投票結果メール着信からの時間差からして、読み終えて結果を受け入れるまでを計ったのだろう。
「ようやく仕事に一段落着いたから会いに来ないか、か。こんなことしといて良くもしれっと……」
雄二さんがこの仮想世界に来てから、まだ一度も会えていない。豊さんから報せを貰ってから何度か連絡を入れたのだが、「遅刻したせいで仕事が溜まっている。暫くは無理だ」とつれない反応だった。そりゃまあ、半年以上も遅刻すれば仕事も溜まって当然だろう。責任ある立場でもあるし、俺と会う時間を作るよりも仕事を片付けるべきなのは決まっている。大変だろうけど頑張ってくださいと密かにエールを送っていたというのに、蓋を開けてみれば痛覚再現100%。
考えてみれば、いくら忙しくたって二十四時間仕事漬けってことはないだろう。食事がてらにでも俺と会うくらいはできた筈だ。雄二さんも俺が痛いのを嫌っているのは知っているから、痛覚再現100%導入決定前には顔を合わせ辛かったのか? 豊さんもなんだかんだで俺を避けているような印象もあったし……。
「あの、城太郎さんは阿部雄二さんと親しいのですか? 先程も“雄二さん”と仰っていましたし」
「うん? 俺の親が雄二さんと同期で、その縁で紹介されてって感じだから親しい関係と言っていいのかどうか」
正確には“親代わり”ではあるが、「実の両親は?」の流れになるのが面倒くさいので“親”で良いだろう。で、まあ雄二さんと俺の関係は間に“親”の豊さんを挟んでいる訳で、どうしたって豊さんと同格=目上の人という認識での付き合いになる。雄二さんとの会話を思い出してみても――“引き籠り”中はぼーっとしている事が多いせいで思い出せない率も高いのだが――年齢差を越えた共感は確かに存在しているものの、先輩と後輩くらいの関係性が精々だったと思う。
「この際だからついでに言っておくと、俺、この実験には一般公募じゃなくて親と雄二さんのコネで参加してるんだ。だもんで運営側の事情ってのも少しは知っていてね。今回の痛覚再現100%ゴリ押しもそれ絡みだろうって考えてる」
運営の目的は時間加速された仮想世界を維持する事。
だから可能な限り加速倍率を下げたくない。
その為にはプレイヤーのゲーム攻略速度を鈍らせなければならないのだが、突発的に実施すれば非難轟々なのは間違いなく、後々に響いてくるのは間違いない。ネタに罠を紛れ込ませたにしろ、承認投票の結果として導入すれば疵は最小限で済むとの判断なのだろう。
その辺りを掻い摘んで真理恵さんに説明すると「私は自分の要望が通ったので、裏の事情なんかはどうでも」と反応が薄い。
「実は私も公募ではなく阿部さんに便宜を図っていただいての参加なのです。この素晴らしい世界に招待して下さった阿部さんには是非改めてお礼申し上げたいと常々思っていました」
「……あー、ごめん、この際だからついでにをもう一つ。今まで黙ってたけど、それ知ってた」
「え?」
「俺の親も運営としてこの世界にいてね。雄二さんから真理恵さんのことをよろしくと頼まれてたらしい」
「……それは、どうなんでしょうか」
真理恵さんはかなり極まった感じのドMな変態なので、物理的にも精神的にも、普通の人なら忌避するような“嫌な事”をほぼほぼ悦んで受け入れてしまう。そんな真理恵さんにしては珍しく、あからさまに不快を示す表情になっていた。
「いくら親子の間柄とはいえ、それと仕事の話は別なのではないでしょうか? 私に関する話は運営という立場だから知り得たのであって、公私の別なら間違いなく公の部分です」
「あ、ちょっと待って。豊さんも俺もそこは弁えてるよ。守秘義務は確かにある。でも“相手が既に知っている事”は秘密でも何でもないだろ? 俺は真理恵さんの病気について知っていたんだから守秘義務の範疇外だ」
病気関連や性的嗜好は繊細な話題だ。
あの時は俺も豊さんも双方どこまで知っているのか、どこまで話して良いのかを探りつつの情報交換だったのを憶えている。暴発気味な暴露などはしていないと誓っても良い。
ところが真理恵さんは「知っていた……?」と疑問顔。
「城太郎さん、私の病気を知っていたのですか?」
「知っていたもなにも、真理恵さんが自分で言ったんじゃないか」
名前の無い生まれついての致死病だと、知り合った初日にそう言われたのだ。
「言いましたけれど……でも城太郎さん、信じていませんでしたよね? あの時の城太郎さんが私を見る目は絶対に信じていませんでした」
「……ちなみに俺はその時どんな目を?」
「そうですねぇ……腐肉を漁るハイエナの糞にたかる蛆虫を見るような……最低最悪の汚らわしい何か見るような……そんな目でしたね」
それがどんな目なのか正直想像もできないが、心当たりがないでもなかった。
身近な実例を知っているだけに、致死病に関しては敏感になっている部分があるのは自覚している。気持ち良い事をしたい誘惑に抗えなくなった時、下手をしたら死んでしまうというのを致死病と言うのかと、酷く不愉快になったのは確かなのだ。
「正直言えば信じてなかった。でも真理恵さんが『自分は病気だ』と言っていたのは間違いないだろ? その病気が原因で変態になったとも言っていたし。俺は信じていなかったけど、真理恵さんは俺に自分の病気を明かしていたんだ。それは“既に知っている事”になる」
「信じていなかったけれど、親御さんとの話で事実だと知った訳ですね? 病気の症状についてはどこまで?」
「仮に“異常分岐症”と呼ばれていて、苦痛を感じると同時に快楽も発生してしまうってところまで」
「……つまり全部ですね。それを知ったのは何時の事ですか?」
「タイタンを突破した直後くらいだね」
「あの頃ですか……」
真理恵さんは“あの頃”に思いを馳せているのか虚空に視線を彷徨わせ、その視線が再び俺に戻ってきた時、視線の発生源たる彼女の両目は大きく見開かれていた。
「城太郎さんが何時私の病気を知ったのか、境目が全く思い当りません。ずっと私への態度が変わっていません」
「?」
「これまで私の病気を知った人ははっきり判るくらいに態度を変えてきたのです」
判らない話じゃないな。
真理恵さんは一見地味なようでいて良く見れば美人というタイプ。派手さは無い代わりに落ち着いた清楚系お嬢様な雰囲気を漂わせている。その上スタイルも良い。初対面での男受けは大変よろしいものと思われる。女受けは……俺は女じゃないから判らん。
そして、そんな御嬢様然とした真理恵さんが、実はMの変態だと知った時、そしてMになった原因として未知の病気が存在していると知った時、それぞれ態度が変わるだろう事は想像に難くない。御嬢様っぽいのに変態、変態だけどそれには止む得ない理由がある。中身を知ってしまえば“清楚な御嬢様”として接するのは難しい。かと言って病気を知ってしまえばただ変態として扱うのも憚られる。そして病気を患っているとしても、病気そのものは健康を害する類のものではないから、病人に対するような気遣いをするのも違うだろう。
結果、どう接するのが正解なのか良く判らないことになる。
「そして態度を決め兼ねたまま離れていってしまうのです」
……まあ、それも判らない話じゃない。




