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10-2:久しぶりの飲み会

これが2019年最後の投稿となります。

みなさま、良いお年を。

「城太郎さん」

「なんだい真理恵さん」

「それです。もうこういう関係(・・・・・・)になったのですから、お互いの呼び方も相応しいものに変えませんか?」


 お? おお?

 これはあれか?

 深い仲になったのだからさん(・・)付けは止めてお互い呼び捨てにしようってアレか?

 遠慮の無さゆえに最初から呼び捨てだった織姫たちと違って、真理恵さんとだと距離が縮まったのを実感できる格好のイベントになる。


「い、いいんじゃないかな」

「ですよね? では、私を呼んでみて下さい」

「こういうのはなんだか照れるな……ま、真理恵」


 一分前までは『真理恵さん』と呼んでいたのを『真理恵』と変えるのは照れ臭くて抵抗がある。勇気を出してさん(・・)抜きの呼び捨てにすると、真理恵さ……真理恵は嬉しそうに微笑んだ。

 こういう顔をしてくれるなら勇気を出して良かったと思う。


「じゃ、じゃあ、ま、真理恵も俺を呼んでみてくれよ」

「はい、御主人様」

「…………………はい?」


 待て待て待て待て。


「あのう……なにゆえに御主人様?」

「なにゆえ、ですか? 昨日ああいう関係(・・・・・・)になったからです」

「何か認識の食い違いがあるみたいなんだけど。真理恵さんが言う関係ってどういう関係なの?」

「真理恵、です。決まっているではないですか。肉奴隷と御主人様の関係です」

「違う! それ違う! ラブラブ! ラブラブだったでしょ!? なのになんで肉奴隷!?」

「らぶらぶ……でしょうか? 息も絶え絶えな私を容赦なく責め抜き追い詰めて屈服させたではないですか。あ、非難しているのではないですよ? 私的には大変満足できましたので。ただ……それは私だからであって、普通の女性にとってあれは拷問にも等しいのではないかと思います」

「あ、あれは若さ故の過ちと言うか、ムスコが暴走した結果と言うか……とにかくごめんなさい」


 昨日の自分の行いを振り返れば“拷問”と言われても文句は言えない。一夜明けて暢気にコーヒーなぞ飲んでいられるのも、偏に変態性から生じる度量の広さに依っているのだ。


「でも御主人様は駄目だ。それならこれまでどおりさん(・・)付けで!」

「えー……」

「そんな顔しても駄目なものは駄目! 俺は真理恵さんを肉奴隷だなんて思わないし、御主人様になるつもりもないよ」

「もう、仕方ありませんね……でも、これだけは。私はもう城太郎さん専用になりましたので、使いたくなったらいつでも好きなように使って下さい。けして他の“玩具”に目移りなどしないで下さいね」

「…………ねえ、そういう言い方止めようよ。『付き合うことになったんだから浮気は駄目』で良いじゃない」

「雰囲気ですよ。雰囲気」


 そういう雰囲気に俺を巻き込まないで頂きたい。


 *********************************


 自室に戻ってからはなんだか虚脱したようになってしまった。

 ここのところずっと自主的休日返上で蒼星蟹攻略に全力を尽くしていたものだから、すぐに次の階層を探索しようという気になれない。昨日真理恵さんと濃密すぎる時間を過ごした反動もある。買ったまま放置していたアニメや映画を観てもなんだか集中できずにいた。夕刻に『久し振りに飲みに行かないか』と清一郎からのお誘いが無ければ、再びの“睡眠”ペナルティまでそのままだったかもしれない。


 適当な居酒屋で落ち合った清一郎は相変わらずの超絶イケメンだった。

 だいぶ慣れたとはいえ、会うたびに僅かながらの劣等感をどうしても抱いてしまうのが常なのだが、どうした訳か今日はその度合いが小さい。それが態度に表れていたのかどうなのか、清一郎は「ふうん?」と怪訝なような納得したような曖昧な反応。そして、ニヤリと笑う。


「な、なんだよ?」

「いやー、なんでもないよ? いいから、取り敢えず」


 取り敢えず生、である。

 最初の一杯として注文した生ビールのジョッキをガチンと合わせ、グイッと大きく傾ける。今日のビールはいつもより美味い気がした。


「蒼星蟹には随分と苦労したみたいだな」

「まあなあ……中盤から厳しくなるってのは聞いていたけど、最初の中ボスがあれじゃあ先が思いやられるよ。……あれ? 清一郎、俺が蒼星蟹突破したって知ってるのか?」


 第三十一階層の離れ小島にある地下洞窟の最奥部。あの箱庭みたいな空間で真理恵さんと“三十五層の中ボスを突破したら一晩お付き合い”の約束をして以降の俺はそっちに注力するために清一郎から飲みに誘われたのを数度に渡って断っている。蒼星蟹相手に“死に憶え”をしている期間には攻略について相談し、またも「全部避ければ良い」という役に立たないアドバイスを貰ったりもしている。そういう経緯もあって清一郎も遠慮しているようだったのに、今日のこれだ。しかも『随分と苦労したみたいだな』と過去形で話している。まるで俺が蒼星蟹を倒したと知っているようだ。


「知ってるよ。今日の午後にさ、訓練してたら姉ちゃんのところに真理恵さんから連絡があって。で、今日なら誘えるかな、と」

「そうだったのか」


 真理恵さんと織姫は師弟関係にある。織姫自身は蒼星蟹の攻撃を「全部避けた」のだとしても、そこで終わってしまう俺と清一郎とは違い、大盾術の師として有益なアドバイスもできる。であれば討伐の報告だってするだろう。


「で、まあ……」


 清一郎は普段の爽やかイケメン振りに似合わないちょっと下卑た感じのニヤニヤ笑いを浮かべた。それでもイケメン度合いは一切損なわれないのだから美形とは得である。


「無事成人式を終えたようで、おめでとうございます」

「は? 成人式? なに言ってんだ?」


 成人式なんて何年も前に済ませている。

 その当時も引き籠り気味だったから式には参加せず、単に該当する年の成人の日はとうに過ぎているという意味だが。そもそも加速実験の募集要項に年齢制限もあって、このKantanの仮想世界にいるのは成人済みの人ばかり。そしてここで何か月経とうとも現実の日付はログインしたその時のまま変わっていないのだから成人の日など訪れようもない。


 だから清一郎の成人式発言は色々と可笑しく、正に「なに言ってんだ?」だったのだが……。


「惚けるなって。昨日、成人式だったんだろ?」


 ニヤニヤ笑いを深めた清一郎にそう言われ、ようやく思い至った。

 男のDT卒業を指す俗な言い回しとしての“成人式”なのだと。


「なんで知ってんだ!?」

「だから、姉ちゃんのとこに真理恵さんから連絡があったんだって。姉ちゃんが梓にも聞かせようってオープンにしたからさ、俺にも聞こえた」

「なにやってくれちゃってんだよ……」


 露骨で具体的な話は無かったと清一郎は言うけれど、そんなのは慰めにもならない。――清一郎、「寝落ちするまで頑張るなんてやるじゃないか」などと爽やかに歯を光らせながら親指を立てるんじゃない――つまりは露骨で具体的ではなくてもその辺りは伝わってしまっているのだ。

 いくら師弟関係だからってそういう微妙な話をするのか?

 そしてそういう微妙な話をオープンでしてしまう織姫もどうにかしているし、女同士のそういう話を遠慮なく脇で聞いている清一郎もどうなんだ?


「姉ちゃんたち、城太郎がラブラブな感じの初体験を希望したってあたりはゲラゲラ笑ってたけど終いにはドン引きしてたぞ。次に会う時にはこれをネタに絶対何か言われるから覚悟しておいた方が良い」


 どうやら今日のお誘いはこの忠告をするためでもあったようだ。

 確かにあの織姫がこの事実を知って何も言わない訳が無い。梓はどうだろう? 口数が少ない割りに口を開けば結構毒を吐く印象もある。


「覚悟ったって、どう覚悟したら良いんだ……」


 もう頭を抱えるしかない。


 *********************************


 ……覚悟なんてする暇がなかった。

 どうやってかここで俺達が飲んでいるのを嗅ぎ付けて織姫と梓が乱入してきたのだ。


「聞いたわよ城太郎! 真理恵に溺れて十何時間もの耐久ピーですって!? いくら真理恵とのピーが気持ち良いからって止められない止まらないってまるでお猿じゃないの! そうお猿! 今日からあなたは猿太郎よ!」


 行為を示す単語を口にするのは恥ずかしいらしく自分でピー音を当てているのが微笑ましくもあったが……凄い勢いで散々に言われた。

 とは言えテンションおかしいのがデフォルトなのが織姫なので、いつも通りと言えばいつも通り。それよりも、梓が目を眇めてぼそりと呟いた「……変態」の一言の方がぐさりと俺の心に深く突き刺さった。

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