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9-5:初体験の方向性

具体的な行為の描写はしていませんがエロ回です。

登場人物に変態が一人いますので、苦手な方はご注意下さい。

「よっしゃあああ!」

「やりましたね!」


 勝利の咆哮は自然と口を突いて出た。

 キュアノエイデス・カルキノス、強敵だった。

 神話由来の命名ながらフェンリルはデカいだけの狼でタイタンもでかいだけのゴブリンだった。獄卒の牛頭馬頭コンビは、あれはある意味等身大か? キュアノエイデス・カルキノスは全く名前負けしていない。それどころか出典のカルキノスが情けない最期を迎えているから名前勝ちしてるまである。さすがは中盤のボスモンスターというところか。


「そ、それじゃあ真理恵さん、例の報酬を」

「これからすぐにですか?」

「そう、すぐに」


 時間を空けてしまうよりは、死闘を終えたばかりの高揚した気分のまま事に及んだ方が俺としてはやり易いのだ。ムードも何もあったものではないがご容赦願いたい。


「もう、仕方ありませんね。ここで一旦別れてしまうと、また城太郎さんが怖気づいてしまうかもしれませんし。では、拠点に戻ったら私の部屋に移動しましょう」

「え……いや、場所は俺の部屋で……」


 以前聞いた告白を思い出せば、怪しげな小道具が仕込んであるのではないかと、真理恵さんの部屋には警戒心が湧いてしまう。


「大丈夫ですよ。全てばらした上でこっそり仕込むなんて無意味じゃないですか」

「まあ、それもそうか」


 そもそもあの企ては報酬をパイズリに設定した上で俺の欲求不満を煽り、偶然小道具を発見させる事で行為をエスカレートさせるというものだった。最初からエッチを致すのが前提なら不要であるし、知られた上で通用するものでもない。

 女性の部屋を訪れるのも初めての経験だし、それもいいかな……。


「そうと決まれば行きましょう。さあ、行きましょう」

「おう、行こう!」


 促されるままに、“浜辺の集落”の宿屋を経由して真理恵さんの部屋に移動した。どうやらマイルームへの招待設定は予めしてあったらしく、煩わしい操作は一切無かった。


 南国風の高床式木造建築の宿屋から扉一枚で現代のマンションそのままな部屋への移動は毎回違和感を覚えるものだが、今回は行き先が自分の部屋ではなく真理恵さんの部屋だ。同じ間取りでも住人が違えば雰囲気からして変わってくる。明るい色調のカーペットが敷かれていたり、実用的ではない純粋な装飾品としての小物がそこかしこにあったりと、フローリングそのままで飾り気のない俺の男部屋とは全然違った。


「あまりじろじろ見ないで下さいね。恥ずかしいです」

「いやー、落ち着いた感じで良いセンスだと思う……よ!?」


 部屋に入り、玄関口からは死角に入って見えなかったベッドを目にして。


 俺は、正気に戻った。


 *********************************


 蒼星蟹戦の後半は結構な量の回復薬を使っていたし、回復丸も複数飲んでいる。戦闘中の高揚したテンションに紛れて自覚していなかっただけで、ポーション酔いは確実に進行していただろう。そして、これまでは死に戻りで戦闘終了していたため酔いがリセットされていたが、討伐成功した今回は戦闘終了後にも酔いが残っていた。

 だからこそ、あんなにあからさまに報酬を要求できたのだと思う。

 いくら勝利の勢いを借りても、素面だったらああはいかない。


 だが、その酔いを一気に醒ます光景がそこにはあった。

 いや、いっそ血の気も退いていたかも知れない。


 ベッドだ。

 これから真理恵さんと過ごす魅惑の時間の象徴とも言える。

 目にすればさらなる高揚を誘いこそすれ、けして「え゛……」と濁点交じりの声を漏らしつつ立ち尽くしてしまうような物では無い筈だ。


「あまりじろじろ見ないで下さい。恥ずかしいです」

「いやこれどういこと!? ていうか本当に恥ずかしいと思ってるの!?」


 パイズリ計画では『これ見よがしにならないように、でも簡単に見つかるように、上手い具合に配置しておくつもり』だったという。しかしその計画を俺に明かしてしまったから『全てばらした上でこっそり仕込むなんて無意味じゃないですか』と言っていた。その話の流れは判る。

 しかし、だ。

 だからといって全く隠さずベッドの上にてんこ盛りにしておくのはどうなんだ?


 こういう性的な大人の玩具を所持しているのは、成人であれば男女問わずおかしなことではない。俺だってムスコと遊ぶための穴の開いた玩具を複数所持している。所持している事自体は恥ずかしくないけれど、所持していることを広言するのは恥ずかしい。そういうものじゃないだろうか?


「今日のために少し買い足しておきました」

「今日のためにって……え? それってつまり、俺にこれを使えって事?」

「はい!」

「えー……」


 そんなイイ笑顔で爽やかに頷かれてもなぁ……困るぞ。

 グネグネと動くであろう棒状の物、ブルブルと振動しそうな卵型の物、本来は健康のために使うべき電動マッサージ機。この辺りは、まあ、俺でもどう使うのかは判る。デカい注射器みたいなアレとか、ピンポン玉くらいの球体を紐で繋げたようなアレとかも、辛うじて。

 AVやエロゲ―で見た記憶のある物が多いが、見た事のない物もまた多い。

 縄、鞭、蝋燭といった典型的なSMグッズに紛れて茄子や胡瓜、玉蜀黍などの野菜類や泡立て器とかスプーンなどのキッチン関連が混ざっている。靴ベラ? あれはどうするんだ? その他、どこにどうやって使うのか見当も付かないようなものがゴロゴロと。


「いやー、無理だろこれ」


 特殊なプレイどころか普通のエッチも未経験な俺にこれらを使いこなせとは無理な注文だ。


「縄は難しいかもしれません。誰もが梓さんのようにできる訳ではありませんから。でも安心してください。これでしたら服を着るように装着した後で各所のベルトを締めれば完全拘束になります」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。一生に一度の初体験をこういうのでぐちゃぐちゃにしたくないんだ。真理恵さんの趣味は判ってるから、いずれはこういうのもありだと思うけど、せめて最初は普通に、ラブラブな感じに……」

「らぶらぶ? 城太郎さんは私にらぶなのですか?」

「そう言われると自信はないけれど、形だけでも」

「んー……私としてはせっかくの仮想世界ですし、身動きできないように全身を完全拘束された上でモノのように扱われながら処女を喪失し、その上様々な器具を使って散々に弄ばれるというのを経験してみたいです。現実では、ちょっと難しいですからね」

「現実では、か。ごめん、それならなおさらここは俺に譲ってくれないか?」


 仮想世界と現実世界と、真理恵さんには“初めて”を経験する機会が二回ある。

 そして真理恵さんが言ったような初体験を現実世界でするのは確かに難しいだろう。しかし難しくはあっても不可能ではない。同好の士が見つからないとも限らないし、綿密に計画して安全面への配慮を怠らなければ体を壊すこともないだろう。

 でも、俺の“初めて”は仮想世界でのこの一度だけだ。

 現実世界の俺を思えば、あっちで“初めて”を経験するのは不可能。

 俺にはそう言い切れる。


「頼む! 俺を助けると思って!」

「でも……初めてで上手くできますか? 初体験で失敗すると後々長く引き摺るという話もありますよ?」

「うっ……」

「ちなみに私もらぶらぶな初体験を上手くする自信はありません。その点、私の案でしたら私の方は拘束されて転がされているだけですし、城太郎さんは好きなように挿れて出すだけですから失敗のしようがありません。後は興味と本能の赴くままに私を使って遊んでください。私に気を遣う必要はありませんよ? そういうのを経験してみたいのですから」

「……」


 清楚な御嬢様然とした外見の真理恵さんから連発される変態発言に引きながらも、一理あると思ってしまう自分がいた。

 いや、いやいやいや、待てよ俺。ここで納得してはいけない。

 とは言え、俺と真理恵さん、双方が望む初体験がここまで違うのはどうしたものか。どちらか一方が自分を殺して相手に合わせるというのも何か違うような気がするし。


「……あ」


 その時、天啓にも似た一瞬の閃きが俺の脳裏に舞い降りた。


「どうしました?」

「ちょっと思い付いた事があって……」


 閃きを頭の中で言語化していく。

 真理恵さんは苦痛を快楽に変換する体質的Mなだけでなく、蔑みや羞恥を悦ぶ精神的なMでもある、心身ともに揃った変態だ。であれば、話し方によっては双方の希望を同時に叶えられそうだ。


「真理恵さん、俺のMに関する知識はそこまでじゃないから間違ってるかも知れないんだけど、“自分の意思を無視されて、欲望を満たすための道具として扱われる”のってMの人的にはアリなんだよね?」

「はい。私の案はまさにそういうものですから」

「じゃあ……俺がこう言ったらどうする? 『俺は、緊縛されて弄ばれたいという真理恵さんの意思は無視して、ラブラブな感じの初体験をしたい俺の欲望を満たすための道具として真理恵さんを利用したい』」

「…………あ、あは」


 真理恵さんは俺の言い様に暫しキョトンとして、次いで楽しそうに笑い出した。


「さすが城太郎さんです。体ではなく心を縛りに来ましたか。仕方ありません。ここは言い包められてあげます。あまり自信はありませんが、らぶらぶな感じの初体験をするための道具になれるように頑張ります」


 ――こうして、俺はラブラブな感じの初体験を迎える事ができたのだった。

 とても良かった。

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