9-1:確認
前話からそのまま続いています。
恐らくもう憶えてないでしょうから、前数話を軽く読み返してから今回投稿分を読むと良いかもしれません。
本日、6、12、18、20、22時に投稿します。
少しだけ言い訳をさせて欲しい。
今になって己の少年時代を振り返ってみると、どうにも性の目覚めが遅かったのではないかと思う。中学生の頃、級友たちのヒソヒソ話から漏れ聞こえた女性器を示す隠語が理解できなかった記憶がある、と言えばどれほどだったか判るだろうか? 雑誌の水着グラビアや漫画のちょっとエッチなシーンにムラムラとして、いつ頃からか子供ながらにムスコと遊ぶようにはなっていたものの、男女の営みの具体的な部分については無知であったのだ。女子と仲良くなろうとするよりも、話の合う男子と遊ぶ方が楽しい。そんな感じだった。
高校生になって、新たな交友関係を築くとともに性的な知識も入ってくるようになり、男子と遊ぶだけでなく女子ともお付き合いをしたいなと思い始めた矢先に、件の仮病疑惑絡みの問題で学校側と揉めてしまった。周囲からは遠巻きにされるし、疑いが晴れる頃には俺は不登校気味になっていたしで、とてもではないが女子とお付き合いできるような状態ではなかった。
そんな状況で豊さんの説得に折れる形で大学に入学したが、遅刻と早退と欠席を連発する有様で、サークルや部活にも所属していないとなれば、そもそも女性と知り合う機会にも事欠いてしまう。結局二年で中退してしまい、案の定、女性と付き合うどころか友達もできなかった。
そうして本格的な引き籠り状態に移行した訳で、つまり俺には恋愛経験が無い。
そんなんで“エッチを致すような親密な仲にまで進めるための段階の踏み方”なんて身に付く訳が無い。判り易い好感度上げのイベントがあるとか会話の選択肢が出るとかすればどうにかなるだろうけれど、ギャルゲーやエロゲ―じゃあるまいし、現実にはそんな便利な機能は実装されていないのだ。
真理恵さんは「“外の街”で会おうと誘ってくれなかった」と言うけれど、まずもってどこに誘うのが適切なのかが判らない。無難なのは食事か? だとしてもどんな店にする? 居酒屋で良いのか? もっと相応しい店があるんじゃないか?
……そこはネットなり情報誌なりに頼ってクリアしたとしよう。
なんか良い感じのお店に真理恵さんと行ったとして……それでどうするんだ? 食事に誘ったんだから飯だけ食って帰れば良い? そうじゃないだろう。なんかこう……気の利いた会話で盛り上げる必要があるんじゃないか? で、気の利いた会話ってなんなんだ? 何を話せば“エッチを致すような親密な仲”というゴールに向かって段階を踏んでいけるんだ?
判らない。
切実に選択肢が欲しい。
まあ、そもそも誘うって発想自体が無かった訳だが。
あったとしても実行する前に詰むのが判ってしまう。
そして勝手に推測するならば真理恵さんも似たようなものなのだろう。
真理恵さんくらいの容姿で男にモテない筈が無い。が、生まれながらに例の病を患っているのであれば、幼少の頃から周囲からは奇行と見られる言動が多々あっただろう。ある程度の年齢になれば自身にも周囲にもそれが性的なものだと判ってしまう。
判ってしまった後にどうなるか。現実世界にある真理恵さんの体は未だ清いままだそうだから上手く立ち回って最悪な事態は回避したようだが、下手をすればそれこそ鬼畜系エロゲみたいな展開にだってなり得たと思う。“ノブさん達”のパーティーも“森”ステージの途中までは上手く回っていたのだから、表面的な取り繕いに問題は無いのだろう。
それでも……いや、それだからこそ、か。
真理恵さんも尋常な恋愛経験を有していない。
俺と同じく、異性との仲を進展させるための段階の踏み方を知らない。
知らない同士なのだから、そりゃあまともな進展なんか望めないか。
でも、知らない故に何もしなかった俺と違い、真理恵さんは知らないなりにどうにかしようとしていた。
考えてみれば女性と知り合ってからおっぱいを揉めるようになるまでには、果たしてどれだけの段階があるのだろうか? 生で揉めるようになるまでには? 摘まめるようになるまでには? 妙な言い方になるが、そういう諸々の段階をすっ飛ばしつつ、真理恵さんなりに段階を進めていたのだ。
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「でも……本当に俺で良いの?」
単に変態的な性癖を知られているだけなのと、実際に肉体関係を持ってしまうのとでは雲泥の差があると思う。実験終了後を心配するのであれば俺だってマズいのではないか。
それに清一郎がいる。あいつの場合は天音流剣術道場の嫡男という立場上、自身が安易には女性に手を出せない。それだけに現実世界に帰った後に清一郎からどうこうしてくる可能性は限りなく低いだろう。変態性癖については既に知っているし、関係性を実験中だけに限りたい真理恵さんとはある意味で条件が一致する。そして……男性的な魅力において、清一郎が俺を大きく上回るだろう事は疑いようもない、と俺自身が認めざるを得ない。
「好きだと言っているのにそういう確認を……」
「そうは言ってもなあ」
「…………打算はありますよ? 実は織姫様から城太郎さんについてお話をうかがっていまして、実験が終わって現実に帰ってから良からぬちょっかいをかけてくる事は無いだろう、と」
「なんだ、現実の俺がどんなもんか聞いてるのか……」
清一郎も俺について知っているようだった。
天音流剣術勢はDPS・Kantan社の藤田社長と繋がりがあるようだし、豊さんや雄二さんの縁で参加している俺の話はそっちから伝わっているのだろう。織姫がどこまで知っていて、どこまでを真理恵さんに話したのか定かでないが、少なくとも、名前と外見を頼りに真理恵さんを探し出すような、そんな意欲的な行動はしないと確信できるくらいには情報が流れているようだ。
実際、自室からほとんど出ないような引き籠りには無理な所業である。
「それから清一郎さんですが……。私は自分の容姿が男性にウケるのを自覚しています。劣情を煽るスタイルであるのも。でもあの人の眼中にはまるで入っていないようです」
「……あー、なんとなく判った」
真理恵さんは美人だ。変態的な言動が漏れ出るとかなり気持ち悪いけれど、黙って立っている分には落ち着いた感じの和風美人で、左の眼もとの泣き黒子が色っぽさも醸し出している。人の好みは様々なれど「美人か否か」と問うならば十人が十人とも「美人だ」と答えるだろう事疑いない。
だが、しかし、清一郎はそれ以上に美人なのだ。それこそ百人や千人に問えば同じ数だけ肯定が返って来るレベル。否、万人でも、だ。そして双子と見紛う織姫も美人だし、この二人の親であれば両親だって相応の美形揃いなのだろう。毎日見る鏡の中の自分の顔と親姉弟の顔がソレならば、清一郎にとってはソレが“普通”になる。なってしまったら……残念ながら真理恵さんレベルであろうとも“普通”以下だ。
そしてもう一つ、巨乳好きでありながら理想を追い求めるあまりに“理想のおっぱい以外はどれも大差ない”とする清一郎の歪んだ価値観がある。俺が大いにネタにさせて頂いた織姫でさえ「そこそこ」の評価で、しかも極めて控え目な梓を大差無いと認識しているのだから、あいつの目に真理恵さんがどう映っているのかは想像に難くない。おっぱい博愛主義者だから差し出されれば喜んで手にするだろうけれど、おっぱい博愛主義者故に“その他”扱いのまま難を排してまで敢えて手を伸ばそうとはしない。
……ここまでくるとさすがにムカついてくるが、清一郎がガチで真理恵さんを狙って来たら俺じゃあ太刀打ちできない。幸い、ということにしておこう。
「あ、でも城太郎さんだってイケてますよ? 特に、その少し病的な感じが、いかにもマニアックな嗜好を隠していそうで」
「フォローしてくれてありがとう?」
いや、これフォローなのか?
病的でマニアックって……。




