8-10:告白
真理恵さんは忌々し気に呟き、キッと顔を上げた。
「実は、三十五階での報酬をパイズリにしようと思っていました」
「パ、パイズリ!?」
パイズリと言えばあれだ。おっぱいの間にムスコを挟んでスリスリとする奴だ。母性の象徴であるおっぱいとムスコが直接触れ合うのだからとても素晴らしいに違いない。
「でもそれは止めます」
「……え」
素晴らしいに違いないのに……止めちゃうのか……?
「……そんな世界の終わりのような顔をしなくても大丈夫ですよ。順番が変わるだけですから」
「順番?」
「ええ。もっと後にするつもりでしたが、次の報酬は“一晩お付き合い”にします。お付き合いの中でパイズリの要望があれば応じますので」
「いや、でもそれは……」
「待って下さい。以前同じ提案を却下された理由はちゃんと憶えています。にも関わらず何故再び持ち出したのか、順序立てて説明しますので。……少し長い話になります。あちらでお話ししましょう」
広場内の陸側、座るのに丁度良い岩がある。
そこに横並びで座った。「いくら私でも正面から向き合って話すのは恥ずかしい内容なので……」と真理恵さんは言う。
「私にとっての理想は、最初のあの時に私を肉奴隷にしてくれる事でした。でもそれは城太郎さんに引かれてしまいましたから、次善として、城太郎さんの方から襲ってくれるようにしようと考えたのです。胸を揉むだけという生温い報酬を城太郎さんが引かない程度にグレードアップさせて興奮を高めていけばと思いましたが、露出しての生揉みでも駄目でしたね」
牛頭馬頭コンビを討伐して報酬を貰い、第三十一階層に到達したときの態度を思い出す。あれは俺が襲わなかったからなのか……。
「そこで思い至ったのが数々の個人設定です。私も設定のオンとオフでどう変わるのかは体験していますから、もしかしたら城太郎さんが設定をオフにしているのではないか、と。それは今日、やはりそうだったのだと判りましたが……。露出して生揉み、摘まむ権利も付けた後で、報酬を胸関係で続けようとすればパイズリにするのは不自然ではありませんし、それであれば城太郎さんも設定をオンにしなければなりません。それに城太郎さんも露出するなら屋外ではなくマイルームか“外の街”の宿泊施設に場所を移すことになるでしょう」
「まあ……それはそうだな……」
例えボスエリアであろうとも、外でムスコを放り出すのはハードルが高い行為だ。報酬がパイズリとなった場合、俺ならプライベートなスペースに場所を変えるように要求しただろう。そこは真理恵さんが読んだ通りだ。
「筋書きとしてはこうです。城太郎さんの場所を移したいと言う要求に応えて私のマイルームに移動します。そこでパイズリですが、城太郎さんを上手く煽るようにして報酬だけでは満足しないように仕向けます。すると城太郎さんは欲求不満を抑えきれず、本能のまま獣のように私に襲い掛かり、偶然そこにあった器具で私をきつく拘束して抵抗できないようにして欲望の赴くままに私を汚し尽し、それでも飽き足らずに偶然そこにあった様々な器具を使って散々に私を責め立てるのです。その上、偶然そこにあったカメラで私の痴態を撮影して、『この動画をばら撒かれたくなかったら俺の奴隷になって絶対服従しろ』と……。そうして逆らえなくされた私は何時までも姓処理奴隷として使われる事に……うへ……うへへへ……」
「はい、そこまで」
最初は普通に話していて、だんだんとうわごとのような語り口になり、とうとう気持ちの悪い笑いが漏れる至り、俺は片手剣の柄で真理恵さんの脇腹を軽く突いた。痛みではなくくすぐったさに「あう」と身を捩る真理恵さん。「もっと強く突いていただいても……」と言うのは無視しておく。変な世界に旅立ちそうな真理恵さんの意識を引き戻すために突いたのであって、被虐趣味を満たしてあげるためではない。
「色々突っ込みどころが……」
「どうぞ存分に突っ込んでください」
「いやまあ……俺が引かないようにってされた話で今まさに引いている訳だけど……短絡的に俺が襲い掛かる前提なのはどうなの? あと、真理恵さんの部屋を想定してるんだよね? いろんな器具やカメラが偶然そこにあるって……自分の部屋だよね?」
「偶然なのは城太郎さんにとってです。用意した私にとっては必然ですね。これ見よがしにならないように、でも簡単に見つかるように、上手い具合に配置しておくつもりです。あまりあからさまだと城太郎さんが引いてしまうでしょうから」
「だから……そういう企みを聞かされてる今ドン引きしてるって……てか、なんでそこまでして襲われたいんだ? あー……いや、真理恵さんにそういう願望があるからなんだろうけど……なんで俺?」
真理恵さんだったら“浜辺の集落”でちょっと色目を使えば言い寄って来る男には不自由しないんじゃないか? そうなって欲しいとは思わないし、そうはならないでくれとは思うけれど、真理恵さんが「肉奴隷にして下さい」と申し出れば受け入れる奴だっているだろう。
「改めて考えてみると、仮想世界とはいえ現実と同じ外見と名前なのですから、あまり羽目を外すと実験が終わった後で困ったことになるのではないかと思いました」
「……今更それを」
なにをしようとも現実世界にある肉体には影響しない。
が、外見と名前が現実のままなのだから、人間関係は影響を及ぼすかも知れない。誰彼構わず性癖を暴露して肉奴隷になどなってしまったら、実験終了後の現実世界で顔と名前を手掛かりに居場所を突き止められ、実験中と同じ関係を持つように要求されることだってあり得る。それはその通りなのだが、今更言う事なのかと思ってしまう。
「ノブさん達や城太郎さんに言ってしまったのは切羽詰まっていたからでして……落ち着いてから後悔しましたよ? それで……今後は既に御存知な城太郎さんに絞ろうか、と」
「消去法なのか」
「と言うのは建前で、私、城太郎さんを好きになってしまいました」
「え? 今なんて言ったの? いや、難聴系主人公を気取るつもりはないんだ。好きって言われたような気がするんだけど……マジで?」
「はい。好きと言いました」
「マジなのか……真理恵さんみたいな見た目だけなら良いとこのお嬢様な女性が俺を好きになるとか有り得るのか?」
「見た目だけって、酷い言い様ですね。……でも、そうやって貶められるのも堪りません」
「まさか!? 俺のこういうところを!?」
真理恵さんの変態性を知ってから、彼女をゴミや虫を見るような目でしまった事が何度かある。普通の女性になら使わないような言葉を使ってしまったことだってあった。そういうのが被虐趣味な真理恵さんの琴線に触れたのだろうか。
「否定はしませんけれど、私を守る為にボスに立ち向かう姿にときめいたりもするのです」
「そんな乙女みたいな」
「私にだって乙女心くらいあります」
とは言え、あれでなぁ……。
天音流大盾術を得て真理恵さんの盾役はかなりレベルアップしている。しかし鉄壁とはいかず、タイタン戦の時のように俺が一時的に盾役を務める事もあった。軽鎧と小盾装備の紙装甲、腰が引けた情けない臨時盾にしかならないが。
「格好悪いながらも退かないのは格好良いと思いますよ」
「……ありがとう」
褒められれば悪い気はしない。
「好きって言ってくれるのは嬉しいよ。でもさ、その結果が襲われるように仕向けるってどうなのさ? 俺だって、その……ゆくゆくは真理恵さんとそういう関係になれたら良いなとは思ってたけど、そういうのはちゃんと段階を踏んでいきたいというか……」
真理恵さんの見た目は多くの部分で俺の好みに合致している。
重度の変態であるのは大きなマイナス要因ではあるものの、それ故に気安く接する事ができるのも事実だ。外見だけでなく中身までまともなお嬢様だったら、俺は気圧されてしまって上手く喋れなくなっていたかも知れない。そう考えれば変態であるマイナス分は小さくなる。
総合すれば、真理恵さんはかなり俺好み。真理恵さんみたいな女性と知り合える機会なんて今後はもう無いんじゃないだろうかとさえ思う。時間をかけて仲を進展させて、エッチも致すような親密な間柄になれたら良いなと考えていた。
幾つもの段階をすっ飛ばして襲おうなんてことは露程も考えていなかった訳で、真理恵さんの企みは正直ショックな部分もある。
「そうは言いますが、どうやって段階を踏んだら良いのか判りません。城太郎さんだってゲームの中の付き合いだけで、“外の街”で会おうとか誘ってくれたことも無いじゃありませんか。だったらもう報酬をグレードアップする形で段階を踏んで襲ってもらうしかありません」
「そう言われると……うん、なんかごめん」
段階を踏んでとか時間をかけてとか言っておいて、俺もどうすれば段階を踏めるのか判らなかった。




