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1-1:大遅刻

本日、16・18・20・22・24時に投稿します。

今後もキリの良い所まで書いてからまとめて投稿するようにします。


今話から主人公の城太郎視点です。

「やあ城太郎君、久し振りだね。DPS・Kantanの加速世界にようこそ」

「あ、豊さん」


 ログインすると目の前に豊さんがいた。

 石造りの建物に囲まれた中世ファンタジーな風景の中にスーツ姿で立つ豊さん。違和感が凄い。プレイヤーではなくメーカー社員として運営側の立場だからなのだとしても、もう少しどうにかできなかったのか?


「久し振りって……遅刻したのは悪かったけどそこまで言わんでも……」

「嫌味とかじゃないよ。こっちからしたら本当に久し振りなんだ」

「つったってついさっき会ったじゃん」


 豊さんとはログイン前に会ったばかりだ。それで「久し振り」なんて言われては、遅刻した身としては嫌味なのかとも思ってしまう。


 と言うのも、この加速実験の一般参加者は結構な募集倍率を潜り抜けて選抜されているのに、俺は豊さんのコネで――正確に言えば豊さんの上司である雄二さんの、であるが――抽選とかは抜きで参加権を貰っている。“阿部雄二”と言えばVR業界にその人ありと言われる重鎮であり、豊さんが勤める会社のお偉いさんでもある。まあ、豊さんと雄二さんはもともととある企業で同期入社の仲。雄二さんがバリバリ出世して差が開いてしまったけれど、豊さんも相応に仕事のできる人だったから雄二さんが新会社を立ち上げる際に誘われて転職したという経緯があるそうだ。上司部下の関係以前に同僚であり友人でもあった。だからこそ豊さんの親戚という立場の俺にコネ枠が回ってきたわけで。

 そんな俺がいきなり遅刻では豊さんの立場的には微妙であろう。


「いやいや、本当に嫌味じゃないよ。忘れてないかい? ここは加速されてるんだ。城太郎君にとってはついさっきでも僕にとっては一か月前の事なんだよ」

「……は? 一か月?」

「二万二千倍の超加速だ。外の一分がここでは半月くらいになる」

「マジか……」


 ちょっとバタついて医療用PODに入るのが遅れてしまった。その時九時ギリギリくらいだったから端末の接続やログイン操作なんかの時間を考えて遅刻したのは一分か二分くらいだと思っていたけれど……なるほど、時間が加速されているとこういうことになるのか。


 それにしても……一か月か。

 間違いなく、俺の人生における最大級の遅刻だ。


「マジですんません」

「それは良いって。咎めるつもりはないよ。ところで体の調子はどうだい? 違和感とかないかな?」

「うーん……うん? なにもない? 凄いなこれ」


 その場で少し体を動かしてみれば即座に判る。

 他のVRゲームでなら感じていたであろう違和感が全く無く、スッキリ爽快な絶好調状態だ。凄え凄え言っている俺を豊さんは嬉しそうに見ている。


「Kantanは従来のシステムとはダイブ方式が違うからね」

「豊さん、マジ凄えっすよ」

「ははは、ほとんど雄二の功績だけどね……」

「そんな謙遜せんでも。雄二さんだって豊さんを頼りにしてたじゃん」

「まあ、それはね。……それにしても、こんな快活な城太郎君と話すのはいつ以来だろうな……」

「あー……いや、それは本当にすんませんとしか……」

「違う違う、責めてる訳じゃないんだよ」


 慌てたようにパタパタと手を振る豊さん。

 しかしながら豊さんに対する申し訳なさと感謝の念は忘れちゃいけない。


 この俺、小田原城太郎を端的に表す言葉は何であろうか。

 なにかもっともな言葉があるのかも知れないが、もしも誰かが俺を指してひきニートと言ったならば、まことに不本意ながら否定しきれない。


 小学生の頃に両親が事故で他界した。

 両親の遺産があったし、親父方の親戚の豊さんが保護者になってくれて生活に困る事は無かった。普通に暮らせていて普通に高校生になって、でも学校を休みがちになり出席日数ギリギリでどうにか進級。そんなもんだから当然成績はそれ相応だった。お情けで貰った推薦枠で大学に進学したものの、その頃は別段何も勉強したいという強い意志も無ければ無理して大学に通おうなんて意欲が湧いてくる筈もなく、かと言って出席せずとも問題無いように立ち回るような器用さも俺には無かった。結果、単位が不足して二度の留年。

 そして俺は諦めた。

「学生時代ってのは人生の中でも貴重だぞ」と翻意を促していた豊さんも最後には諦めた。親代わりとして何かと世話になっている豊さんを悲しませてしまったのは胸が痛んだが、俺は一年生のままに大学を中退した。

 それから二年くらい、将来への希望も展望もなく、寝て起きて飯を食ってまた寝るような生活をしていた。何か熱中できる趣味でもあればもう少し違ったのかも知れない。高尚でなくても構わない。ゲームだって良い。動画の配信サイトでゲームの実況をやって金を稼いでいる人だっているし、プロのプレイヤーになれば大会で賞金を獲得したりもできる。豊さんがいくつものゲームを俺に勧めてきたのは、自身がゲーム業界で働いているからだけでなく、ゲームだってそうして仕事にできる時代だからだろう。

 しかし……俺はゲームにさえのめり込めなかった。

 どれも長続きしないのである。学校と同じだ。最近のゲームはVRのMMOが主流で、ああいうのは毎日継続してそれなりの時間ログインするのが前提みたいなもので、短時間ずつのブツ切りログインで、それすら毎日はやってられない俺ではついていけない。結局は一人でできる非VRのレトロなゲームを漫然とプレイするくらいだった。


 学校に行かず、仕事もせず、就業訓練もしていない。年齢も含めて、ニートと呼ばれる条件を満たしてしまっていた。他の呼び方もあるのだろうが、ニートと呼ばれれば否定できないのが悲しい……と思いつつ、それすら次第にどうでも良くなってきていた。


 雄二さんと初めて会ったのはそんな折だった。

 家からほとんど出ず、ゲームですら他者と接触する機会を捨て、社会とほぼ切れている状態の俺を心配した豊さんがとある病気で休職中の雄二さんを自宅に招いたのである。

「私は君と同じだ」と雄二さんは言った。

 何が同じなのかと興味を惹かれて話を聞くにつれ何度も驚かされた。

 阿部雄二。

 ゲーム業界では知らぬ者のない有名人で、いくつものタイトルをヒットさせている。その中には俺がプレイしたことがあるものもあって、それを言ったら嬉しそうにしていたが、途中で投げ出してしまった事を告げると悲しそうにしていた。「止められないくらいに面白いゲームを作れなかった私の負けだ」と言ったのは製作者としてのプライドからだろうか。


 そんな雄二さんは病気になり、休職して一時的に無職になり、寝て起きて飯を食ってまた寝る、そんな生活をしているから俺と同じだと言いたかったらしい。が、病気を克服して仕事に戻ろうとしている雄二さんと、働こうなんて微塵も考えていなかった俺が同じとは言い難いと思う。


 その後も雄二さんとは何度も会って色々な話をした。

 そうしてつい先日の事、復職した上に新しい会社を作った雄二さんから実験に参加しないかと誘われた。『エクスプローラーズ』というゲームを舞台として行われる仮想世界の時間を加速させる実験だ。


「城太郎くんには是非参加して欲しい。『エクスプローラーズ』は君の話を参考にしているし、この実験は君のために用意した部分もあるんだ。それに参加してくれれば御礼金も出る」


 話の中で最近のゲームは複雑すぎてついていけないと言った事があったような気がする。雄二さんはそれを覚えていてくれたらしい。基本に立ち返ったようなシンプルなゲームとして『エクスプローラーズ』を作ったそうだ。

 雄二さんにそうまで言われればさすがの俺でも無関心ではいられない。なにより“御礼金”に心を動かされた。豊さんは俺を育てるにあたって両親の遺産にはほとんど手を付けていなかった。「兄貴たちの残した金は城太郎くんの将来の為に残しておこう。僕を甘く見ないで欲しいね。自分ともう一人、暮らしていくくらいは余裕で稼げるさ」と言った豊さんの男前振りよ。俺が女だったら惚れていた。どうして未だに独身なのかが不思議でならない。

 とにかく、今の俺は経済的にも豊さんのお世話になっている。けして安くない大学の学費だって豊さんの財布から出ていて、結局中退して無駄にしてしまった挙句に働きもせずにきた俺だ。当然ながら一円の稼ぎも無い。実験に参加して御礼金を貰ったら、これまでのお礼の意味で何かプレゼントでもしよう。それくらいしないと天罰でも下りそうだ。

 ……豊さんが勤める会社からの御礼金で豊さんにお礼の品をってのが少し微妙ではあるが……そこはまあ仕方ない。


 そんな訳で、俺はDPS・Kantanの超加速実験への参加を決めた。

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