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6-6:性癖発覚

「でもなぁ……この画像、三十年前くらいだろ? 巨乳は垂れやすいとも聞くし……」

「馬鹿な事を言わないでくれ。俺の理想のおっぱいは永遠だ。垂れたりなんかしない」

「清一郎、お前……」


 判った。時の流れは誰にとっても平等なのに、理想を追い求めるあまり清一郎は現実を直視できなくなっているのだ。清一郎の“理想のおっぱい”はもはや彼の記憶の中にしか存在していないというのに――「はあ、永遠……」――ほらみろ、梓も盛大に溜め息を吐いているぞ。


「清一郎と結婚する女性は大変だな」


 清一郎が現実を認めない限り、記憶の中の理想は無敵状態だ。誰も勝てない。常に理想と比べられて負け続ける事になる。それはとても不幸なのではあるまいか。


「待った。城太郎はやっぱり誤解してるだろ? もう一回言うぞ? おっぱいに大小での貴賎は無い。確かに理想のおっぱいがナンバーワン、これはもう不動だけど、俺が尊敬するとある人はこうも言っていた。おっぱいはおっぱいであるというそれだけで全て尊い。ナンバーワンになんかなれなくても良い、それぞれが特別なオンリーワンなんだ、ってな。深いだろ?」


 深いのか?

 それって無節操なおっぱい好きを言い繕っているだけなんじゃないのか?


「森上流は巨乳家系の血を入れないようにしてるからそういう価値観にならざるを得ない」


 とある人の娘らしき梓が慌てたようにフォローを入れてくるが……“血”ときたか。弓術における巨乳の不利を子孫に負わせないためなのだとしても、なんだか因習めいた話だ。しかしまあ、森上家の男性が自身の好みに関わらず胸の小さな女性としか結婚できないのだとすれば、なるほど無節操……いや、おっぱい博愛主義的な思想が必要なのだろう。


「ん?」


 森上流特有のおっぱい博愛主義的思想に、何故か天音流の清一郎が染まっている謎に想いを馳せていたところ、気付けば真理恵さんが俺をじっと見ていた。

 俺達がおっぱい話をしている間に織姫の指導も一段落していて、動きを止めた二人がなにやら話しているのは視界の隅で捉えていた。型指導の総括とかしてるのだと思っていたのだが。


「梓ー、梓ー、ちょっとこっちにいらっしゃーい!」


 そして何故か織姫が梓を呼び寄せる。

 大盾術に無関係な梓を呼んで何をするつもりだ? まさかさっき織姫がやったみたいに梓に矢を射らせて真理恵さんに防がせるとかか? いくらなんでもそれは早過ぎるのではないかとハラハラと見守っていると、織姫と話していた梓が弓を仕舞い、代わりに手にしたのは……縄!?


「なんだ? 姉ちゃんまたやるのか?」


 清一郎のぼやきのとおり、梓は剣術着の上から織姫に縄を掛け、あれよあれよという間に前回と同じ背中側で両掌を合わせる形に縛り上げていた。

 うーむ……織姫の緊縛姿は相変わらずエロイな。


「ほーほっほっほっ! ほうら御覧なさい、城太郎の視線は私に釘付け! 言ったでしょう! 城太郎はこういう縛りプレイが大好きだって!」

「織姫! 真理恵さんにそういうネタはっ!」


 顔を真っ赤にして織姫の緊縛姿から目を離せないでいる真理恵さん。

 彼女の本性を知らなければ純情可憐な深窓のお嬢様が突然の破廉恥展開に動転して固まってしまっている様に見えるだろう。だからこそ清一郎も「真理恵さん、姉ちゃんがいきなりおかしなことしてびっくりしたと思うけど……」と申し訳なさそうにしている。

 しかし、違うのだ。


「梓さん、素晴らしいです! 迷いの無い縄捌き、思わず見惚れてしまいました!」

「「「え?」」」

「城太郎さんも人が悪いです。こういうのが好きなのでしたら最初から仰っていただければ」

「いやそれは違う」

「つきましては梓さん、その見事なお手並みで是非私も」

「「「ええ!?」」」


 真理恵さんはインベントリから縄束を取り出して梓に手渡す。縄、標準装備なのか。まさか真理恵さんも捕縛術を……って、そんな訳ないな。セルフ緊縛用か何かだろう。


「織姫ぇ」


 さすがにこの展開は予想外だったのだろう、反射的に縄束を受け取った梓はオロオロと手中の縄束と真理恵さんの間で視線を彷徨わせ、最終的に姉貴分に助けを求めていた。


「ほ……ほーほっほっほっ! な、なかなか見所あるじゃないの! いいわ梓、縛って上げなさい!」

「さあどうぞ!」

「う、うん」


 戸惑いを隠しきれない梓だったが縛り始めてしまえば後は速い。

 あっという間に真理恵さんも緊縛終了。

 その途端、「「負けた……!」」と崩れ落ちる織姫と梓。

 ん? なんで梓まで?

 織姫はまだ判る。和風美人な真理恵さんの方が縄との親和性が高いのもあるだろうが、それよりも演技混じりのファッション変態と真性変態の差だ。きつく縄に締め上げられて息を荒らげている真理恵さんの放つ淫靡さは織姫を上回る。普段淡白な清一郎が「うわ、凄え」とスルーし切れずにいるのがその証拠だ。


「で、梓は何に負けたんだよ? 素人の俺から見ても手際良く縛ってたじゃないか」

「違う……縛らされた……」

「縛らされた?」

「私が縄を捌くより先回りで動かれた。縛り方を誘導された感じ。こんなの初めて」

「誘導? 真理恵さんどういうこと?」

「屍食花で練習した成果です。ちょっとしたコツなのですけれど、今回は梓さんの方でもちゃんと縛ろうとしてくれていたので合わせやすかったです」


 ……ああ、そういう事だったのか。

 屍食花の拘束攻撃はただ巻き付くだけのものだ。三体の屍食花に囲まれれば引き合う力で吊り上げられる事はあっても、昨日の真理恵さんみたいに恥ずかしくも屈辱的なポーズになるのは偶然にしては出来過ぎだとは思っていたのだ。まさか真理恵さんの方でああなるように誘導していたとは。極まるとはこういう事なのか。


「ちょ、ちょっとちょっと城太郎、これどういうことなの!? あの子いったい何者!?」

「俺に訊かないでくれ。つうか、もうあれ見れば判るんじゃないの?」


 緊縛姿のまま詰め寄ってくる織姫に、俺は真理恵さんを指し示すしかない。自ら縛られる事を望み、捕縛術の達人である梓に敗北宣言させるほどの縛られ上手、挙句「はあ、はあ、セルフでは不可能な完全緊縛……しゅごい……」などと愉悦に浸っている。

 あんな姿を見てM以外のどんな解釈が成り立つんだ?


「真理恵さんはああいう人なんだ。ま、気にせず大盾の指導をよろしく頼むよ」

「えー……でも、あの子変態……」


 おう、織姫がドン引きしている。

 本人も緊縛姿のままだから「お前が言うな」状態ではある。が、所詮偽物は本物の変態に叶わないという事だろう。


「そう言うなって。それにこうなったのは織姫が悪いんだぞ」


 織姫は『縛りプレイ』がこういう縛りプレイでないのを知っている。にも関わらず梓に縛らせたのは、織姫が緊縛されれば凝視せずにいられない俺と、そういうのとは無縁そうな真理恵さんを少々揶揄ってやろうとの軽い気持ちからだったのかも知れない。

 しかし真理恵さんはMなのだ。

 それでも誰彼構わず性癖を暴露するつもりは無かっただろう。新兵訓練の件でいくらか欲望が漏れ出していたものの、その後の訓練は真面目に受けていた。そこに、これだ。


 俺が縛りプレイを好んでいるとの意図的に誤解させる情報。

 自分を縛るようにと指示する織姫。

 熟練の縄捌きであっという間に織姫を縛り上げてしまった梓。

 特に忌避感を示さない清一郎と、縛られた織姫をガン見せずにはいられない俺。


 これだけ揃ってしまったら真理恵さんが「ここではMの性癖を隠す必要は無いんだ」と思うのも当然だ。


「なるほどこれは姉ちゃんの責任だな」

「織姫頑張って」

「う、うう……判ったわよ! 私だって天音流の女、一度引き受けた指導を途中で放り出したりしないわ! 真理恵! ビシビシいくから覚悟しなさい!」

「ひゃあい……激しくシゴいてくださぁい……」

「……」


 だから、真理恵さんにそういうのは逆効果なんだって。

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