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6-5:清一郎の歪み

5/5

 訓練場では織姫による大盾術の指導が行われている。

 基本動作を反復練習するための型を構え方から始めて一つ一つ織姫が実演し、真理恵さんが真似をするという形式だ。動作の意図や注意点を淀みなく解説し、真理恵さんの動きに不備があれば細かく指摘して逐一修正している。吃驚するほど立派な指導員振りだ。


 そんな指導風景を他所に、俺が常々清一郎に対して感じていた疑問について問い質す機会が巡って来た。本来なら女性()もいる場で持ち出すべき話題ではないのだが、その梓絡みの話が丁度俺の抱いていた疑問点に直結する展開になったのだ。


「あの人も良い感じに揺れるなぁ」


 始まりは何気ない清一郎の一言。

 織姫が実演して真理恵さんがトレースするという指導風景には男の視線を引き付けて止まない一つの要素があった。それが“揺れ”。大盾を激しく振り回すたびに、二人の胸部でも豊かな膨らみが激しく振り回される。ぶるんぶるんと揺れるのだ。動作を確かめるために静止状態を挟み込むのがかえって胸部の揺れを強調する効果を伴っている。

 俺もまた視線を釘付けにされていた。

 しかしながら、男二人が“揺れ”に注目している状況、余り揺れない人である梓にとっては面白くない。ましてや揺れを称賛するようなセリフを吐かれては尚更だ。

 不機嫌そうに舌打ちするのは序の口、忌々し気に「あんな無駄肉は弓使いには不要」と吐き捨てるに及び、さすがにまずいと思ったようで清一郎が梓を宥めにかかり、梓の発言をそのまま受けて「巨乳は弓術の邪魔になるのだから梓はそのままが良いんだ」という方向に話を纏めていった。ギリシャ神話のアマゾネスは弓の扱いに邪魔だからと乳房を片方切り落としたなんて逸話もある。ゲームやマンガで時折見かける馬鹿げたサイズの巨乳弓使いなんてのは論外として、織姫や真理恵さんでも弓を引くのに邪魔だろうとは俺にも判る。上手い具合に収めるものだと内心で清一郎の手腕に感嘆していたのが、最後に放たれた一言に愕然とさせられた。


「梓と姉ちゃんたちとの差なんて微々たるもんなんだから、気にすることないって」


 微々たるもの?

 梓と、織姫や真理恵さんとの差が?

 それはいくらなんでも無理があるんじゃないかと省みた俺が目にしたのは、真実そう思っているのが確信できる清一郎の顔と、絶対そうとは思っていないが何かを諦めているような溜め息を漏らす梓だった。


「おい待て清一郎。お前の意見はおかしい」

「え? なんだよいきなり」

「梓とあっちの二人の差が微々たるものってのはおかしいだろう……痛い痛い、梓、足を踏まないでくれ」

「そういう比較は止めて欲しい」

「だって清一郎の認識はおかしいじゃないか」


 前から妙だとは思っていたのだ。

 織姫のスタイルの良さは、大人向けの有料コンテンツをいくら漁っても彼女以上の逸材がついに発見できなかった点からも保証できる。なのに清一郎は「そこそこ」とか価値観を疑うしかない評価をしていた。身内の逆贔屓目か、ずっと一緒にいて見慣れてしまった故かとも思っていたのだが、しかし織姫だけでなく真理恵さんも含めて「梓との差が微々たるもの」となるとこれはもうどう考えてもおかしい。どこかが歪んでいると言っても良いだろう。


「そういうことか」


 俺の言わんとするところを理解したのか、清一郎は深い頷きを一つして語り始めたのだった。


「城太郎、誤解のないように最初に言っておくと、俺は女性のおっぱいに大小での貴賎は無いと考えている。俺が尊敬するとある人は女性のおっぱいには夢と希望が詰まっていると言っていた。大きなおっぱいは夢と希望で膨らんでいるし、でも小さなおっぱいにだってギュウギュウに詰まっているんだ、と。至言だと思わないか?」


 ……え?

 なんでこいつはいきなり真面目な顔でおっぱいおっぱい連呼してんだ?

 俺が呆気に取られていると、梓が「これ、うちのお父さんの影響」と頭痛を堪えるような顔になっている。梓の父親ってことは森上流弓術の人か? その人の影響で清一郎はおっぱい平等主義的なものに染まっている?


「と、それを踏まえての話なんだが、それでも俺は大きなおっぱいが好きなんだ」

「結局それなのか!?」

「貴賎は無くても好みはある。当り前じゃないか」

「お、おう、そうも堂々と言い切られれば否定のしようが無いな」

「それでな、俺は既に理想のおっぱいに出会っているんだ。究極にして至高のおっぱいにな。そう、あれは俺がまだ幼くようやく物心がついた頃のこと……」

「おいおい今度は昔語りか」

「まあいいから聞けって」


 そうして語られたのは織姫と清一郎の幼少時のお話。

 立て続けに二人も子供ができて天音家はてんやわんやとなる。剣術道場は個人経営の自営業みたいなもので産休や育児休暇などというものもなく、悪い事に両親どちら側の祖父母も遠方住まいでヘルプも頼めない。そこで頼ったのが清一郎の母親の師匠筋、天音流の源流となる古流剣術の流派だ。

 源流だけに剣術として共通する部分も多く、門弟指導の一部を受け持ってもらい、伝手で家事や育児を手伝ってくれる女性もやってきた。で、どうやらこの手伝いの女性こそ清一郎の理想のおっぱいの持ち主であるらしい。


「小さい頃は一緒にお風呂に入ったりしてさ。あれは何歳くらいまでだったかなぁ……その辺りはあやふやだけど、あの人のおっぱいだけははっきり憶えてる。大きくてふかふかできれいだったなあ……」


 おい、その顔でうっとりするのは止めろ。

 極めてノーマルな俺ですら妙な気分になってくるから。


「あれぞ理想のおっぱい。俺にとっては“あの人のおっぱい”と“それ以外のおっぱい”でしかないんだ。唯一僅差で匹敵できるのは母ちゃんくらいか。でも母ちゃんだからなぁ……この歳で母ちゃんのおっぱいがーなんて言ってたらマザコンだと思われちゃうだろ?」

「あ、あー……っと、でも、その人のにしろ母親のにしろ、見たのは小さい頃なんだろ? それって美化とか、相当してないか?」


 幼い頃の思い出はなにかと美化してしまいがちだ。

 大きさだってそうだ。大人になってから昔通っていた小学校を訪れると、当時は縦横無尽に走り回っていた筈の校庭が意外なほどに狭かったなんて事はよくある。自分の体が小さかったから、あらゆるものが大きく拡大して記憶されてしまっているのである。清一郎の理想のおっぱいとやらも幼い清一郎にとって大きかっただけなんじゃないかと、そう思ったのだが。


「ふふん、侮るなよ城太郎。これは俺が尊敬するとある人から頂いた貴重な画像の生データなんだがな……」

「それうちのお父さん……」

「俺が生まれる五年前くらい、母ちゃんが大学生の頃だな。これを見れば俺の理想のおっぱいが記憶を改竄した結果なんかじゃないって判る筈だ」


 そうして清一郎がメニュー画面を操作し、コンテンツ系の個人フォルダから取り出した数枚の画像を見せられて、


「す、凄え……」


 その一言の後に続ける言葉を失ってしまった。

 海と砂浜を背景にして写っているのは黒髪と金髪、二人の女性だ。金髪女性は外国人なので黒髪の方が清一郎の母親なのだろうが、そういう対比が無くても姉弟によく似た中性的美貌を見れば血縁関係にあるのは明らかだ。いま一人の金髪の外国人もまたどこのミスユニバースかと言いたくなるようなゴージャス系美女。水着姿のその二人が緩く抱き合って胸を押し付け合ういわゆる『乳合わせ』をしている画像の破壊力たるや壮絶の一言に尽きる。

 むにゅうっとなっているおっぱいのボリューム感は、なるほど改竄を疑う余地無く大きい。そして大きいだけでなく、他の画像を見れば水着に隠されていてさえ美乳っぷりを窺い知る事ができる。


 ……な、なるほど。

 幼少の頃にこれらのおっぱいを生で見て刷り込まれてしまえば他のどんなおっぱいも“それ以外”としか感じられなくなるのも不思議ではない。幸か不幸か……幼い頃とはいえこれらを生で見られたのは男として羨望を禁じ得ない“幸”なのは間違いないが、その影響で織姫・真理恵さんクラスのおっぱいでさえ色褪せて見えるようになってしまったのは“不幸”なのではないだろうか。

当初の予定では前作『近接戦では~』要素をここまでガッツリと書くつもりではなかったのですが、気付けばご覧の有様となっております。そこで、せっかくですので前作と今作のつなぎとなる部分を『近接戦では~』のほうに後日談として追加する事にしました。

https://ncode.syosetu.com/n4244bf/

よろしければご覧ください。

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