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6-4:天音流大盾術

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 実際どんなもんなんだろうという好奇心に従い、俺は装備そのままで訓練場に入った。


「重っ! これは無理だ!」


 そして即座にメニューを操作して装備品を外した。

 ゲーム用の重さではなく、“こういう武器が存在するならこれくらいになるだろう”という現実に寄せた重さではあるものの、それでも鍛えていないどころか自室からほとんど出ない食っちゃ寝生活で衰えたリアル俺の筋力には重過ぎた。


「なにやってんだか」


 そんな俺を憐れむように見ながら織姫が装備した大盾は俺が見た事も無い素材でガチガチに強化されている。“強化していない大盾なら一般人の筋力でもどうにか扱える”のだとすると、あれはいったいどれくらいの重さなのだろうか。軽々と扱っているけれど、織姫には片手アイアンクローで清一郎を吊り上げた実績がある。見た目から受ける印象はアテにならない。


「それじゃあまずは天音流大盾術がどういったものか見せるとしましょうか。梓、適当に攻撃してちょうだい」

「ん」

「城太郎と真理恵さんはこっちに」


 清一郎に促され、俺と真理恵さんは訓練場の端に寄り、中央では距離をおいて織姫と梓が向き合っている。梓は弓を軽く引いて調子を確かめたり矢筒の位置を微調整したりと本職の弓使いらしさを見せている。

 対する織姫は大盾を右に左にとブンブン振り回して素振りを……って、素振り?


「大盾ってああいうふうに振り回せるもんなの?」

「あ、ちゃんと持つ所ありますよ」

「そうなの?」

「今までどう使うのかと不思議に思っていたのですが」


 真理恵さんが裏返して見せてくれた大盾には片手で保持する際に掴む分以外に、それをロの字に囲むように四つと上下の端近くに一つずつ把手(グリップ)が設けられている。なるほど、織姫はこの複数あるグリップを持ち替えながら大盾を振り回しているのか。


 ……持ち替えながら?


「え? 両手で使うのか?」

「見てのとおり、天音流大盾術は両手を使う」

「そのまんまだな」

「他に言いようが無いからね」

「いやいや、盾に両手使っちゃったら武器はどうするんだよ」

「盾があるじゃん」

「……あるけど?」

「硬くて重い物でぶん殴るんだ。鈍器だよ、鈍器」


 硬くて重い物で殴るから鈍器。

 至極真っ当な言い分だな。

 エクスプローラーズにも『盾殴り』みたいに盾で攻撃する技があるから盾を武器とも見做すのにそれほどの抵抗は無い。が、武器を持たずに盾だけにするのは随分と思い切っている。


「さあいつでもきなさい!」

「ん」


 射撃を開始した梓は狙いを上下に散らしたり左右に素早く移動しながら射たりと変化を付けている。名前のとおり大きい大盾なら体の前に構えているだけで防げてしまうだろうが、織姫は正面で受けるだけでなく盾の角度を調節しての受け流しや振り回した盾で矢の横っ面を叩いて弾いたりと多彩な防御動作を実演していた。

 そして次々と飛来する矢を防ぎつつ梓との間合いを詰めていき、最後は先端近くのグリップを握って振り回した盾で梓の頭部を一撃……はせずに、紙一重で空振りして地面を強打。ズシンと重い音が響く。


 ……おっかねえなあ、あれ。


 当てるつもりが無いのは承知していたのか、目の前を大盾が通り過ぎたのに梓は平然としたものだ。しかし傍から見ていた俺の方が肝を冷やされた。大盾の重さと硬さ、振りの勢い、しかも面ではなく盾を縦にした縁部分での打撃だ。あんなのが頭部に直撃したら即死間違い無しと断言できる。確かに鈍器……いや、凶器だ。


「ありがとね、梓」

「ん」


 織姫はわしゃわしゃと梓の頭を豪快に撫で、俺達には「ざっとこんなもんよ」と若干のドヤ顔を向ける。不覚にも格好良いと感じてしまった。


「凄いですね」

「うん」


 凄い。確かに凄かった。

 しかし俺が思っていたのとはかけ離れている。いくつかのゲームで見た上手い部類の盾職プレイヤーたちとも全然違った。天音流独自の使い方だからなのだろう。そこで不思議なのが、そういう使い方をできるように大盾が作られている点だ。真理恵さんのベース大盾もそうなっているのだから織姫のがカスタム品と言う訳でも無い。


「それはなんでなんだ?」

「母さんの盾を作った人がこのゲームの装備品デザインもやったからだよ。せっかく母さんが“大盾術”と呼べるくらいまで工夫を重ねたのに学ぼうって人があんまりいなくてさ。せめて“両手で大盾を使う”っていう基本だけでも浸透させようってんで関わったゲームにこっそりと仕込んでるらしい。それで興味を持った人が天音流うちに入門してくれたら万々歳ってね」

「へえ……それってステマ?」

「否定はできないな」


 天音流剣術は色々やってるんだな。

 そこまでしなくてももう十分に知名度高いだろうに。


「少し解説が必要かしらね! 見てのとおり天音流大盾術は攻防の全てを大盾だけで行うわ! こうする事のメリットは大盾の長所である防御力をさらに高めるとともに、短所である攻撃力の不足を補う事にあるわ! 両手で支えた方がより強い攻撃を受け止められるのは判るわね!? そして両手だからこそ自在に盾を操って受け流したりもできる!」


 ……なんか織姫が普段の調子に戻りつつあるような?


「攻撃力! 従来のスタイルだと武器は片手で扱える程度のものに限定されてしまうわね!? パーティー戦なら他のメンバーに攻撃を任せられるから良いけれど、シングル戦だと攻撃力不足で決定力に欠けてしまう!」

「俺、普通に片手の武器使ってるんだけど……」

「軽装ならそれでも良いのよ! 身軽に動いて手数を稼げば火力出るんだから! でも重い大盾を持ってそれは無理! そこで! いっそのこと武器を捨てて、大盾を両手でぶん回して殴っちゃえっていう発想の転換が為されたのよ!」


 ……いや、普段以上にテンションが変?


「以上! 天音流大盾術の解説でした!」

「お、おう。ありがとな。聞けば納得って感じだけど……なんで織姫だけなんだ? 清一郎たちは学んでないんだよな?」

「刀も基本両手だから盾とは相性が悪いってのもあるし……今姉ちゃんが見せたのは基本中の基本、一般人にも教えられる初伝の範囲でしかない。中伝以降になると俺は素質的に厳しいんだ。その点姉ちゃんは母さんと同じタイプだから」

「ちなみに私は素質的にはOK。でも近接戦しない」


 織姫と梓は素質的に合致して清一郎は駄目ってことは男女の差か? その割には男顔負けのパワフルな実演だったような気もするが……。弓使いの梓が近接戦用の技を必要としないのは当然か。天音流に出向していると言っても腰に差しているのは脇差くらいの短い刀だ。いざという時の防御用くらいの位置付けなのだろう。


「あれ? 梓は、近接戦しないなら捕縛術も必要無いんじゃ……」

「そういう突っ込みも必要無い」

「あ、さいですか」


 必要無くても学ぶなら、それは趣味の範疇になると思うのだが。

 緊縛術と呼ぶべきアレンジされた縛り方を熱心に学んでいたとも聞くし、やはりそういう趣味があるのだろうか。とすると……真理恵さんとの絡み、織姫よりも梓のほうが危険なのかも知れない。


「さあて、理解を深めたところで、真理恵! さっそく始めるわよ!」

「はい! よろしくお願いします!」

「天音流大盾術には基本動作を反復練習するための“型”があるから、まずそれを教えるわ! ……って、どうしてそんな不満そうな顔をしているのよ」

「あの……ビシビシと厳しいスパルタ式の訓練は……叱咤激励と言えなくもない実質罵倒の言葉を浴びせられ尻を蹴飛ばされながら丸太を担いで延々走らされるような……」

「え? なによそれ? 罵倒とか尻を蹴飛ばすとか……丸太?」

「あー、織姫、真理恵さんはスパルタ式と聞いて海兵隊の新兵訓練みたいなのを想像していたんだ」

「あ、あーあー、そういうこと! つまり基礎体力作りってことね! 現実ならもちろんそういうのもあるわよ。まあ、丸太は担がないけれど、天音流は特に心肺能力を重視するから、入門した最初は嫌って程に走らされるわ! でもね、仮想世界ここでそれをやる意味なんて無いじゃない」


 あ、そうか。リアルモードの身体能力はアバター作成用に実施した身体走査のデータで固定されているから基礎体力作りなんてできないんだ。

 ……おう、真理恵さんが明らかに残念至極な顔になっている。


「だからって安心しないで頂戴! 厳しい基礎訓練はやらないけれど、だからこそ、かえってキツクて辛くもなるんだから!」

「そ、それはどういう事でしょうか」

「いいこと? 体力作りができないということは、今の、一般人の体力のままでこれからの訓練をこなしていかなければいけないの。延々とね!」

「!?」


 疲労が再現される特殊仕様下、海兵隊式の基礎訓練は確かにキツイだろう。しかしだ。キツイ基礎訓練で体力が付けばその後の訓練は徐々に楽になっていく。これは欲求を満たすために大苦戦するたびにステータスが上昇してしまい、徐々に満足が遠退いていった悪循環と同じ事だ。

 ところがそれは無い。仕様的に有り得ない。

 今の体力のまま、武道家の訓練を続けていくことになる。


「判りました! 厳しくご指導ください!」

「え、ええ。やる気に溢れているようでなによりだわ……」


 真理恵さんが凄く良い笑顔になっておられる。

 あの織姫が引くほどの勢いだ。

 織姫としては“キツイ基礎訓練はやらない”と上げた後に、“だからこそ余計にキツクなる”と落としたつもりなのに、真理恵さんが示した反応は真逆のもの。それは戸惑いもするだろう。

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