6-2:ハメを脱するには
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……まあ、話は続けるべきだな。
話と言うのは他でもない。真理恵さんがハメられ状態から脱する方法だ。
俺のプレイスタイル的にはどちらかと言うとハメられ状態のままでいて貰った方が都合が良いのだが、だからと言って改善できるところを改善せずに放置して真理恵さんのプレイヤースキルを低いままにはできない。
「真理恵さん真理恵さん、ちょっと現世に戻って来てくれないかい」
「うへへへ……へぇ? あ、はい、なんでしょうか?」
「真理恵さんはどうしてタイタンの攻撃を全部真正面から受け止めてたの?」
「どうしてと言われましても……それが大盾の使い方なのではありませんか? そう聞いていたのですが……」
「聞いたってのは“ノブさん達”から?」
「はい。……もしかして、違うのですか?」
「いや、違わないよ」
だいたい判った。
真理恵さんがタイタンに対してハメられモドキな状況に陥っていたのは、全ての攻撃を馬鹿正直に大盾で受け止めていたからだ。まともに受けるから吹き飛ばされ、吹き飛ばされるから反撃の糸口を掴めない。であれば、避けるなり受け流すなりして、吹き飛ばされないようにしたり吹き飛ばされるにしてもその距離を小さく抑えるようにすればハメから脱することができる。
つまり原因は大盾の使い方を教えた“ノブさん達”にあるのだが、これは彼らを責めるのは酷というものだろう。ゲーム初心者の真理恵さんに盾職の役割と大盾の使い方を説明するとしたら、俺だって『敵の攻撃を引き付けて大盾でしっかりと防御する』とでも言うだろう。最低限それだけやってくれればひとまず盾職として機能するのだし。
恐らく“ノブさん達”も最初に基本を教えて、真理恵さんの上達を待って次のステップに進む予定だったのだと思う。ところが真理恵さんはパーティーを脱退してしまい、教わった基本だけを全てにしてここまで来てしまったという訳だ。
「間違いじゃないけどそれは基本に過ぎないし、パーティーを組んでるのが前提になるね。自分で攻撃できなくてもパーティーだったら他のメンバーが攻撃してくれるだろ? ソロになったら戦い方を変えなくちゃいけない。真理恵さんはちゃんとタイタンの攻撃が見えているんだから、正面から受け止めるだけじゃなくて避けたり受け流したりすれば反撃もできると思う。それだけでソロ討伐までいくのは難しいだろうけど、少なくとも手も足も出ないまま削り殺されることはなくなるんじゃないかな」
「避ける……? 受け流す……?」
「まあ、避け損なうとかえって被害が大きくなるから受け流す方をオススメするね」
「受け流すというのは……どうやるのでしょうか」
「どうって……こう、良い感じに盾の角度を調節すれば」
「良い感じに……」
こうでしょうか? これは良い感じですか? と大盾を捏ね繰り回す真理恵さんであったが……駄目だな、これは。正面に大盾を構えて踏ん張るのは素人にでもできるけれど、受け流しにはそれなりに技術が必要だ。真理恵さんにはその技術が全く備わっていないし、盾の角度をクリクリ変える方に意識がいってしまって他が完全に疎かになってしまっている。
正面防御に徹してさえ数メートル吹き飛ばされるようなタイタンの打撃をあんな不完全で不安定な姿勢で受け流そうとして失敗したら――と言うか確実に失敗するだろう――一撃で大ダメージを受けるのは必至だ。そこから畳み掛けられての即死コースも有り得る。
……それはそれで“ハメからは脱した”ことになるのかも知れないが。
しかし、これは困った。
敵の攻撃をまともに受けないように盾の角度を調節する、と言葉で説明するのは簡単だ。小盾での受け流しなら俺もやっていることなので実演だってできる。しかし大盾と小盾では全然違う。具体的にどうやれば良いのか、俺にも判らない。
これが非VRのゲームなら「コントローラーのレバーをこう動かして、このボタンを押して」で済むのだが、実際に体を動かすVRではそうもいかないのだ。
真理恵さんには独学で頑張ってもらうか?
最初は誰だって素人。ゲームをプレイしながら上達していくのだと思えば、真理恵さんにもそれを期待して良いのではないか?
VRゲームで大盾の扱いを教えられるのは大盾を扱える奴だけだ。
そしてそういうプレイヤーどころか、俺達以外の誰もいないのが森ステージの現状である。まあ、仮にいたとしても賞金レースを脇に置いて初対面の相手にレクチャーしてくれるようなお人好しがいるとも思えない……。
ん? いや、待てよ?
そう言えば、一人だけいた。
大盾の扱いを教えられそうで、しかも賞金レースと無関係な奴が。
誰かって?
織姫だ。
あの織姫、意外と面倒見が良い。俺の装備が片手剣と小盾だったから結局清一郎に丸投げになったけれど、最初に初対面の俺に助け舟を出そうとしたのは織姫なのだ。そしてこれはちらっと聞いただけだが、織姫は母親から大盾を習っている筈だ。頼めばちょっとしたアドバイスくらいはしてくれるんじゃないだろうか。
あの織姫とこの真理恵さんを引き合わせるのは変な化学反応でも起こしそうで不安もあるが……。
さっそく真理恵さんに「大盾の扱いを教えてくれそうな人に心当たりがある。良ければ紹介しようか?」と確認したところ、「是非」とのことなので清一郎にフレンドチャットを送った。用があるのは織姫だけど、当人とはフレンド登録してないのだから仕方ない。
カクカクシカジカと清一郎に事情を説明して、清一郎から織姫に話してもらい、回答を再び清一郎経由で貰ってと迂遠な遣り取りの末、条件付きながら織姫からの承諾を得た。
「条件ですか? もしやそれは指導の対価として肉奴隷?」
「残念ながら相手は女だよ」
「女主人もアリなのですが?」
アリなのかよ。
織姫はスタイル良いから典型的な女王様スタイルも似合いそうだな。
……じゃなくて、織姫の条件は至極真面目なものなのだ。
先方がプレイヤーではなく探究者枠で参加している武道家であると前置き。
「織姫はプレイヤーじゃないし、教えられるのも武道としての大盾の扱い方だ。スキル回しとか、ゲームへの応用は自分でどうにかしてくれってさ。それから、教えるのは構わないけど“教えさせてくれ”と頼むつもりはない。やる気がないと判断したら即座に見捨てる、だそうだ」
「本物の武道家なら当然なのでしょうね。時間を割いていただけるだけでも感謝をしないと」
「それから……織姫は指導員資格を持っているそうで……」
織姫は――清一郎と梓もだが――大学生の身でありながら正式な指導員資格を所持していて、これが為に教えるとなれば中途半端に済ませる事ができないらしい。生兵法は怪我の素という事か、資格に伴う要綱に沿った形できちんとした指導をしなければならない。ゲームの中でまで律儀なものだと思ったが「ルールを明示されてそれに従うと誓った以上、それを破る事はできない。破れるようならそもそも資格は取れない」そうで、現代社会の中で剣術等の武力を扱う上で要求される人間性や精神性の話なので妥協の余地は無いそうだ。
で、これがどういう事なのかと言うと、織姫に大盾を教わるとなると簡単なアドバイス程度ではなく、基礎からみっちりととなり、これを短期間に収めるならば相応の無茶が必要になる。ビシビシと容赦の無いスパルタ式となり、実戦的な訓練もあって痛い思いもするだろうから覚悟が必要だ……と、最後の条件は普通の女性なら……いや、男でも尻込みしそうな厳しいものなのだが、やはり真理恵さんは一味違った。
痛い思いをするのは無問題どころかウェルカムだし、
「容赦の無いスパルタ……となると、『貴様は蛆虫以下の惨めな生き物だ!』などの言葉責めを受けながら極限まで肉体を苛め抜くのですね……素敵です……」
などと恐らく映画なんかで描かれる海兵隊の新兵訓練を妄想して涎でも垂らしそうな顔をしている。マジで凄いわ、Mの人は。




