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6-1:ハメ

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本日、6、12、18、20、22時に投稿します。


 タイタンに丸太でぶん殴られて視界が暗転し、闇の中、体がスウッと浮遊するような感覚になる。そして数秒の後に戻った視界に映るのは森の砦の死に戻り部屋の天井だ。


「あぁ……はあぁ……」


 目覚め――死に戻り部屋で視界が戻る瞬間を俺はこう呼んでいる――と同時に悩ましい声が聞こえ、ギョッとして身を起こすと、隣の台座に真理恵さんが横たわっていた。


 これはまた……とてもエロい。


 満ち足りた表情で薄く目を閉じているのはAVなんかで見る“事後の顔”そのままだし、全身だらりと弛緩しているのに腰の辺りだけピクピクと小刻みに震わせているし、まったくもって眼福……いや、目に毒な有様だ。「逝きます」と言ってタイタンに挑んだ真理恵さんは別の意味でも「イッタ」ようだ。死に戻りする瞬間が最高と言っていたのは嘘偽りの無い本音だったのだろう。


「あのー……真理恵さん?」


 女性のそういう姿を生で目の当たりにしている居た堪れなさから恐る恐る声を掛けると、真理恵さんは「うひゃあ!?」と珍妙な声を上げた。


「じょ、城太郎さん!? 来るのが速過ぎないですか!?」

「俺も今死に戻ってきたとこ」

「!? だから足音も何も……」


 そう言えば真理恵さんは俺が“撤退”してくると思っていたんだった。

 第二十階層のボス部屋から撤退して十九階層の小部屋に下りて転移の扉で森の砦に帰還。そこから死に戻り部屋まで移動してくると考えればそれなりの時間がかかる。足音や扉の開け閉めの音で接近を察知したりもできるだろう。そういう思惑で久し振りに死に戻りできた余韻に浸っていたところ、想定よりも早いタイミングで、しかも死に戻り部屋に直接俺が現れてしまったのだ。


「城太郎さんには恥ずかしいところを見られてばかりです……」


 などと言って羞恥に身悶えしていたが、急に「んん?」と眉根を寄せた。


「城太郎さん、撤退せずにボスと戦ったんですね?」

「うん。あ、約束を反故にして俺だけ抜けようとしたわけじゃないよ? 一発クリアは無理だって判ってたから。行動パターンをいくつか確認しようと思ってね」


 タイタンとの戦闘について不義理を疑われたのかと思っての弁明に真理恵さんの眉がさらに寄る。


「それでボスに殺された?」

「あっさりとね」

「……」

「なんでそんなに不思議そうなの?」

「死に戻ったというのに普通にしているものですから……その、私はさきほど見られてしまったとおり……」

「そりゃまあ、俺には真理恵さんみたいな趣味はないからね」


 普通に死に戻っただけなのだから普通で当り前だ。

 死に戻りがイキ戻りになる真理恵さんとは違う。


「いえ、私がああなるのは」

「Mだからでしょ?」

「はい、そうです」

「俺は、Mじゃ、ないから」


 一言ずつ区切って強調し、念を押しておく。

 ボス戦ごとの臨時パーティーを組むことには同意したが、M仲間になるつもりはさらさら無い。断ち切るような俺の態度に、納得しきれない顔をしながらも真理恵さんは引き下がった。


「そんなことより、さっきのボス戦、真理恵さんの戦い方で気になった事があるんだ」

「わ、私は真面目に戦いましたよ?」

「それは判ってるよ」


 ダメージを受ける度にエッチな喘ぎを漏らしていたけれど、それは真理恵さんがMだから。俺自身に置き換えるなら「痛え!」とか思わず言ってしまうのと同じなので、これは仕方ない。それを除けば、結局防戦一方のまま負けてしまったとは言え、真理恵さんは至極真面目に戦闘に臨んでいた。


「真理恵さん、一回も攻撃しなかったよね?」


 台座を椅子代わりにして向かい合わせに座り、ボス戦の反省会といこう。

 死に戻り部屋に長居するのは――特に死に戻りポイントである台座を塞いでいるのは明確なマナー違反であるが、ここを利用するプレイヤーは俺たちしかいないのだから構うまい。


「隙があれば『踏み込み』で距離を詰めようとはしていたのですが……」

「それは最初に使った足にエフェクトが出る奴?」

「はい。刺突剣で憶えるアビリティの一つで、アビリティレベルに応じた距離までなら素早く前方に移動できるというものです」


 ここで真理恵さんから刺突剣の基本的な立ち回りが説明された。

 刺突剣で最初に修得するのが『踏み込み』と『飛び退き』という二つのアビリティだ。『踏み込み』は前方限定の短距離高速移動で、『飛び退き』は後方限定。分類するなら移動補助アビリティとなる。

 あくまでも移動補助なので攻撃力へのボーナスなどは発生しない。

 しかし、『踏み込み』の速度を上手く攻撃に乗せれば結果的に攻撃力も上がる。と言うか、その前提だからアビリティ自体にはボーナスが無いのだろう。『踏み込み』ながらの刺突攻撃――これはフェンシングの前方に伸びるような高速の突きをイメージすると近いだろうか――を行い、しかる後に『飛び退き』で間合いを広げ直すという一撃離脱戦法が刺突剣の基本になるそうだ。


 実際、タイタン戦での真理恵さんには前に出ようという素振りが頻繁に見られた。説明されれば、なるほどそれを狙っていたのかと納得できる。

 しかし、一度たりともそれは実行されていない。

 最後まで“隙あらば”の隙を見出せなかったからだ。


「ちゃんと全部防御したのに攻撃できないまま殺されてしまうなんて理不尽です。ああいうのはゲームだとハメと言うのではありませんか?」

「俺が気になったのもそこだよ」

「理不尽に嬲り殺されるというシチュエーションにはそそられるので美味しくもあるのですが……え? 城太郎さんもそこが?」

「そうだけど、そうじゃない」


 いちいち変態嗜好の方に話を引っ張らないで欲しい。

 それはともかく、真理恵さんの死に方が一見してハメに近かったのも事実だ。


 巨鬼・タイタンの攻撃手段は丸太での打撃だった。

 軌道に細かな差異はあるものの大別すれば『打ち下ろし』『横薙ぎ』『カチ上げ』の三種類。タイタン側のダメージがゼロだったので凶暴化はおろか“怒り”もせず、特別なエフェクトも発生しない通常攻撃しか確認できていない。

 ところがこの通常攻撃からしてかなりえげつない代物だ。

 身長に比べて腕が長いゴブリン体型がそのまま二メートル越えの巨躯になり、武器として丸太を振るうとリーチがとんでもなく長くなる。そこに筋肉隆々ムキムキパワーと丸太の重さが加わるのだ。プレイヤー視点では超重量級の打撃が恐ろしく遠い間合いから飛んでくることになる。


 攻撃速度もけしてスローではないが、屍食花の“素早い蔦”に比べれば遅いので、屍食花大好きでそのスピードに目が慣れている真理恵さんなら普通に反応できる。大盾を的確に構えてきっちり防御していたのがその証拠だ。

 しかし防御しても僅かな貫通ダメージと共に数メートル吹き飛ばされ、その数メートルを戻る頃には次の打撃準備が終わっている。『打ち下ろし』の場合は吹き飛ぶ先がなくその場に留まるが、タイタンもフルスイングしない分で丸太の戻しが速くなる。真理恵さんはこのパターンから逃れられず、タイタンからの攻撃を全て防御しながら自身は攻撃に転じられず、貫通ダメージだけで削り殺されてしまった。

 いわゆる“怯みハメ”に似ている。


 しかし、似ているのは確かでも、これはハメではない。


「真理恵さん、こういうゲームでプレイヤー側がハメ殺されるっていうのは有り得ないんだよ」


 “怯みハメ”であれば、モンスターの“怯み動作、怯みからの復帰動作、威嚇など復帰後の特定動作”が終わる前に必要なダメージを与えて再度の怯みを発生させ、延々と、モンスターが力尽きるまで繰り返す。これが可能なのは怯んで以降の動作パターンが一種類だけで変化しないからだ。

 VR以前のゲームならプレイヤーがハメ殺される例はあったが、こちらもプレイヤーキャラクターの不随意な特定動作とモンスターの攻撃パターンが変に合致してループに陥るような限定された条件下に限られる。


 然るに、アビリティ等に伴うシステムアシストを除けば基本的にプレイヤー自身が全身を制御しているVRゲームにおいて、プレイヤー側がこの手のハメ殺しに悩まされる事は無い。同じパターンの繰り返しがハメなのだから、そうなりかけた段階で違う行動をしてしまえば良いのだ。


「でも私はハメ殺されました……あら? 私は大きなゴブリンにハメ殺された? こう言うとなんだかとても素敵な体験をしたように思えてくるから不思議ですね」

「……」


 やばい。“ハメ殺し”が全然違う意味に聞こえる。

 ついでに女冒険者がゴブリンにハメハメされるエロアニメを思い出してしまったし、その女冒険者を真理恵さんに置き換えた妄想まで浮かんでしまったではないか。

 ……今夜はこれでいくか?

 いやいや、そんな事を考えている場合ではない。今は保留しておこう。

 今考えるべきは「ゴブリンにハメ殺される……うへへへ……」などと気持ちの悪い笑みを浮かべている真理恵さんに呆れたふりをして話を打ち切るか、現世に呼び戻して話を続けるか、どちらにするかだ。

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