3-7:システムアシストの功罪
素で射れば百発百中の腕前な梓が強制的にああなってしまうのであれば彼女がシステムアシストをうんちと評するのも無理からぬことかと思う……が、あまり連呼はしないで欲しい。
「梓! 可哀そうに! まったく酷い弟だわ! 嫌がる梓に無理強いして!」
「織姫慰めて」
「いいわ! さあ梓! 私の胸に飛び込んできなさい!」
「ん……ふかふか」
なんか小芝居しながら抱き合う二人。織姫の身長が高いので自然と彼女の胸に梓の顔が埋まる形になる。
ふかふかかぁ……確かに柔らかそうだ。
「つまりシステムアシストってのは、どんな素人でもそれなりにできるようになる代わり、どんな達人であってもそれなりにしかできないようにしてしまうんだ」
そしてそんな女同士の絡みをスルーしてマイペースに話を進める清一郎。
ああいうのを見て何も感じないのかこの男は。
「ゲーム的にはなんていうんだろうな。ファンブルとかクリティカルとかで良いのか? 大失敗と大成功の間に失敗、普通、成功があって、ゲームプログラムで決められた確率で結果が出る」
そしてその確率は『大失敗<<<<失敗<<普通>>成功>>>>大成功』みたいな感じに普通近辺が一番出やすく、大失敗や大成功は最も出難いのを基本として、システムアシストの元になる武器スキルが低いうちは失敗方向に偏り、スキルレベルが上がると成功方向に偏りがシフトしていくらしい。これは清一郎が体感としてそう考えているという話だが、ここ二か月の俺の経験に照らしてもそう間違った解釈ではないと思えた。
「で、剣で攻撃する場合の大成功は刃筋が立ってる状態だ。剣を振る向きに対して刃の角度が直角になってる。力と刃の向きが揃って切断力が最大になるんだ。これがずれると切断力が格段に落ちる。ずれ過ぎると斬るってよりは叩く感じになるな。“叩き切る”じゃなくて“叩く”、な」
「打撃扱いになるのか」
「……ゲーム的にはそうなのか? いや、それにしたって、例えば峰打ちも逆向きに刃が立ってなきゃたいして効かない。刃筋は意識しなきゃ駄目だ」
「清一郎、言わんとするところは判るんだけどな、それをできない素人のためにあるのがシステムアシストなわけで」
アシスト無しの梓が中心の円に全矢集めたように、清一郎や織姫ならアシストに頼らない方が火力が上がるのだろう。でもそれは現実でも剣術をやっていて刀の扱いに慣れているからだ。
ん?
「……なあ、そう言えば、なんで刀を使うのに剣術なんだ? 刀を使うなら刀術になるんじゃないか?」
「…………え?」
「え?」
「ええと……姉ちゃん判る?」
「馬鹿ねえ弟! そんな事も知らないの!? 私も知らないわ!」
「知らないのになんでそんなに偉そうなんだよ!」
「昔“刀剣”というふうに一括りにしていた名残。刀術という言葉もあるけど定着しなかったみたい」
「梓……」
「さすが梓だわ!」
「もっと褒めて」
「梓最高!」
「む……ふかふか」
再びの小芝居とともに織姫が梓を抱き締める。
やっぱり織姫の胸はふかふかなのか……。
「そういうことらしいな」
そして相変わらず女同士の絡みはスルーする清一郎。
「どうして梓だけが詳しいんだ?」
「灯台下暗し? 外から見た方が判る事ってあるだろ?」
「……まあいいや。それよりもシステムアシストだ。俺みたいな一般人はアシスト使った方が火力上がるってのは清一郎も認めているんだろ? で、アシストの確率以上に武器を扱えるなら外した方が良い」
「うん」
「じゃあ外したら駄目じゃん」
繰り返しになるがシステムアシストを外して火力が上がるのは清一郎や織姫のように剣術を学んで現実でも武器の扱いに慣れていればの話で、そういうのは極めて少数派だろう。普通のゲーマーなら学校の授業で剣道をやったことがあるとか武道系の部活に所属していたとかがせいぜいで、それすら未経験な奴も多い。実際俺の通っていた学校では体育の授業で剣道や柔道はやらなかった。
「ここからが城太郎の選択だ。選択肢は三つだな。一つはこのまま現状維持。二つは確率を越えられるように剣の修業をする」
「修業ったって」
「うん。まあ簡単じゃあないよ。俺達だってまともに刀を振れるようになるまで何年って単位で練習した訳だし。でも城太郎が望むのはそういうのじゃないだろ?」
「まあ……ガチで剣術やりたい訳じゃないからな」
あくまでもゲームを攻略したいのであって、清一郎たちみたいに本物の剣術家を目指しているのとは違う。
「剣術やりたい訳じゃないなら剣に拘りもないよな? そこで三つめ、武器を変える。俺はこれがおすすめだね」
「武器を変える?」
「棍棒とか槍あたりかな。盾を使うスタイルを続けるなら棍棒か」
「そりゃまたどうして」
「槍と棍棒は素人でもそれなりに使えるからだよ。あ、誤解しないでくれよ? 別にディスってるわけじゃないんだ。専門的に扱う高度な戦闘術もあるからね。イメージしてみてくれ。映画とかで野蛮人が振り回しているのはたいてい棍棒だろ? あと戦国時代とか農民兵はだいたい槍持ってるじゃないか。棍棒は刃筋なんか考えなくても振り回して当たれば効く。槍は間合いが広くてまっすぐ突き出せば取り敢えず刺さる。そんな感じだ。重ねて言うけど棍棒や槍だって熟練して極めてるような人は別だ。その辺は判っといてくれ」
「この弟は誰に向かって言い訳してるのかしらね!」
ふうん……。
織姫の混ぜっ返しはともかくとして清一郎の言いたい事は判った。
以前何かのネット記事で『もしもの場合に一般人が使うべき武器』として挙げられていたのがスコップ、バールのようなもの、金属バットだった。スコップは形状的に斬打突の三属性に対応し、掘ったり埋めたりできる利便性がある。バールのようなものは都市伝説的な最強説があった。そして金属バット。一般人限定として入手の容易さと扱いやすさが評価されていた記憶がある。
棍棒、アリかも知れない。
武器種で言うならメイス系か。
盾での殴り攻撃で『打撃』スキルもそこそこ育っているし、叩き切るタイプの片手剣から叩くタイプのメイスへなら転換もスムーズにできそうだ。素材は十分にあるから現時点での最強強化もすぐにできる。
「ヘイ城太郎! それが城太郎にとっての最適解とは限らないわよ! 弟がもっともらしいこと言っても鵜呑みにせずに自分で考えなさい!」
「考えてるよ。最適解が何かなんて判らないけどな」
片手剣と小盾で始めたのは多くのゲームで初心者の定番になっているからに過ぎないし、それで始めたからといって最後までそれで続けなきゃいけないルールでもない。状況や相手によって装備を変えるのはゲームならば当り前。最適解なんて判らない。判らないなら、棍棒のみならず槍だってそれ以外の武器だって納得いくまで試したら良いのだ。
現実では何もやっていないからこそ、何にも拘らずに何でも使える。それが清一郎たちとは違う一般人である俺の強みなのかもしれない。システムアシストを外すかどうかも試した結果次第で良いだろう。
「清一郎、ありがとうな。俺なりに考えて色々やってみるよ」
「おう」
「梓も、嫌な思いまでして協力してくれてありがとう」
「ん」
「織姫……は別にいいか。特に何もしてないし」
「ちょっとそれどういうこと!? この私と出会えたからこそこの場があるんじゃないの!」
「……それもそうか。織姫、ありがとう」
「素直でよろしい! 私の胸をちらちら見てたのは許してあげる!」
「はあっ!? いきなり何言ってんの!?」
「城太郎、誤魔化さなくてもいいよ。姉ちゃんのおっぱいはそこそこのもんだ。男なら目が行っても仕方ない」
「いや清一郎、お前も真顔で何言ってんだ!?」
てか織姫は文句無しに巨乳だろうに。あれをそこそことか清一郎の価値観はどうなっているんだ。ほら、あんなに大きくて柔らかそう……。
「姉ちゃんはなんで自分のおっぱい揉んでるんだ?」
「城太郎が物欲しそうに見てるからよ!」
「城太郎えっち」
こいつらは……。
「取り敢えず城太郎、俺とフレンド登録しよう。何かあったら連絡してくれ」
そしてこの男、姉が自分の胸を揉みしだきながらあはんうふんと怪しげな声を上げているのに顔色一つ変えない。「織姫もえっち」と無表情なまま頬を赤らめている梓のほうがまだしもまともな反応と言える。俺に至ってはここが仮想世界でなければ前屈みになっていただろうこと間違いない。それほどに織姫が色っぽかった。




