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3-5:対策会議みたいなもの

 このままでは収拾が付かない。時間も丁度良いしどこかに腰を落ち着けて昼飯でも食べながら話をしようと提案したら武道系三人組も了承してくれた。しかし、なら外の街でどこか良さそうな店をとの提案には清一郎と織姫が首を横に振る。なんでも、外の街に行こうとしたら面倒臭がった梓がマイルームから出て来なくなる、マイルームはシステム的にプライバシーが保護されているので踏み込んで連れ出すこともできない、だから昼飯も話をするのも始まりの街(こっち)でという事だった。それを聞いていた梓が小さく舌打ちしていたので、少なからずそういう目論見であったようだ。


 俺はどちらかと言うとファンタジー食より現代食が好みなので、この始まりの街の食事処はあまり詳しくない。武道系三人組は「せっかくだから現実では食べられないものを」というタイプらしくファンタジー食にも造詣が深い。彼らのおすすめの食堂にそのままついていくことにした。

 中央広場から東の大路を進んだところにその食堂はあった。


「俺達この先にある訓練場が主な活動場所でさ。ここには良く来るんだ」


 との事で、あまり迷う様子もなくメニューから料理を選んでいた。常連であるなら彼らの選択に間違いはないだろうと同じ物を注文すると、出てきたのはソーセージの盛り合わせと野菜のスープ、それからパンだった。


「取り敢えず詳しい話は俺が聞いておくから、姉ちゃんたちはそっちで食っててよ」


 と、清一郎が男女でテーブルを分けてくれたのがとても有り難い。フランクフルトくらいの太さのソーセージにフォークを突き刺し、「棒状の肉! そうこれは肉棒!」「織姫、下品」「さあ梓、口を開けて! この肉棒を御馳走してあげるわ!」「あむ……もぐもぐ」「すぐに歯を立てちゃ駄目! こうして喉の奥までディープに!」「むぐっ!?」「修行が足りないわね! こうするのよ! こう!」などとやり始めている。そして結構な長さと太さのソーセージが織姫の口の中に消えた。食堂でソーセージを口にしているだけなのに俺には刺激の強い光景だ。あんなのと同席してまともに話なんてできるはずが無い。まあ、あれを見て「姉ちゃん食べ物で遊んじゃ駄目だぞー」とか当り前の顔をしている清一郎もどうなんだろうと思うが。


 まあこっちはこっちで話をしよう。

 例の神の舌の味覚データのおかげかゲーム内のファンタジー食も問題無く美味い。食べながらフェンリル戦に手こずっている顛末を清一郎に話して聞かせる。


「どんだけリアルでもゲームはゲームだから、モンスターの動きには必ずパターンがある。今は少しずつそれを憶えてる段階なんだ」

「なるほど。死に憶えるってやつか」


 清一郎はカマを掘られそうになっていたのが信じられないくらいのキリッとした顔で俺の話を聞いていた。こういう顔をすると元が凄い美形だけに男の俺でもドキッとさせられる。

「んぐ……じゅぽじゅぽ……」

 向こうのテーブルで同じくらい美形な女がソーセージを使って卑猥な水音を立てているのは無視だ、無視。無表情ながらもどこか幸せそうな顔で食事をしている梓の様子は微笑ましいのだが……最初のちょっかい以降は織姫を完全スルーしているのがある意味凄い。


 とにかく、俺の対フェンリルの攻略手順は清一郎に説明した通りのものだ。こちらがこう動けばあちらはこう動くというパターンを一つずつ明らかにして憶えていく。死に憶えるという表現を聞いたのは初めてだが、言われてみればしっくりと嵌る言い方だ。死に戻りを重ねるごとに俺はフェンリルの行動パターンを憶えているのだから。

 問題なのはフェンリルに挑戦できるのが長距離マラソンのせいで一日二回に限定されている点だ。こなせる回数が少な過ぎて、このままではフェンリル討伐が何時になることやら予想もつかない。


「俺たちが一緒に行ってフェンリル倒しちゃうってのは?」

「いや、それは駄目だ」

「一番手っ取り早いと思うけどね」

「清一郎たちがプレイヤーなら是非にとお願いするよ。でもそうじゃない」


 フェンリル討伐には確かにそれが一番手っ取り早く、もしも清一郎たちがゲームに参加しているプレイヤーだったなら俺もこの提案に飛び付いたかもしれない。でもそうじゃないのだ。ゲームの攻略に困ってゲームの外から力を借りたらそれはズルだ。俺にだって意地がある。雄二さんが作って豊さんが運営しているこのゲーム、ズルは無しで攻略したい。


「そうか。それなら……」


 清一郎にとって最も簡単な解決方法を一蹴した訳だが、それでも彼は気を悪くしたふうは無かった。


「ハイ合格―! そこで清一郎に頼るようなヘタレならほっぽり出すところだったわ!」

「ん。男を見た」

「そいつはどうも……てか清一郎、俺を試したのか?」

「え!? …………そ、そうだな! 悪いが城太郎の覚悟がどれほどのものか計らせて貰った!」

「……」

「ホントだぞ?」

「弟! そこ疑問形にしちゃ駄目駄目! 突っ張るなら最後まで突っ張りなさい!」

「そこがセイの限界」

「姉ちゃんも梓も茶化さないでくれよ! そっちで大人しくソーセージ食っててくれ!」


 清一郎に一喝されて再びじゅぽじゅぽもぐもぐと始める女性陣。織姫はあれでちゃんと食べてるのか? ああ、いつの間にか皿のソーセージは減ってるのか。まさか丸呑みしてる訳じゃないよな?


 んっんっと咳払いして清一郎が真面目モードに復帰。

 こいつもこいつで振り幅が大きい。


「じゃあまあ城太郎がソロでフェンリルを倒すって前提で俺から言える事は……まず、死に憶えるのはこのまま続けるとして……これはフェンリル戦だけの話じゃなく、相手の動きや攻撃を先読みできるようになるべきだね。うちの剣術は攻撃予測と、その予測を元にした回避を重視しててさ。えーと、なんだっけな『当たらなければ……』」

「『当たらなければどうということはない』」

「梓! ナイスフォロー! 駄目ねぇこの弟は! 私達がしっかりしないと!」

「なんかのネタなのか?」

「……相手がどんな攻撃をしてきても回避してしまえば大丈夫っていう格言みたいなものだよ。ソロで戦うなら相手の攻撃は全部城太郎に向けられる。その攻撃を事前に予測して避けてしまえばこっちの攻撃チャンスだ」

「このゲーム、そういうスキルがあるのか?」

「いや、ないんじゃないか? 少なくとも俺は知らない」

「おい」

「待った、先読みってのは特別なスキルがなきゃできないってものじゃない」


 期待を裏切られて抗議の声を上げかけた俺を制して清一郎が『攻撃予測』について説明を始めた。

 例えば、と言って刀を握っているような格好で右手を振り上げて「ここからどういう攻撃が来ると思う?」と問い掛けてくる。そりゃあ振り上げたなら後は振り下ろすしかないと答えれば「正解」と言う。次に席を立ち、肩幅くらいに足を開いて判り易く右側に重心を掛けて「この後動くなら左右どっち側になると思う?」という問い。左に決まっている、右に行くには一旦左膝に力を溜めなきゃいけない。そう答えれば満足そうに「正解」だ。


「今のは判り易い例だけど、骨格、関節、その時の重心、どこに力を溜めているか、そういうのを観察すれば次にどう動くか、逆にどう動けないのかを予測できるんだ。爪先の向いている角度だとか視線の向く先にも注意すればもっと細かく読み取れる」

「それは……人間相手の話じゃないのか?」

「そうだよ。でもモンスターにだって骨と関節と筋肉がある。関節が無い部位は曲がらないし、関節が逆に曲がる事も無い。体を動かすには筋肉に働いてもらわなきゃいけないんだ。このゲーム、藤田さんが関わってるだけあってその辺は誠実だよ。少なくとも俺が見た限りで理不尽な動きをするモンスターはいなかった」


 いきなりは無理でも、死に憶えで蓄積した行動パターンと合わせれば先読みはできるんじゃないかと清一郎は言う。

 できる……のか、俺に?

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