2-1:チュートリアルでスキル取得
本日6、12、18、20、22時に投稿します。
豊さんと別れ、“始まりの街”の中央広場に戻ってきた。
ファミレスで食事をしたばかりだから空腹ゲージは満タン、満腹状態にある。“餓死”まで丸一日以上の余裕があるとは言え、空腹ゲージが尽きている時の空腹感とステータス低下は半端無いらしく、そうなってから慌てて金策しようとしてもまともに動けないなんてオチになりかねない。取り敢えず、今日の晩飯と明日の朝飯分くらいは稼いでおきたい。
その為にもまずは“育成神の加護”を得なければ。
加護を得てレベルアップできるようになってからがゲームの本番なのである。
と言う訳で、中央広場の四方に延びるメインストリートから北方向を選択。NPC経営の商店などを冷やかしながら進んでいくと、やがて前方に白い石材造りの壮麗な建物が見えてくる。無宗教の俺の目にさえ神聖さを感じさせるいかにもな“The・神殿”だ。
ずんずんと進んで石段を登り神殿へと踏み入る。
左右に列柱を配した空間の先に、広場で見たのと同じ女神のもっと立派な像がどーんと鎮座していた。像の前には厳かな雰囲気を漂わせる老神官の姿。
……見てる。めちゃくちゃ見てる。
神像の間に入った途端に老神官の視線は俺に釘付けだ。
思わず軽く会釈したのに無反応。
無視するなよと思いつつ足を進め、“初対面の相手と話をするならこれくらいの距離感かな”というあたりで老神官がニコリと微笑む。
「育成神リーベルスアウフの神殿にようこそ。本日はどのようなご用件でしょう」
昨今のゲームでは、こうしたNPCに高度なAIが搭載されていて、普通に会話して人間味のある対応をして、会話の流れで気に入られると隠しクエストを受けられたりなんて要素があったりもする。しかし時代に逆行するシンプルさを売りにする『エクスプローラーズ』にそれは無い。NPCにAIは搭載されておらず、単なる舞台装置の一つにすぎない。さっきガンを付けてきたり話しかけたりしてきたのも、”同じ空間に入った”とか”一定の距離に近付いた”とかの条件づけだろう。こっちからの回答も老神官の問いに合わせて『育成神の加護が欲しい』『キャンセル』とか表示される選択肢から選ぶ形式だ。
こういうので良いんだよ。こういうので。
あるのかないのか判らない隠し要素を探して媚びを売るかの如くNPCに話しかけまくるなんてやってられないからね。さくりと『育成神の加護が欲しい』を選ぶ。
「あなたはこの世界の生まれですか? それとも下層界から“塔”を登ってきた方ですか?」
この問いに対しては注釈付きの選択肢が出た。
この2ndステージから始める新規プレイヤーなのか、はたまた1stステージからデータを引き継いでいるかという二択になっている。俺は新規なので『この世界の生まれ』だ。
「育成神リーベルスアウフの加護は技巧神テクスキールの加護を使いこなしている方にのみ与えられます。試練の迷宮でその証を立てれば、育成神の加護が得られるでしょう」
そうして導かれたのは神像の裏側から入れる小さな部屋だ。真ん中に地下への階段があり、それ以外には何もない。ここに来たならもう階段を降りるしかない。そんな殺風景な部屋なのに、階段を下りた先にはまたもや壮麗な空間が広がっている。神像――育成神リーベルスアウフなのだろう――は、ここでは大きな石板を抱えている。
『高みの世界を目指す探索者へ』
石板にそのように題されて刻まれている長文は、この『エクスプローラーズ』のバックスストーリーだ。神話的な何かを装う為にそれらしい装飾的な語句が多用されているのを要約するならば――
“世界”は一つではなく、複数ある世界は同格ではない。格の高い世界を上層とし、低い世界を下層とすると、もともと人間が住んでいる世界はとても惨めな最下層の世界だった。しかしだからこそ何の力も持たない非力な人間でも生きていけていた。
天の神々は底辺を這いまわる人間を憐れみ、より格の高い世界へと移り住む機会を与える事にした。しかし上層世界は豊かである反面、力無いものは生きていけない厳しい世界でもある。人間をそのまま招いてはすぐに死に絶えてしまうだろう。
だから神々は人間に“加護”を与え、その加護を十分に使いこなし、上の世界でも生きていける人間を選別するための“塔”を建てた。
上層階を目指す人間は神の加護を得て探索者となり、“塔”を登っていく。
こんな感じだ。
設定的には、この“始まりの街”のNPCや俺のような新規プレイヤーは“塔”の攻略を諦めてこの世界に根を下ろした元探索者の子孫ということになる。でもって、この世界で生まれれば生まれつき技巧神の加護を受けているのだが、その加護=スキルを最低限使いこなせていなければ次の世界へ向かう“塔”への挑戦権とも言える“育成神の加護”は与えられない。これを確かめるために育成神が用意した試練の迷宮に挑むのだ……という体裁で潜る事になる最初の迷宮は、実際は新規プレイヤーにスキルシステムを説明し、ついでに最低限のスキルを付与するためのチュートリアルになっている。
これはチュートリアルメッセージのままに順次こなしていけば簡単にクリアできるものだった。試練の迷宮と言いつつ迷う要素など皆無な単調な通路と部屋の連続。各部屋には土人形が一体配置されていて、『武器で攻撃しろ』や『盾で防御しろ』『鎧で防御しろ』といった指示をこなす形式だ。装備している武具の種類によって獲得できるスキルに多少の差異はあるようだが、ここで得られるのは基本的なスキルばかりなのでどれを選んでも大差はないと思う。
各種取り揃えられた初期配布武具の中から俺が選んだのは多くのゲームで初心者向けの鉄板とされている片手剣と小盾だ。鎧は革鎧しかないのでそれを。
結果得られたスキルは『斬撃』『打撃』『突撃』『片手剣』『盾』『鎧』『STR上昇』『VIT上昇』『強撃』だ。装備構成からしてこれが基本になる。
それぞれのスキルの効果はヘルプを参照して確認したところ、
『斬撃』『打撃』『突撃』:斬打突の対応する属性の攻撃力にプラス補正。
『片手剣』:片手剣種の武器使用にシステムアシストが有効になる。
『盾』『鎧』:それぞれの防御力にプラス補正。
『STR上昇』『VIT上昇』:ステータスアップ効果。
『強撃』:全武器種共通の攻撃アビリティ。通常よりも強力な攻撃を放つ。
ざっくりとこんな感じになっている。
装備武器が片手剣なのに『打撃』と『斬撃』が付いているのは、盾で殴って剣で刺したから。チュートリアルメッセージが「『小盾』で攻撃してください」とか言い始めた時には何を言ってんだコイツはと思ったものだが。
考えてみればシールドバッシュとかは盾職に付き物的なメジャーな技でもある。『強撃』が盾殴りにも乗ったところを見ると、盾については防具でもあり武器でもある、そんな位置付けになっているようだ。
プラス補正やステータスアップなどに具体的な数値は示されていないので体感的に確かめていくしかない。いずれにせよ獲得したばかりの現状では効果の程はお察しレベルだろう。熟練度を稼いで育てていかなければならない。
そして獲得したばかりと言えばチュートリアル=試練の迷宮をクリアして“育成神の加護”も獲得している。レベルアップを可能とする加護を得て、俺のステータス画面にはレベル表示が加わっている。ゼロだけど。
……レベルアップを可能にするというだけで、加護そのものでレベルアップする訳じゃないんだよ。