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鳩と俺と

「はっはっは、冗談がわからぬやつじゃ。まぁ、本心ではあるがのぉ」


 高笑いする二神様は、まさに偉そうな小学生である。が、目の前にいるのは正真正銘、この町、二上町の氏神、二神様である。約800年前からここにいるという「人に作られた神」だ。


「さて、今日はみっしょん、とやらが始まる前に呼んだのには理由があってな。今日退治してもらいたい人ならざる者は、少々特殊なのじゃ」

「あ、ミッションなんて俺が言った言葉です。無理やり使わないでいいですよ」

「現代の言葉になれるのは大切じゃろう。博之の考えは悪うない。みっしょん……みっ……」


 そもそもミッションなんて言い方は、最初に俺が提示して、それを才木が二神様に伝えたものだった。二神様は山の中にこもりきりのため、現代の言葉にはめちゃくちゃ疎い。特に英語の発音なんかもう無理。

 しかし、言おうと苦労して、唇を間違って噛むところを見ると、才木を家庭教師にしたほうがいいと思う。


「それで、二神様、特殊とは」


 最上が話を戻す。二神様は咳ばらいをし、話を始めた。


「その前にこの町の事実を話しておこう。人ならざる者……またそれを人々が目指した結果、その残骸が悪霊や、人ならざる者の影となり、これまで町を苦しめてきた。これはわかるな?」

「まぁな、そう二神様が言ってたんだし」


 あいつもそういってたし……と一瞬知り合いが頭によぎったが、あいつの名前だけは言うまいと口をつぐんだ。だが、二神様は、赤と青の目を光らせ、こちらを見る。

 赤と青の目……神の目と呼んでいるが、二神様が持つ目のことだ。右の赤い目で身体を、左の青い目で精神を操ると言われ、応用はいくらでも効く。俺と和仁もその目を持つが、それは二神様の目を借りたものだ。本来は人間の手には余る。

 で、その目で見られたということは、隠し事はお見通しということか。


「隠し事はよくないぞ、怜治」

「二神様だけが知ってりゃいいでしょ」

「今回呼んだ理由も、十分承知なのだろう?」


 げ、そこまでばれてたか、と俺は口元を歪ませた。まぁ、そうだ。俺の家では怜花以外が知っているというべきだ。嫌でも知ってしまうからな。


「お兄ちゃん何か知ってるの?」

「怜花よ、気にすることではない。今日話す内容を事前に知っておっただけじゃ。事前に、な」


 ニヤリと二神様は笑う。心配そうに見つめる怜花に、俺は二カッと笑う。


「神の目使えばネタバレできちまうからなぁ。悪ぃ」

「そう、単なるいたずら心ね。いつものお兄ちゃんだわ」


 俺も内心ほっとする。まだ怜花には知られたくない。怜花には、できる限り無関係でいてほしいんだ。


「さて、話を続けようぞ。その人ならざる者、またそのなりそこないは、もともとは「鳩」と呼ばれるものの子供か、関係者である」

「鳩……おじいさんが言ってたけど、二神様と1週間の戦いを繰り広げた、太陽の神の分身よね」


 美香の家は、術や魔力を研究してきた家。このあたりのことは充分詳しい。このあたりの伝説は俺も知っている。800年ほど前、かつてこの地は、二神様と太陽の神が収めていた。しかし、次第に信仰をめぐり喧嘩となり、1週間、土地が荒れるほどの大戦をした末に、二神様が太陽の神を洞窟に封印し、戦いは幕を下ろした。

 しかしその後も、太陽の神は外に出る機会をずっと伺っており、洞窟から自らの分身を放った。いずれは二神様の力を持ち帰り、もう一度地上に出て力を振るうための、偵察、そして二神様の拉致。それらの任務を背負ったものが「鳩」と呼ばれる分身だ。


「美香、いかにも。わしにとっては憎き相手じゃが、もう戦う力はお互いに残っておらん。そこで、太陽の神は鳩を、わしはお前たちに戦いを頼みたいと思っておるのじゃ」


 緊張が走る。んなもんできるわけねぇだろ、と言いたかったところを、二神様はさらに続ける。


「800年逃げ続けたツケじゃ。他人に任せるなど間違っておる。わかっておる、だが、これほどの好機はないのだ」

「好機?」


 和仁が思わず反応する。二神様はさらに続ける。


「10年前以上の好機。これを逃せば、もう太陽の神を打倒することなどできなかろう。わしも何もせぬわけではない。最大限の力を尽くす。その助力をしてもらいたいのじゃ。放った鳩の数は多すぎる。頼むことは一つ。鳩の首を落とし、数を減らすのだ」

「鳩の強さはどれくらい? 術は効く?」

「博之の質問には答えられぬな。まちまちといったところじゃ。この地でどう過ごしてきたのか。強さはそれに由来する。術や魔力を極めたのなら、倒すのは難しかろう。人間に溶け込んで暮らしてきた程度の鳩ならば、おそらく倒すのは容易だ」


 人間に溶け込んで暮らしてきた……ね。倒すのは容易か。


「それは仮に「人間の味方であった」としても倒さなきゃダメなわけ」

「ほう、心当たりがあるのか、怜治」


 知っていてそれを聞く。怪しい笑みをたたえながら。あーあ、こういうのはやだな。だから思うんだよ、戦いなんかには参加したくないって。その戦う相手は「自分にとっては恨みのない相手」かもしれないじゃないか。たとえ「同族」でも、殺していい相手と、殺しちゃいけない相手がいる。そうだ、これは「日常のどこにでも潜む定義」だ。


「あぁ、お前の思う「人間の味方」ならば殺さなくても良い。味方に引き込めるなら引込め。戦力は多い方が良いであろう」

「そう言ってもらって嬉しいぜ、二神様」


 ならば、ひとまずは無問題といったところか。しかし、二神様のことだ。何を考えているかなんてわかったもんじゃない。事は穏便に済ませないとな。


「では、状況の確認だ。倒す相手はいつも以上の怪異、神の分身「鳩」いつも以上の警戒をした上で、6時30分より、ミッションスタートだ、いいな」


 和仁の号令に、皆揃い「了解」と発する。そして、各自解散となった。皆川と才木は偵察として町へと向かう。善田と最上は、目標地点に鳩をおびき出す準備を始める。そして、和仁はというと……


「二神様、練習用の屑影くずかげはあるか?」

「あぁ、森の中に置いてある。使うが良い。いつもより多めにおいておる。しかし、魔力の無駄遣いはするでないぞ」


 屑影は、黒い石のようなもので、魔力に反応し、人の形を作り出す。しかしそれは、その人間の魔力に応じた虚像だ。要するに、人間じゃないものと戦う時の練習人形、といったところだ。和仁はナイフを片手に、森の中へ入っていく。それを見た二神様も、煙のようにぼやけて消えていった。

 和仁は練習っと……強いねぇ、精神が強いよ、本当にさ。戦うというところにプロ意識を感じるよ。


「じゃあ、怜花。材料でも調達しておく? 今回の敵は今までとは別格なんだったら、術を使う材料はいるでしょ」

「お兄ちゃんにしては真面目なこと言うじゃない。術と魔眼だけじゃどうにもならないかもだし、それなりの武器は欲しいわよね。例えば、対魔の陣の材料は……」


 こうして、俺と怜花の材料集めが始まった。手頃な材料は、そう簡単には集まらないだろうから、時間もかかるだろう。そう、準備は念入りに、しかしいつもどおりに、それが今日の俺達だった。


────午後6時25分。スマホを確認し、それぞれ配置についていることを確認する。仕掛けは設置した。二神様の魔力を込めた石を、人通りの少ない廃工場に置いた。周辺には対魔たいまの陣というものを張り、陣の中に入れば、人ならざる者は脱走は不可能。鳩に合うかどうかはわからないが、ないよりはいい。


「ほかにもいろいろ準備したが、実を結ぶかどうかはなぁ」


 俺は和仁とともに、廃工場の高い場所から、陣の中心を見ていた。スマホの時計は進み、27分。30分になれば、和仁と俺から、神の目を通し、さらに強い魔力を送る。そうすれば、二神様の気配と勘違いし、鳩はやってくるはずだ。


「そうもうまくはいかないだろう。相手はいつもより格上なわけだ。全く準備が通らない可能性がある」


 その時、周囲に鈴の音が鳴り響いた。けたたましいサイレンのように鳴り続ける鈴の音は、ひどく不気味だ。


「な……!」

「鈴の鳴り手・りん、術の一種だが、どうやら効いたようだな」


 そういって、和仁はすぐさまナイフを構える。それと同時に、黒い何かがナイフにぶつかった。和仁は身をひるがえしながら、一瞬にしてそれを切る。


「いつも通りの準備、それは把握済みですよ。こちらがわかっていないとでも?」


 黒い影は次第に形を作る。キャラメルのようなきれいな茶色をした長い髪、黒いコートに身を包んだ、不気味に歯をむき出して笑う男。これが、鳩……か……

 今まで見たものは、人の形をしていても、ここまで意思を持ってくることはなかった。ましてや、思考回路なんて知れたもので、こんな知能は持っていない。鳩、それはまさに「人間と同じ思考回路を持った人外」というわけか。


「初めまして、低能な少年少女たち。私の名前はメルト……とでも名乗っておきましょう。名前など無意味なものですからね」


 ケケケと気色悪い笑い声をあげる。紳士的な口調とは裏腹に、顔からにじみ出るものは狂気だった。

 スマホが鳴る。俺は急いで通話を繋げた。

 

「どうなっている! 対魔の陣の外だろ!?」


 電話の相手は才木だ。こちらの準備はいつも通り。それが「いつも通りじゃない相手に通用するはずがなかった」警戒はしていても、それ以上の準備なんてできるわけがない。初期装備の状態で、いきなりボス戦に挑んだような気分だ。


「今、和仁が応戦中だ。何とかそっちで立て直してくれ!」

「わかった! 今、そっちの方向に善田と最上が向かってる!」

「了解!」


 すぐさまスマホをポケットに入れる。こちらの武器は、一応準備しておいたものでナイフと、術で爆破する粉、そして、手ごろな石……そして……


「怜治、お前も戦ってくれ、さすがに一撃が重い!」


 2本のナイフで応戦する和仁。攻撃に転ずることはできず、ただ防戦一方。メルトと名乗った鳩の攻撃は、手など使っていない。黒い影のような職種が、無数に増えて殴りかかってくる。切っても切っても、メルトにダメージはない。あれはいったいなんだ?

 赤い目は身体を操る。鳩の目は赤だ。応用はいくらでも効く。ならば「影という物を操っている」のか?


「身体とはちょっと違うが、応用が利くとしたらそんなもんだ」


 目を赤と青に染める。相手はこちらと目を合わせようとしない。俺だって合わせたくはない。だが、精神を操る目がある、こちらのほうが少々有利だろう。一か八かだ!


「身体の目、精神の目、この目に映るものを捉えよ。俺と目を合わせろ、メルト!」


 目の強制力が働く。メルトは無理やり、俺と目を合わせることになった。


「ほう……魔眼対決ですか。こちらが負けるとでも?」

「ちげぇよ、お前の目を一時的に閉じるだけだ! 眼光閉絶がんこうへいぜつ!」


 魔力を結集させ、一時的に相手の視界を奪う。眼光閉絶、一時的に魔眼ですら潰すことのできる術。だが、もちろんデメリットもある。こちらも目が見えなくなることだ。


「和仁、全然見えねぇけど、攻撃の手は緩まったか?」

「あぁ、お前には感謝だ。しばらく、俺の左目を渡す」


 全く見えない中で、何かが左目の上に触れた。すると、左目だけが、視界を取り戻す。まさか和仁、左目の視力を一時的に俺に渡したのか? ならあいつは「精神の目が使えない」はずだ!


「いいのか? 精神の目はあいつに勝てる唯一のアドバンテージだぞ?」

「両目が見えずに戦力を失うほうが損だ。片目だが、戦えるな?」

「あぁ、やってやるとも。こちらに勝機はある!」


 全く、こういったことを平然と言いやがる。和仁はかっこいいぜ。左目の視力だけ取り戻した状態だが、ないよりはあったほうがいい。立て直して必ず勝つ。ゆっくりと立ち上がりながら、そう誓った。

 勝たなければならない。この手元にある、切り札を使う前に……

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