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これが俺の日常だ

 今、過去を振り返り、君に何が言えるだろう。


 今、君に会えたら、君に何を伝えるだろう。


 わかっている。だがわからない。結論を出してしまえば敗北だ。


 なぜなら、君との約束を、俺は何一つ守れちゃいない。


 それでも、いいというならば、こんな俺にも願いがある。


────君と会って話がしたい。


 目の前に立ちふさがる怪異。死の概念。


 これを倒せば救われるのか。これを倒せば戻れるか。


「いいや、無駄だ。こんなこと」


 わかっているんだ。わかっているのに。この悲しみには行き場がない。


……その始まりは、高校一年生の夏のこと。一人の女子高生が、学校の屋上から飛び降りたことから始まった。




 20xx年、7月。ここに怪異や異能と戦う、少年少女がいた。


「んげぇ……学校の中は涼しいなぁ」


 炎天下の中、7月最後の登校日。俺、似非怜治は、暑さでうだる体を引きずりながら、俺は学校へ飛び込んだ。靴箱の鉄は冷たく、ほてった頬をあてるにはちょうどいい冷たさだ。


「え、気持ち悪い」


  

 それを見て、どストレートな感情を口にした後輩がいる。見ると、そこにはみつあみに赤いピンをさした、俺とよく似た後輩がいた。上靴の色を見るに、2年下、1年生。……待て待て、冷静になれ。頭を冷やせ、目の前にいるのは……


「れ……怜花!」

「お兄ちゃん、マジでキモイよ。どうしたの? 蒸発した?」


 いかんいかん、妹に情けない姿をさらしてしまった。ただでさえ情けない兄貴なのに、これでは妹からの好感度がダダ下がりだ!!


「いやぁ、待て、怜花! 俺、飲み物忘れてじょうは……」

「だろうと思った。はいこれ、スポーツドリンク。あげるから気持ち悪いことやめてよね」


 怜花は困った顔をしてため息をつきながらも、渡してきたのは、俺の大好きなイチゴ味のスポーツドリンク。すぐさまふたを開け、一気に飲み干す。冷たい甘さが喉を駆け抜け、すぐさま体に爽快感と若干の不快感をもたらす。なんせ甘いからね。

 実はこの妹、俺の自慢の妹。冷たい態度を取っていても、ちゃんと俺のことをわかってくれている、もう一度押すが、かわいくて優しい自慢の妹なのだ! 料理も上手だぞ! 毎朝弁当も作ってもらっている!

 細く目を開け、俺の反応をうかがっているあたりも、どこか愛おしい。


「ありがとう、怜花。俺、これで今日一日頑張れる気がする!」

「どうせ半日でしょ。じゃ、お兄ちゃん、またあとでね」


 満面の笑みでかっこつけながら言ったせいだろうか、妹の態度はもっと冷たく、最後のセリフはそっぽを向きながらだった。そして、妹は生徒たちの中に消えていく。


「さてと……またあとで、ってことは、なんかあるな、これは」


 だが、怜花のそのセリフに少し冷静になり、けだるい表情と歩き方で、俺は教室へと向かう。教室の扉を開けると、廊下よりもさらに涼しい空気が、吹き抜ける。冷房を見ると16度。このクラスは馬鹿なのか。

 冷房を25度まで上げた後、窓際の席に座る一人の少年の前に、ドンと立ちふさがる。少年は俺を少し見ると「まぁ、大体そういうことだ」とつぶやいた。


「怜花がまたあとでって言ってきたからな。今回は何だ」

「あぁ、今回は悪霊退治だ。今日の6時30分にミッションスタート、とだけ言えばわかるか?」

「まぁね。だが、最近は勝手が違うんだろ? こちらの動きが」

「あぁ、読まれているよ。あくまで極秘なんだがね」


 黒髪に眼鏡の、いたって冷静で知的に見えるこの少年の名前は、覚元和仁。俺の友人にして、戦友といったところだ。

 そもそも、俺たちが何と戦っているのか。この町には古くから「人ならざる者」が存在していた。最も「人ならざる者に近づこう」としていたのが原因とされるが、そこはもう600年は昔の話なので、どうしようもない。

 今、俺たちがしているのは、その後始末といったところだった。人ならざる者を倒す。その役目を、無理やり与えられてしまった、俺と、和仁は。


「ほかのメンバーは、どうなってんの。今日は非番か? それとも出動か?」

「怜花には、やはりバックアップを頼んでいる。情報収集は、才木と皆川。雑魚処理に善田と最上。最前線は俺と怜治。今回は規模の想定ができないから全員出動だ」

「ったくよぉ……采配はお前に任せるとは言ったが、妹を無理に巻き込むなよ?」

「怜花が直々に参加したいといったんだ、仕方ない」


 和仁は、ひと際高い、人ならざる者に対する戦闘力から、俺たちのリーダーとしている。だが、俺的には妹を巻き込まないでほしい。あと、怜花と和仁はくっつきすぎだ。そこが付き合うのはお兄ちゃん的に許さん。


「そんな目で見られても、怜花の力は特別だ。俺たちが戦っても、次の日学校に行けるのは、怜花の「治癒の術」のおかげだぞ?」

「まぁ……そうではあるが……ぐぅぅ……」

「お前の妹は、お前と同じく優秀なんだ。そこはこらえてくれ」

「おぅ……ゆ、優秀と言われたら仕方ないなぁ……でへへ」


 今のは俺にとってとっても嬉しい。妹だけでなく俺もほめてもらえるのは最高にうれしい。やはり、和仁は俺のツボをわかっている!

 しかし、俺たち高校生が、人ならざる者と戦うなんて、一般論からすればバカげた話だ。相手は、人間じゃない。人間の常識は通用しない。そう、例えばただの銃で撃って死ぬはずがない。


「で、和仁。今日はどうやって戦うんだ。今回は、相手には「目がある」んだろうな」

「あぁ、今回発見された敵には、確実に目があることが分かった。魔眼は通じる」

「よっし。それなら行けるな。得意だぜ」


 そんな俺たちがどうやって戦うのかといえば、人ならざる者の血と目、そして武器だ。あいにく、この町には、人ならざる者との混血はたくさんいる。その中で、たまたま、武器や魔眼に耐性と特性がある。そんな人間たちで作られた、対・異形グループ「二神ふたかみやいば」こそが、俺たちの正体だ。

 中二臭さは半端ない。だが、事実、この町には、神も悪霊も超能力もなんでもござれだ。このグループ名も、もう違和感を感じない。


「今日は学校が終わり次第、二上神社ふたかみじんじゃに直行だ」

「オッケー、了解。じゃ、今日も気張って稼ぐぜ!」

「毎度言っているが、死ぬんじゃないぞ」


 和仁の忠告はほどほどに聞いているつもりで、痛いほどわかっている。あぁ、人間じゃない相手には、気を付けないとな。死んでしまう、そうだ、この町の誰もが、死の危険と常に隣り合わせなのだから。

 だからお前もな、和仁。姉さんの二の舞にはならないように、な。これは心の中の声、俺の中だけの秘密だ、和仁。


 グダグダと全校集会は終わり、簡単な大掃除の後、解散。生徒たちが思い思いの夏休みを満喫しようとする中、7人の少年少女は、生徒たちの流れに逆行し、校舎裏を目指していた。

 自然な流れで、早く帰ろうとする生徒でごった返す校舎横を、何食わぬ顔で、すり抜けるように7人は進む。自然と通り道ができるように、するすると進んでいく。

 暑い日差しの中、滴る汗をぬぐって、校舎裏へと7人はたどり着く。そして、黙ってフェンスの抜け道を通り、裏山を進む。


「さーて、この辺なら喋れるか。黙ってたら誰にも気づかれない「寡黙の術」ってすげぇな」


 俺は黙っていた口をようやく開ける。みんなも一息つくように口を開いた。


「まさか俺の習った術が早速使えるとはな。だが人込みを抜けるなら「風渡りの術」のほうがいい」


 そういって、術の書をパラパラとめくるのは、このチームのブレーンと言える秀才、才木博之さいきひろゆきだった。才木は幼くして父を亡くし、母もほとんど家にいない状況だが、それでも、この町の伝説に関する興味は強く、人ならざる者の血がほとんど入っていなくとも、その術を扱う器用さと熱意で、このメンバーの一員となった。

 イケメンでスポーツできて頭いいって、天はこいつに何物も与えすぎだ。俺にも少しくらい分けろ。いつも女子からキャーキャー言われやがって。

 内心ひがみつつも、俺は同級生として、そして何よりも英語の先生として尊敬している。テスト前はこいつに教えてもらえば何とかなる。


「でも、生徒がまだいる時間から準備なんて、今回はちょっと特別だね。才木くんのおかげで助かったよ」

「あぁ、そうか。あ、ありがとうな、皆川」


 皆川にデレてんじゃねぇぞ才木! と言いたいが、仕方ない。皆川美香みながわみかは3年生で元生徒会副会長。才女にして美女、いや、ショートヘアーの似合う少女! 学校一の才女とイケメンが実は両想いだがくっついてない、といった、微妙な関係。じれったいなぁ。

 皆川は、術や魔力などの研究を積み重ねてきた、皆川家の分家。本家ではないので、さほど厳しい特訓があったわけでもないが、家が代々続けてきた、約600年は積み重ねたその研究の一部として、魔力の貯蔵が半端なく、術が使いやすい体となっている。ただ戦闘向きでないことが欠点。

 ちなみに魔力とは、術を使うための力のようなもの。術は、魔術でも妖術でもない、日本が定義する術とは少々かけ離れたもの。それに合う魔力と体。それはある意味、人ならざる者が求めるものでもある。

 ゆえに狙われがちなのだ、皆川は。


「ぼ、僕は今回も雑魚処理ですか!? 覚元先輩!」

「そのつもりで置いているが」

「ぼ……僕には無理ですよぉ……」


 情けない声をあげて首をがっくり下げたのは、1年下の後輩、善田成也ぜんだなりや。彼を呼んだのはほかでもない、覚元や俺では片づけられない雑魚処理を、彼に任せている。それほどの術の使い方から耐性まであるのだが「こちらの彼」は心から弱い。「あちらの彼」は身を殺戮に身を任せる、まさに戦いに優れた彼なのだが……


「由紀さん、どうにかならないですか……僕はできたら戦いたくないんです。怖いし、痛いし……」

「同感。しかしこればかりは仕方ないわ」

「由紀さんは冷静ですね」

「そうね。仕方のないことだもの」


 冷静を通り越して、感情もなく冷たく善田と会話するのは、最上由紀だ。彼女には喜怒哀楽といった感情が顔に出ない。いつも無表情、だからこそ、どんなことを考えているかなど読めない。ただ、魔力と術はかなり優れており、彼女を主戦力と置いてもいいくらいだ。

 主戦力から外す、理由はいくつかあるものだが、まぁ女の子だもの、戦わせたくはないよね。怜花も皆川もね!


「そうこうしているうちに、結界の前についたわ、お兄ちゃん、詠唱」

「あ、はい」


 怜花に促され、じっと目を凝らす。目の前には至って何もない森林風景が広がっている。だが、これは神社を簡単に近寄らせないための結界だ。これを抜けなければ、二上神社にはたどり着かない。

 ゆっくりと目を開く。右目は赤、左目は青に染まる。周囲の空気は流れを変え、威圧感に変わる。


「祖にかんを、我は二神ふたかみの守護者。13の約束に従い、盾となり、矛となるものなり」


 これは詠唱と勝手に呼んでいるが、二神様への誓いの言葉である。これをしないと、どうも二神様はここを通してくれないらしい。

 次第に、空間が歪むような感覚が起き、結界に裂け目ができる。その奥には、石畳が淡々と続いていた。目を通常に戻す。どっと疲れが湧き上がってくるが、こんなのはもう慣れた。もう一度7人は寡黙の術を使い、結界の裂け目を通り抜ける。

 石畳の先、赤い鳥居が、俺たちを待つ。潜り抜ければ、空気は清らかに澄み、心が穏やかになる。結界と、森という自然の結界に閉ざされた、神秘なる空間。二上神社がそこにはあった。


「待っておったぞ、まずはわしと、かくれんぼをせぬか?」


 無邪気な笑み、それに合う幼い姿。しかし白銀の長い髪の毛に、額から白い角が生えている。小さな巫女服を揺らし、かわいらしくも怪しく立つ、少女。


「また遊ぶんですかい、二神様ふたかみさま


 俺はあきれながらも笑い、ため息をついた。

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