緑色の雪だるま
私は2週間、中米のある国の中流階級のご家庭にホームステイしていた。
セシリアさん、7歳。
褐色の肌、ブラウンの瞳、モコモコとしたウェーブの掛かったブラウンの髪の毛を後ろに束ねたラテン系の女の子である。
セシリアさんはお家でお人形さん遊びをするような子ではなく、あっちいったりこっちいったりと、家の周囲を駆け回っている。普段は。
そんなセシリアさんが、今日はえらく大人しい。
朝からずっと、リビングのテーブルで何かを描いている。
「セシリアさん、セシリアさん。今日はお外で遊ばないのでしょうか?」
毎日セシリアさんの遊びに引っ張り回されているだけに、急に誘って貰えなくなるのは少々寂しい。
「昨日ね、テレビでホームアローンをやってたの」
ほぅほぅ、昨夜はセシリアさん、ホームアーロンをご覧でしたか。
確か、クリスマスの日に間抜けな泥棒が家に侵入してきて、少年が撃退する話でしたよね。
「それでね。絵を描いていたんだ。
私とママでしょ。こっちがパパ。これがあなたで、そしてハビエル。」
おお、私も入れて頂けましたか。それは光栄です。
ちなみに、ハビエルはセシリアさんの兄である。
家族が笑顔で手を繋いでいる絵。
子供の描くものは、日本もこの国も変わらないなーと思って眺めていたのだが、丸を二つ積み重ねて、緑色に塗りつぶされた物体に気が付いた。
「セシリアさん、これはなんでしょうか?」
「雪だるまだよっ」
えっ???
「セシリアさん、僭越ながら雪だるまは白ではないでしょうか?」
「えーっ、雪だるまは緑だよ!」
ええっ???
あっ、いけない。
セシリアさんは、腰に手を当ててプンスカしていらっしゃいます。
なんという可愛らしさでしょうか!
しかし、謎です。
どうして、雪だるまが緑なのでしょうか?
昼になって、私の語学の教師がやってきた。
私は雪だるまの謎を問いかけた。
「あー、テレビを点けてごらん」
リビングにあるのは、年代物のブラウン管のテレビだ。
なるほど。
これ、白黒テレビだったのか。
中米のこの国に雪は降らない。
セシリアさんは白黒テレビを見て、雪という物を想像して色を塗っていたわけだ。
今日はクリスマスイブ。
ここではカラフルな電球を家に飾り付けて、クリスマスを祝う。