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オカマだけど演劇練習中です!

 場面はヒロイン『ベル』が父『モーリス』を探しに来て城の牢屋で父モーリスを見つけた場面。


ベル「父さん! どうしてこんなところに!」


モーリス「いけない! 早くここから逃げなさい!」


「いやよ! 誰がこんなことを」


「いいからはやく!」


 が、父モーリスの助言むなしく、大柄な男があらわれる。


野獣「()()()()()()()


「きゃあ」


「逃げるんだベル」


「あ、あなたは誰なの?」


()()()()()()()()


*******


「カット、カット!」


 演技の練習を中断したのは高坂さん、監督役としてみんなの演技を見ているらしい。


「あら、どうしたのよ」


「あらどうしたのよじゃないよ泰ちゃん! 棒読みすぎてこれじゃあ三年生に勝てないよ」


「そ、そうかしら? 棒読みだった? あたし」


「ええ、かなりね、猿が読んだ方がましって言ううくらいにはと思うくらいには」


 白鳥に聞くと信じられないという顔でダメ出しをされた。ていうか猿!? あたしの演技は猿以下ってこと!?


「すこし休憩にします、各自水分補給をちゃんとしてくださ~い」


 高坂さんがみかねて休憩をはさみ、こちらに近寄ってきた。


「泰ちゃんはもっと心を込めるようにしないと、これじゃあ三年と競うどころじゃないよ……」


「ご、ごめんなさいね、善処するわ」


「それに比べて私の演技のうまさ見た? 天才よね、天才!」


「う、うん、玲子ちゃんの演技は本当にうまいよ! 演劇部に欲しいくらい」


 ちっ、自分で言うのか! って言ってやりたいけど本当にうまいから何も言えないわ……


「あんたも見習いなさいよね」


 するとニヤっとしながら憎たらしい表情で肩に手をポンとした。


「くぅぅぅぅぅぅ」


「ふ」


 泰三はあのままあそこにいたらなぜか自分が本当に猿以下なんじゃないかと思えてきたのでトイレに向かった。


「はぁ、本当にどうやったら感情をセリフに乗せることができるのかしら」


 男子トイレにつき、個室で『演劇 セリフ うまくなるには』と検索してみた。


『セリフとは登場人物のその時その時の感情の表れである。だから演技の前に自分自身がその世界に入ってしまい同じことを体験しているとイメージしてみるとうまく感情を乗せることができるだろう』


 それができたらとっくにうまくなってるわよ……そもそも同じことを体験することなんてないんだから無理よこんなの。


 しばらくトイレにこもって色々探していると、会話からして三年の演劇部っぽい人たち二、三人が入ってきた。


演劇部A「なあ、一年の高坂本当に俺たちに勝つ気だぜ?」


演劇部B「マジ? 空き教室も十分な広さの取れなかったのによくやるなぁ」


演劇部C「ていうか、高坂ってかわいくね? 俺落ち込んでるとこつけこんで落としちゃおうかな」


A「マジ? 悪い奴だな、でも確かに胸もあるし、俺も狙ってみようかな」


B「まずそれには一年に大差をつけて勝たないとな」


C「それな、あはははは」


 小便が終わると笑いながらトイレを出て行った。


「…………」


 この時泰三の心に火がついた。


 普段は気が弱くて優しいが、演劇の事となるとすぐ熱くなってしまう高坂さんの笑顔が頭に浮かびあんなカスどもに負けていいようにされるなんて泰三のオカマ魂が黙っていなかった。


 誰もいなくなったトイレのドアを勢いよく開け、急いで教室に戻った。


「あ、泰ちゃんおかえり、さっきはちょっと言いすぎちゃったかもしれない、ごめんなさい。私と玲子ちゃんも反省してるの、ね? 玲子ちゃん」


「ま、まあまさかトイレに逃げ込むほどショックだったなんて思わなくて……言い過ぎたわ、ごめんなさい」


「気にしてないわ、むしろもっと言ってちょうだい」


「え? 泰ちゃん?」


「それよりもこの台本ってそのままやらなきゃいけないってことはないわよね?」


「え? あ、う、うん少しなら変えてもらってもかまわないよ?」


「じゃあ、魔女を見た目で判断したせいで見た目を野獣に変えられただけじゃなくて、それにオカマ口調も付け足してほしいの」


「え? オカマ口調!? どういうこと?」


「あたし普段からこんな喋り方でしょ? だから普通の口調にいまいち気持ちを乗せることができなかったのよ、だからオカマ口調にすればいけるんじゃないかって」


 要するに自分がその物語に入ることができればいいわけでしょ? それなら物語のキャラクターをあたしそっくりにすればいいのよ。


「そ、そんなのできるわけないじゃない、ねぇ? 真緒ちゃん」


「ううん、泰ちゃんがそれで気持ちを乗せることができるならそれくらいのこと問題ないと思う!」


「いいの!?」


「ありがとう、高坂さん」


「あ、あんた急にやる気になってどうしたのよ……、なんか気持ち悪いわよ」


「なんとでも言いなさい、白鳥玲子、あたしはいま演劇部の糞先輩に一泡吹かせてやろうと燃えているのよ」


「く、くそ……先輩……?」


「泰ちゃんがなんかしらないけどとてもやる気を出してる!」


 こうして泰三のクラスの美女と野獣は主人公がオカマ口調で行うという誰もやったことのない演劇を行うことになったのだった。

よかったら感想でも書いていってもらえるとモチベーションにつながります!



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