《序章》
『僕』の世界はどこか屈折している。
そもそも歪んでいるのか、歪められたのか、はたまた歪んでいるのは『僕』なのか。
『僕』である『村田 美香』という存在がプリズムなら、そこに光を射し込んでいるものは?
わからない。
いや、
そもそも光など射し込んでいない。
あぁ、『僕』がされているのは、傷つけられ虐げられることだけだ。自分で体に付けた傷が語りかける。
幼い頃からそうだった。
村田 美香は村田 美香であることを許されなかった。
望まれたのは、家庭内で絶対的であった父親の望む存在しない誰かであった。
母親は優しかったが、それでも父親の圧を弱めるものなどなかった。
たとえ片方だけとは言えど、素の自分が求められていないと悟る時、容易に心は死んでいく。
それはきっと産まれてから死ぬまで変わらないだろう。
小学校5年生の時、『村田 美香』を捨てて『僕』になった。
『僕』は自覚していながら、1つの体に2つの人格を産みだすことを良しとした。
家では、父親の望む『村田 美香』。
言う通りでなければ罵倒され、叩かれ、精神を捻り潰されるのは目に見えていたから。
まさに「虐待」。しかしその当時私はそう自覚できなかった。
学校では、圧のなさで弾け飛んだ『僕』。
僕は父親にされているように、友人を罵り暴力を振るった。悪意もなく、傷付けようという意思もないが、いつもされているようにしただけだった。
いうなれば、『村田 美香』も『僕』も、どちらも自然に産まれたものではなかった。それ故に、自分が自分である印が欲しくて腕を噛む癖がついた。
赤く腫れ上がっても、それが僕の存在を認めてくれているような気がした。
噛むという行為に、赤く腫れ上がるという反応。
それがどこか心地よく、安心感を覚えた。
きっと、どうしようもなく荒んだダメ人間なのだろう。
少しずつ、少しずつ。
それはきっと、父親から受けた虐待によるもの。
『僕』は『村田 美香』の記憶を辿っていこうと思う。




