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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep082 師匠を追え

ep082 師匠を追え






 僕は山小屋の扉を開けた。外はパラパラと(ひょう)を降らせる嵐となっている。この山小屋に避難する者だろうか。


戸口には一匹の黒猫がいてその姿には見覚えがあった。黒猫が立ち上がり優雅に挨拶した。


「英雄クロホメロス様。僕が(ちから)になるよ」

「猫人か!」


僕が見知ったしゃべる黒猫の話を聞くと協力してくれるらしい。ズーラン親方は驚いていたが、


「森の近道を抜けるから付いて来てね」

「おう」


急ぎ僕は嵐の森を駆けた。ズーラン親方の話では猫人は妖精と考えられて人前には姿を見せないと言う。僕は旅の途中で猫人の森に案内された事を思い出した。


氷の(つぶて)と見える(ひょう)が降る中にしゃべる黒猫を追って大木の間を抜けると、雪が消えて春の陽だまりの様な場所に出た。季節外れにシダや山菜が芽吹いている。


「こっちだよ」

「!…」


しゃべる黒猫に従って茨の藪を通り抜けると……そこは暗雲に包まれた町並みが見える丘の上だった。既にしゃべる黒猫の姿は無くて……ズーラン親方もいない。


僕はひとりでアルノルドの町へ向かった。




◆◇◇◆◇




 水の神官アマリエは伯爵家のご子息ケルビン・ラドルコフの身柄を城に預けて帰路に着いた。ラドルコフ伯爵家の内紛も全てアルノルドの太守ゲオルク・シュペルタン侯爵に丸投げだ。


城の守りは衛兵たちの仕事だ。いつまでも水の神殿に匿うよりは安全だろうが、最後の護衛依頼となった事に風の魔法使いシシリアと獣人の戦士バオウが御者台で話していた。


「ケルビン様もこれからが大変ね」

「GUF 謝礼を貰えば 文句はない」

「そうですね……」


アマリエは伯爵家の事よりもマキトの身を案じていた。鬼人の少女ギンナの事も気懸りだが一緒に水の神殿へ連れてくるべきだったか。荷物を預けて身軽になった幌馬車で水の神殿へ帰る。いや、このまま北へ向かいマキトに会いに行くか。


「どうしたのよ! こんな所で?」

「GHA 本物か……」

「えっ!? マキトさん!」


城から戻る途中の大通りでマキトを発見した。工房都市ミナンにいる筈だがバオウが匂いを確認した。マキトはひどく慌てた様子でアマリエと目が合った。


「急ぎの用件で、皇帝陛下に会いたい!」

「そんな、急には無理ですッ」


半月ぶりに会うマキトは取り乱した様子で何か問題を抱えているらしい。幌馬車に乗せて詳しく話を聞くと、ミナンの町でお世話になった光教会の神父様が皇帝の命令で捕まったと言う。それを知ったマキトは皇帝へ直訴して助命を嘆願したいのだ。


「どうにか出来ないか?」

「騎士爵のマキトさんでも、皇帝への直訴は無謀です! どうか冷静に……」


その時、町の大通りに人混みが溢れた。何事かと幌馬車を止めて大通りを見ると、向こうから兵士の隊列が現われた。先頭には防寒用の魔獣の毛皮をマントにした甲冑姿の騎士が馬に乗り進んでいる。続く兵士は荷車を曳いて進む様子だ。


マキトが身を乗り出すのを獣人の戦士バオウが押し留めた。


「GUU 何をする気だ」

「マキトさん!」

「…」


兵士が引く荷車にはボロ布を纏った老人が跪き項を垂れていた。酷く疲れた様子で見るに堪えないが、マキトの様子から彼が光教会の神父様だろうと思う。十年前ならば珍しくもない光景だが、最近は光教会の関係者が捕まる事も稀だろうと群衆の囁きが聞こえる。


アマリエは神殿の者として光教会が帝国で迫害された歴史を知ったが、今も迫害が続いている現実を初めて自分の目で見た。水の神殿としては帝国と対立する事なく平穏に神殿の活動が出来れば良い。ましてや、帝国に迫害される光教会と関わろうとは考えない筈だ。


兵士の隊列が通り過ぎる。このまま城へ向かうのだろう。群衆の噂話では光教会の者は生きて捕えた方が懸賞金が高いとか、帝都で処刑になるか、監獄送りか、と娯楽の様に語られる。


マキトは絶望して無力感に苛まれている様子だ。彼の責任では無いだろうに……酷く落ち込んでいる。


「マキトさん。私に考えがあります」

「!…」


水の神官アマリエはマキトに手を差し伸べた。




◆◇◇◆◇




そこは帝国軍の情報部の将校が使う執務室だ。将校の男が報告書を見て言う。


「Gの居場所を発見したか…」

「ハッ。アルノルドの斥候部から報告がありました。水の神殿の関係者に接触した模様です」


将校の男が士官服の男に尋ねる。


「では、この報告書は何だ?」

「それが…その…神殿の意図が、わかりません」


情報士官の話では要領を得ないが、Gがこちらに接触を求めているらしい。


「ふむ。私が直接、話を聞こう」

「ハッ」


敬礼して情報士官が退出してゆく。Gとの会談が実現しそうだ。


「さてどんな、持て成しが必要か……」


将校の男は最近のGの行動を追跡調査した資料に目を通して考に耽る様子だった。



………



Gとの会談は予想通り、早期に実現した。帝国軍の将校と見える男が口を開く。


「卿が、グリフォンの英雄マキト・クロホメロス騎士爵かね」

「はい」


帝国軍の施設に乗り込んだのはマキトひとりだ。


「申し遅れたが、私は情報部のユングスト・ケプラーだ」

「…早速、お願いがございます」


マキトが用件を話す前に、情報部が事前に調査して得た結論を述べる。


「そう急くでない。光教会の司祭の件であるか?」

「はい。…できれば助命嘆願を皇帝陛下に…」


予想の通りであるが、マキトの願いは通らない。


「貴君は、何か勘違いしているのではないか?」

「はぁ?」


まずは希望を打ち砕いておく。


「グリフォンの英雄といえど、特権がある訳ではない!」

「…」


マキトは盲点を突かれて押し黙る。そこへ些細な交換条件を提示する。


「しかし、帝国のために働くのであれば、取り次いでも良かろう」

「本当ですか!」


亡霊にも頼る※とはこの事か、(※藁にもすがる気持ち)


「ああ、帝国軍の将として皇帝陛下に進言いたす」

「お願いしますッ…僕は、何をすれば…」


良いぞ、従順な猟犬の目をしておる。グリフォンの英雄など可愛い子犬の様なものだ。


「ここに、カエツ村という集落がある」

「カエツ村……」


帝国軍の情報部将校ユングスト・ケプラーは周辺地図を取り出して場所を示した。


「付近では手強い魔物が出没するらしく徴税官が襲われている。二年分の租税を納めるか……村ごと消してもらいたい」

「消す?…とは……」


汚れ仕事を任せるのに良い人材だろう。


「勿論に手段は問わないが、税を納めぬなら、村人はひとり残らず消せ!」

「………」


仕事の期限は守ってもらうが、まぁ出来なくとも構わぬ。


「嫌なら放置しても構わん。春になれば討伐部隊を差し向ける予定だ。光教会の司祭を助けたいのなら、早めに処理してくれると助かる」

「……」


余計な手間が省けて我々も助かるのだが……了承した様子だ。


「…」


マキトは沈黙して聞くしか無かった。




◆◇◇◆◇




ここは水の神殿の関係者だけが利用する裏口だ。僕はひとりで出立した。


「GUU マキト! ひとりで 行くのか?」

「あたしたちを護衛として雇いなさいッ。安くしとくわ!」


最近は護衛の仕事ばかりだと嘆いていたが、冒険者のふたりが僕を呼び止めた。


「マキトさん。私はミナンの町へ向かいます」

「え、アマリエさんも?」


水の神官アマリエは僧兵に幌馬車を引かせて現れた。神殿のお役目で工房都市ミナンに行くと言う。僕らは幌馬車に相乗りして北へ向かうとした。


「ギンナがミナンの町で待っていますから、お願いします」

「はい。任せて下さい!」


気が付けば、いつもの旅の顔ぶれだ。幌馬車は不安を乗せて出発した。


………


一度は通った街道だが雪道に轍と蹄の跡があり、雹に落雷と嵐も吹き荒れた後は泥に汚れた街道となっていた。交通量が多いせいか凸凹が激しい。特性の幌馬車は車輪に海の魔獣マオヌウの革を張り防水仕様で軽快に街道を進む。むしろ幌馬車を引く馬に似た魔物の蹄に(かんじき)を穿かせたい所だ。


「今日は何日ですか?」

「白の月の7日ですけど…」


うーむ。僕の主観では一瞬でアルノルドの城下に到着した気分だが、二日程のズレがある。猫人の近道も万能ではないのか。


「道中でカエツ村に立ち寄りたいのですが……」

「カエツ村は存じませんけど、問題はありません」


アマリエのお役目は急ぐ用件ではないらしい。僕らは途中の港町ウエェィを経由してカエツ村へ向かう。港町ウエェィの冒険者ギルドでは、迷宮の遭難事件などは既に忘れられて案内人のハンスについても新しい情報は無かった。


港町ウエェィの市場でいくつか食材を補給したのみだ。






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