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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep080 商売繁盛と取り引き

ep080 商売繁盛と取り引き






 僕はミナンの町の商業通りで露店を開いた。商品は立体像を四種類と粘土で作った壺と皿などだ。商業税を集める役人を警戒して店頭の商品は少なく見せる。壺と皿は絵付けをした焼き物で他の商店と差別化している。最近では立体像を買うお客が多く、僕は嬉しい誤算だ。商人と見える男が立体像を手に取る。


「この像の細工は良い出来だ」

「お客様。そのF型は…」


F型は獣人姿のファガンヌの立体像で。肉感的な体形に貫頭衣を着て商人の前掛けを付けている。僕は声を潜めて商人の男に囁く。


「…特別仕様もございますが、ご覧になりますか?」

「なぬっ、特別仕様とは?」


僕は後ろの木箱から特別仕様の立体像を取り出した。


「こちらで、ございます…この像は前掛け部分と衣装を取り外す事が出来ます」

「おおぉ!」


F型の特別仕様の衣装は部品化して交換が可能だ。


「さらに、お好みで前掛けのみを取り付ける事も出来ます」

「買った!」


商人の男は購入を決めた。


「毎度、ありがとうございます!」


ニコニコ顔で帰るお客様を見送る。しばらくして商家の奥様と見えるご婦人が絵皿を注文した。


「この絵皿を二枚。頂けるかしら」

「はい。奥様!…」


僕は商売用の笑顔で対応する。


「…今!絵皿を五枚お買い上げになると、無料で!もう一枚、お付け致しますよ~」

「ええっと……重いし、荷物になるし……」


「それではウチの荷物持ちをお使い下さい。ギンナ」

「はい!ですぅ」


「まぁ、可愛い小僧さんねぇ」

「お荷物をお持ちしますぅ~」


鬼人の少女ギンナはご婦人から他店で買い物した荷物も取り上げて軽々と持つ。ご婦人はご機嫌の様子で絵皿を六枚と猫の立体像をお買い上げになった。商売は繁盛している。


先程からA型の立体像を見詰めるご老人がいた。僕は他の客が居なくなった隙にご老人へ囁いた。


「聖女様の像ですが、……これとは別に、儀式用の衣装も用意してございます」

「ほおぅ!」


A型は水の神官アマリエの立体像だ。僕が後ろの木箱から取り出した特別仕様の像はスカート丈が短くフリル付きである。


「けっ、けしからん!……両方とも買いじゃ!」

「お買い上げ、ありがとうございます」


僕は二体の立体像を別々の木箱に収めてご老人に差し出した。ご老人は丁寧に木箱を抱えて持ち帰る。…何か包装が必要かな。その後は数個の壺と絵皿が売れたが、そろそろ店仕舞いの時間に金持ちと見える坊ちゃんが立体像に目を止めた。


「これは、何だ?」

「獣人の戦士像と見えますが……」


金持ちの坊ちゃんの付き人が応えた。主従ともそろい熱心に立体像を見ている。


「旦那様、こちらの戦士像には特別武装がございます」

「なに、私の事か?」


僕は二人にR型の立体像を勧めた。R型は河トロルのリドナスの立体像で革鎧を着てナイフを手にしている。


「大剣、手斧、槍、鎖鎌など。これらの特別武装は、世界にひとつの特別商品でございます」

「おお、世界にひとつとは……私に相応しい!」


まぁ、武装はそれぞれ手作りで現品限りだ。


「今回のみ、限定販売ですが……いかがでしょうか?」

「よし。特別武装も全てもらおうッ」


全てお買い上げの事だが、金持ちには端金(はしたがね)だろう。


「ハッ、恐悦至極にございます」


こうして、露店の商売は繁盛していた。




◆◇◇◆◇




そこは水の神殿でも上質の調度品が整えられた神官長の執務室だ。来客用の椅子に座り水の神官アマリエが手にしたカップをテーブルに置いた。カップからは暖かい湯気が立ち昇りアマリエの向かいに腰掛けた老婆が話す。


「良いのか? アマリエよ……」

「ええ、ケルビン様のご意志です」


アマリエは凛とした表情で、向かいに座る神官長の老婆を見詰めた。伯爵家のご子息ケルビン・ラドルコフの身柄をアルノルドの太守ゲオルク・シュペルタン侯爵に預けるのは本人の希望だった。


ケルビン本人の話では、ラドルコフ伯爵家は内紛を抱えており自助努力では解決が難しいと言う。それでも侯爵家を頼るのは、狼を恐れて虎を家に入れる事になりかねない。


「侯爵家を頼るとなると、今後も口出しが(うるさ)かろう」

「それも、承知の上です」


迷宮で遭難した事件の真相究明は遅々として進展しない。


「ふむ……旅を続けるにも、この雪では動けぬか」

「はい。春までは、ここでお世話になります」


神殿に侵入した密偵を捕えたが、尋問しても得られた情報は少ない。


「なぁに、私の伝手で侯爵閣下に話を通そう」

「恐れ入ります」


証人のハンスが死亡し、港町ウエェィの冒険者ギルドから情報も無く手詰まりの状況だ。せめてハンスが前日に接触した人物が分かれば、突破口になるかも…そう思うと港町ウエェィを離れたのは失策か。


冒険者ギルドがいち冒険者のハンスの死亡を事件として捜査するとは思えない…冒険者にはよくある事だ。また、血気に逸った若者が迷宮に潜り遭難する事もよくある事だ。捜索隊が出ただけでも幸運と言える。


不本意だが、これ以上の真相究明をあきらめて侯爵閣下と取引しても今後の旅の安全を買うべきだろう。


アマリエは貴族との取り引きに応じた。




◆◇◇◆◇




僕はズーラン親方の巻物工房を訪ねた。挨拶がてら仕事の進展を聞く。


「こんにちは、親方。前回の大口注文……聖魔法の巻物の制作は終わったのですか?」

「あん、良く知ってやがるッ」


「巻物の図案を見れば分かりますよ。で、今回の相談とは何ですか?」

「次の新商品の企画だ!」


ズーラン親方は目顔で魔道具店の小僧チッピィに説明を任せるらしい。


「企画とは?」

「それは、ですねぇ…」


チッピィの話では、氷の魔石を使って新しい巻物を作りたいと言う。試しにチッピィが作った氷の巻物を使ってみる。


「こうして氷の巻物に魔力を注ぎます」

「すッ…」


巻物の端から魔力を注ぐと、ゴトンと氷の塊りが出来た。氷の巻物は青白い炎を発して燃え尽きる。


「素晴らしい! 氷の塊ですねぇ」

「馬鹿野郎がッ、これじゃ石を投げる方がマシだろ」


確かに戦闘用に考えると攻撃の威力は低いかも。


「うーむ。氷の魔道具に比べれば、良い氷だと思いますよ」

「どんな魔道具だぃ?」


僕は以前に作成したミゾレ機の話をした。トルメリアの魔法博覧会で冷たい飲み物を提供した魔道具だ。二人は魔法の巻物ではなく便利な魔道具にするという発想が無いらしく関心して聞いている。


「ミゾレ機の作成方法を提供しますから、代わりに魔法の巻物の作り方を教えて下さい」

「うーむ。……良いだろう」


ズーラン親方は何か勘案していたが、チッピィの顔を見て許可した。


僕は有意義な取り引きに満足した。




◆◇◇◆◇




 早速に鍛冶工房に依頼して金属部品を作り僕はミゾレ機を組み立てた。冬の時期は氷の魔石も上質な物が安価で手に入る。氷の魔石には水の温度を下げて氷にする変換の魔法回路を書き込む。トルメリアの魔道具店で修行した技だ。


「氷を作成する魔法式を…【書込】」

「!…」


「この魔石を取り付けて完成です」

「ほぅ」


僕はミゾレ機に蜜柑に似た果物の果汁を注ぎハンドルを廻した。すると受け皿には新雪の様に氷の結晶が降り積もった。


「「おおぉ!」」


気温の影響か魔石の品質か予想以上の効果で氷が出来た。


「これはミゾレ機と言うより、かき氷機ですね」

「かき氷機とは?」


僕は受け皿に降り積もった氷の結晶をカップに注ぎ二人に勧めた。


「この氷を食べてみて下さい」

「あん。冷てーがぁ」

「氷が口でとけて……とても、美味しいです~」


ズーラン親方の反応はいまいちだが、チッピィは喜んでいる。


「いかがですか?」

「こんな。冷てー物が売れるものかッ」

「ううん……」


商品価値が上がるのは夏場だ。


「夏になれば、貴族とかに売れますよ」

「はっ、そうか!」

「夏が、楽しみですねぇ~」


僕はかき氷機の出来に満足した。




◆◇◇◆◇




次の日、僕らはミナンの町の南に広がる森林地帯に来ていた。南の三連山には飛竜が生息しており、この森は飛竜の狩場に近い。僕は先日の飛竜の騒動から飛竜に苦手意識があり息を潜めていた。


森の上空に飛竜の気配がしてズーラン親方がいち早く警告する。


「しっ、飛竜だ。隠れろ!」

「うっぷ……」


僕は気配を消して……師匠の指導の通りに魔力の発生も抑えて茂みに身を隠した。息詰まる様に上空を伺うと飛竜が通過して行った。


「魔木のトレントを探せぇ」

「そう、簡単には……」


この森には木の姿をした魔物トレントがいるらしい。魔法の巻物の材料としてトレントの樹液が必要だと言う。


「あれはッ」

「どこどこ?」


チッピィが指差す方を見るが僕には木々の区別が出来ない。どれも普通の木々に見える。


「小さいが、やるかぁ」

「はい。ですう~」


ズーラン親方と鬼人の少女ギンナは樵の斧を手にしてやる気に満ちている。


先陣を切ってズーラン親方が木々に切りかかと、魔木が枝を伸ばして防御した。


-KOHOHOOO-


風鳴りの様な叫びを上げて魔木のトレントが暴れた。枝を振り地表から根を伸ばして抵抗ししている。


ズーラン親方は樵の斧を振り回してトレントの枝を叩き斬る。僕とチッピィは足元に絡み付く根と時折に飛来する小枝を切り払った。


「今だ! いっけぇー」

「ですぅ~」


魔木のトレントが動きを鈍らせる機を見て、鬼人の少女ギンナは樵の斧をトレントの幹に叩き込んだ。妨害する枝はズーラン親方が受け止める。いつの間にそんな連携を覚えたのか。


遂にトレントの幹に傷を負わせた。僕らは徐々に動きを鈍らせる魔木のトレントから枝や根を切り払い抵抗力を奪った。念入りに暴れる余力を添いでいく。


「ふぅ、上手くいきましたね」

「上出来だ!」


完全にトレントを倒してしまうのは愚策だ。今回の目的であるトレント樹液を採集した。僕は小瓶に入れたトレントの樹液を観察していたが、チッピィは幹の傷口に大きなバケツと見える瓶を設置してゆく。


「しばらく、このまま放置して……次のトレントを探しましょう」

「「おう」」


僕らは次の獲物……魔木のトレントを探した。


トレント樹液は魔力を通しやすく羊皮紙に魔法の図柄を描く際に使用する。そうして、発現する魔法の属性に応じて決められた図柄があり効力を発生するには魔法触媒が必要だ。


森林地帯を奥へ進むとチッピィがトレントを発見して目を輝かせた。


「でけーな、おいッ」

「良い素材が取れそうです!」


そのトレントは巨木で聳え立つ様子だ。巨木のトレントの背後は崖地となり傾斜に落ち込んで南からの日当たりが良い。魔木も日光で育つのだろうか。


僕らは出来るだけトレントの妨害を分散するために包囲陣形で攻撃した。正面からズーラン親方とチッピィが当り。右から僕が、左からはギンナが陽動して巨木のトレントの攻撃を散らす。


ズーラン親方は自身の再生能力を生かして巨木のトレントに切りつける…防御はあまり考えない戦い方だ。その後方では足元から伸びるトレントの根に絡まれない様にチッピィがナイフで根を切り払う。上手い連携と見える。


僕は鋳物の剣Bを軽く振り小枝とトレントの根を切り払う。太目の枝の攻撃は魔力を使って切断する。


-KOHOHOOO-


「ぶった切れ…【切断】」


生木を切るのは容易ではないが、薪割りで鍛えた技は応用範囲が広い。僕は鋳物の剣Bに魔力を通して振りぬき、太目の枝を切り飛ばした。


鬼人の少女ギンナは怪力を発揮して樵の斧を振るい力任せにトレントの根を引き千切る。思わぬ下からの攻撃に巨木のトレントも対応できないらしい。


もう少し巨木のトレントの注意を引いてギンナの負担を減らしてやろう。僕は立ち上がり巨木のトレントに近づいた。


その時、開けた右手の崖地に飛竜が飛来した!突風を伴い煽られる。


「まずい!」


思った時には既に飛竜が起こした突風で、僕は体勢を崩して崖地に落ちた。


「英雄さまっ!」


これを見てギンナは樵の斧を投げ出して僕の方へ飛んだ。そんな事をしても助からない…僕はギンナを空中で受け止めたが、そのまま崖地に積もった雪の斜面を滑り落ちる。急斜面を転がり落ちて僕らは雪だまりの様な場所に落ちて止まった。危うく転落死する所だった。


崖地の上では巨木のトレントが暴れているらしく時折に風鳴りの様なトレントの叫び声が聞こえる。さらに上空には飛竜の姿がありて僕は雪に身を潜めた。この崖を登るのは飛竜の襲撃を予想すると危険すぎる。


「巻物に魔力を通して……」


新たに手に入れた魔法の巻物は使用者の魔力を注ぐ箇所があり。羊皮紙の長さに応じて魔法の図柄が並んでいる。僕は氷の巻物の現象を作る図柄を水平に並べて改造していた。巻物が効果を発揮すると複数の氷柱が伸びる様にして氷の板を形成した。


氷の板に紐を結び足元に取り付けた。雪山用に改造した棘付の靴で踏みつけると良い感じに氷へ刺さる。


「ギンナ行くよ!」

「はい。てすぅ~」


僕はギンナを抱えて氷の板に乗った。そのままスノーボードの要領で雪の斜面を下った。限界ギリギリの速度だろう。


こうして僕は飛竜の襲撃から逃れた。





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