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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep079 氷の魔石

ep079 氷の魔石





 僕はミナンの町から森を越えて北の平原に来ていた。平原は雪と氷に覆われて所々にある雪山は灌木が雪の重みに潰された姿だと言う。足は雪に埋まらない様に(かんじき)の様な装備を付けて、僕はチッピィに弩弓を借りていた。遠くに見えるのは今回の獲物…雪兎だろうか。


僕は硝子のレンズを取り出し望遠鏡にして覗き込むと雪兎の位置を確認した。


「あん。良い物を持ってるじゃねーか」

「僕にも見せて下さい~」


用心棒として同行しているズーラン親方は犬橇(いぬぞり)に乗って動かないが、望遠鏡をひと目見て理解したらしい。魔道具店の小僧チッピィは依頼主なので、僕は仕方なく望遠鏡を貸した。


「おぉ! 良く見えるッ」

「ですぅ~」


鬼人の少女ギンナはチッピィと一緒に燥いでいる。雪兎は北からの流氷に乗ってこの時期に現れる魔物だ。


「はいッほぅ~。ダル! ジル!」


-BAU BAW!-


ズーラン親方の掛け声に合わせて猟犬のダルとジルが数頭の犬を連れて(そり)を引いた。僕らは犬橇(いぬぞり)に便乗して雪兎を追った。雪兎は真っ白なペンギンの様な形状をして黄色い嘴と足ヒレを持つ魔物だ。雪の中に蹲り嘴と足ヒレを埋めてしまうと見付からない。


「あれよっ!」


チッピィが雪だまりに向けて弩弓の矢を放つと、ぴぎゃぁと悲鳴がした。雪兎を仕留めた様だ。僕も真似して弩弓を撃つがハズレの様子だ。弩弓は足踏み式でいちど矢を放つと再装填するためには皮手袋をして両手で弦を引かねばならない。そのためチッピィは事前に弦を引き用意した予備の弩弓に矢を番えて放った。


-PIGYA!-


今度も命中したらしい良い腕だ。猟犬のダルとジルの手綱を放すと獲物の雪兎を咥えて戻ってきた。二頭とも得意顔で尻尾を振る。こう見えても二頭は犬に似た魔物で非常に頭が良いらしい。ズーラン親方が頭をなでて働きを褒める。


手慣れた様子でチッピィが雪兎を解体すると体内には水色に輝く魔石があった。


「氷の魔石さぁ」


雪兎の魔物…僕には白いペンギンにしか見えないが、肉の良い所を切り取って残りは犬たちに与える。…ごちそうだ。


早速にして、僕は雪兎のもも肉を竈の魔道具で焼いた。タレは醤油で良いだろうか。


「おっほぅ~これは旨い!」

「美味しい!…珍しいタレですねぇ」

「うまうま、ですぅ~」


狩りの成績は悪いが僕を連れて来て正解だったと言われた。…迷宮探索の料理担当として鍛えた腕だ。


僕らは雪兎のもも肉を味わった。


………


その後も雪兎を狩り氷の魔石は魔法の巻物の素材にするそうで、この時期には出来る限り魔石を集めると言う。


「素材としては、まだ足りないケド…」

「あん。空模様が悪りぃ」

「…」


冬空を見上げると灰色の雲が見えた。どうやら雪になりそうだ。この付近の村へ避難するために犬橇(いぬぞり)を走らせる。雪は次第に激しくなり北風が吹きつけて来た…すぐに吹雪の様相になる。


僕らは犬橇(いぬぞり)に便乗して先を急いだが、突然に犬たちが騒ぎ出した。


-GUU BAU BAW!-


ズーラン親方は犬橇(いぬぞり)を停めて辺りを警戒した。周りは吹雪のせいで視界が悪い。


前方から巨大な雪の塊が押し寄せて来た!犬たちが吹き飛ばされる。それを見てズーラン親方が飛び出した。犬橇(いぬぞり)が横転して僕らも投げ出された。


吹雪の中でズーラン親方は大型の熊に似た魔物と対峙していた。その熊は体毛が真っ白で雪の塊に見えた。


-GAAAUU!-


白熊の魔物が吠える。しかし構わずにズーラン親方は白熊の下顎を殴り付けた!反撃に振るわれた熊爪がズーラン親方を傷つけるが、見る見るうちに傷口が塞がる…再生能力だろう。


再度に振るわれるズーラン親方の拳が白熊の横面に突き刺さると、白熊の魔物が体勢を崩した。よろけた白熊の体にもズーラン親方の拳が入る。かなりの有効打撃と見える。


そのまま白熊の魔物が雪の大地に倒れた。


「わおおおぉぉぉぅ!」


ズーラン親方が勝利の雄叫びを上げた。犬たちに囲まれた姿は獣の王の様であった。



◆◇◇◆◇




大型の獲物として白熊の魔物を犬橇(いぬぞり)に乗せて近くの村へ向かう。


激しい吹雪の中でも目的地に到着したが、そこはカエツ村という寂れた寒村だった。ズーラン親方は見知った様子で村長の屋敷と思われる農家を訪ねた。


「この吹雪で難儀している。ひと晩の宿をお借りしたい」

「…どうぞ、こちらへ」


ズーラン親方が珍しく丁寧に申すが、覗き窓の声からすると若い女だろう。ぎぎぃと蝶番を軋ませて扉を開き屋敷に招き入れられた。若い女は防寒用に黒いマントを着て女中とは見えない。


「村長はどうされた?」

「祖父は半年ほど前に亡くなりました。父は兵役に出ております…」


「うむ。そうか…こいつらを頼む」

「………」


カエツ村の村長の親族と思える若い女に僕らを預けてズーラン親方は吹雪の中へ出て行った。犬たちと獲物を納屋に仕舞うのだろう。


「どうぞ、こちらへ」

「…」


僕らは来客用の寝室と見える部屋に案内された。村長の娘だろう…その水色の魔石にも似た瞳には見覚えがある気がした。


「ハンス、準備は?」

「はい、お嬢様。…整えております」


寝室から使用人と見える男が現れた。宿泊の準備をしていた様子だ。上等な寝台には見えないが寒さが凌げるだけでも、ありがたい。


「ありがとう!」

「では、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」


僕らは毛布にくるまってひと晩の宿を得た。



◆◇◇◆◇




次の日の朝は吹雪も止み曇り空だったが、昨日に仕留めた白熊を解体した。毛皮は良い値が付くし肉も食用になる。


「本当に助かりますわ、今年の冬はとても厳しくて…村の食事も苦労いたします」

「困った時はお互い様だ。肉は置いて行くゾ」


大方の白熊の肉は村長の娘に預けて村人に分けた。ズーラン親方はしばらくこのカエツ村を拠点にして雪兎を狩りたいと言う。


「それでは、本宅にしばらくご滞在くださいませ」

「うむ。世話になる…」


積もる話もありそうだが、雪の晴れ間を期待して僕らは狩りに出かけた。


雪原を犬橇(いぬぞり)で走ると、森は新雪に覆われて何もかもの痕跡を隠している。いつもの様に雪景色に同化した雪兎を探す。魔物とはいえ雪兎も吹雪の晴れ間には餌を探すらしく、平原に出て僕は遠方から望遠鏡で動く物を探している。


「北の方に何匹か見えますね」

「よーし。案内しろ」


「僕の弓が獲物を撃つよ!」

「です、ですぅ~」


氷の魔石を収集するための狩りなのだが気楽なものだ。不意に出くわす白熊の魔物には気を付けたい所だ。僕らは順調に雪兎を狩り魔石を集めた。食糧としての雪兎の肉も沢山とれた。


途中で雪兎の焼き肉を食べて夕刻まで狩りを続けたおかげで、既に獲物は十分と思える。僕らはカエツ村に帰還した。


カエツ村に着くと何か騒ぎがあったらしい。村人が集まるのを見ると一軒の小屋が雪の重みで潰れていた。


「こりゃいかん!」

「助けるよ」


ズーラン親方は犬橇(いぬぞり)から飛び降りて潰れた小屋の残骸に踏み入った。チッピィは小柄な体を生かして残骸の隙間から生存者を探した。


「こっちに、人がいる!」

「「おう」」


村の男たちが小屋の残骸を持ち上げると鬼人の少女ギンナが素早く隙間に飛び込んだ。力尽(ちからづ)くで住人と見える男女を引き出した…まだ息はある様子だ。


慌てた様子のハンスさんが駆け寄り村人に指示を出した。戸板に怪我人の二人を乗せて運んでゆく。


「助かりました。ご助力に感謝いたします」

「いぃって事よぉ」


ひとまず住人が救助されて瓦礫を片付ける者と解散する者に分かれた。僕は雪に埋まった小屋の惨状を見て一計を案じた。


「ひと固めに…【形成】【加圧】【硬化】」

「…!」


まず除雪の準備として足元の雪を固めてブロックを作る。


「これを基準にして…【複製】【複製】【複製】♪【複製】【複製】【複製】」

「ハッ…」


複製は僕の独自魔法だ原料があれば魔力があり限り同じ加工の工程を再現する。この雪ブロックの原料は雪だけなので比較的に容易だ。


「さらにまとめて…【複製】【複製】【複製】♪【複製】【複製】【複製】!」

「…何だとぉ!」


僕が調子に乗って作成したレンガ状の雪ブロックは二千個余りある。崩落した雪は全て雪ブロックとした。


「ふぅ~、手が空いた人は手伝って下さい」

「お、おう」


茫然と雪ブロックを眺めていた村人を動員して雪ブロックを積み上げ崩壊した小屋の北側に積み上げた。風避けにはなるだろう。ズーラン親方は残りの支柱や瓦礫を片付けて家財道具を掘り出した。あとは村人たちで何とか出来るだろう。


僕らは氷の魔石を収集して帰還した。雪兎の肉をカエツ村の村長の娘に託すのは言うまでもない事だろう。





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