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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep077 獲物の処遇

ep077 獲物の処遇






 僕は白髪の老人が住む山小屋で修行をしていた。まずは平常心が重要との事で座禅をする。隣では僕につき合って鬼人の少女ギンナが姿勢を正して座っている。こうして見ると銀色の甲冑を付けた女騎士の様だ。


「カーツ!」

「うっ」


元神父の白髪の老人が警策で僕の肩を打つと乾いた打撃音が響いた。余計な事を考えていたのがバレた様子だ。肩にじんわりと痛みが広がる。


しばらく無音にして精神統一した後に実践となった。


「大きく息を吸って…鼻からゆっくりと出すのじゃ…そうそう」

「すうー…ふうー…」

「すぅぅーふぅぅー」


僕は老人の指導のもと呼吸を整えて集中力を高める。


「体は魔力を入れる樽の様な物じゃ、樽に果実酒を注ぐように魔力を充填させる」

「むむっ」

「むぅ…」


魔力のイメージは人それぞれらしいが、僕のイメージは糸巻に魔力の紐をぐるぐる巻く感じだ。体に魔力の糸を巻き付けていく。


「そうして酒樽にフタをして閉じ込めると…果実酒が醗酵して膨らむが…まだフタを開けてはならぬ」

「ぐぬう…」

「ぐぅぅ…」


僕は暴れる魔力の糸巻を抑えて固く巻き付けて縛る。ギンナがイメージする魔力の入れ物とは何だろうか。


「そうして、指先に少しだけ隙間を空けてやるのじゃ」

「うっぷす」

「うぅん…」


体に巻き付いた魔力の糸を手先に送り先端を伸ばした。こんなイメージでも大丈夫か?


「ほっほっほ、良かろう…今日はこれまでじゃ」

「は、はぁ、はぁ…」

「ふぅぅ~ですぅ~」


実践はかなりの体力と集中力を使う。僕らは肩で息を継ぎながら老人の話を聞いた。魔力を体に蓄える事や放出を抑える事、また魔力の一部を取り出す事は魔力操作の基本らしい。普段は垂れ流しにしている魔力を抑えて消すことが出来れば、野生動物や魔物に見つからないと言う。


僕らは初修行を終えて町に帰った。




◆◇◇◆◇




 アルノルドの町にある水の分神殿ではその後、二回目の密偵と思われる人間を捕えた。三度目は警備する僧兵の失態もあり賊を取り逃がしている。水の神官アマリエは神殿に侵入した賊を監禁した部屋を訪れた。そこは素行の悪い巫女や神官の見習いに反省を促す部屋で、外部との接触が断たれる。…独房のようだ。


「いかがですか、話す気になりましたか?」

「くっ、殺せ!」


アマリエが冷たく問いただすのを密偵の女は睨み付けた。


「仕方ありません。水の精霊神に祈りましょう」

「ッ!」


独房には桶が用意されて、密偵の女は頭を下にして拘束された。


「流れを集めて…【集水】」

「ゴボっ…」


アマリエが少しずつ桶に水を注ぐと、頭から水に浸かった密偵の女が水に溺れた。


「あらあら、すぐに死んでしまいますよ」

「ぶくぶく……」


水責めの拷問に耐える密偵の忍耐は称賛に値するが、自身の命を粗末にするのは関心できない。かなりの水を飲んで溺れた事を確認すると、脱力して重く垂れさがった密偵の体を引き上げた。


「…精霊のご加護を【脱水】【治療】」

「ぶはッ、ゲホッゲホ、ゲホ……」


アマリエが呪文を唱えると密偵の女は水を吐いて息を吹き返した。隣に控えた僧兵に尋ねる。


「男の方は、いかがですか?」

「ハッ、真実を吐きました」


密偵の女が苦悶し水を吐いても、命に別状が無いことを確認するとアマリエは立ち上がった。


「そうですか……先にそちらへ伺いましょう」

「…」


僧兵に案内されてアマリエは別の独房へ向かった。


後には茫然とした密偵の女が残された。




◆◇◇◆◇




巻物工房の裏手で灰色狼の毛皮を剥ぎながら工房主の男が言う。


「しばらく、ジジイの勝手に付き合ってやるが、長くはねーよ」

「それは? どういう……」


灰色狼は工房主が絞殺した獲物のようで傷が少なく上物として売れるらしい。


「ふん」

「…」


それ以上は語る気は無いらしく緑色の顔をして工房主の男ズーランは押し黙った。緑色の皮膚は何の種族だろうか。しばらく灰色狼の毛皮剥ぎの行程を見学していると魔道具店の小僧チッピィが駆けて来た。


「親方、大変だ。飛竜が出たよ!」

「チッ、面倒なッ」


工房主の男ズーラン親方は手早く灰色狼の毛皮を吊るすと道具を片付けた。


「お前も来い! 仕事だ」

「ッ!」


どうやら飛竜の討伐には人手が足りないらしい。


僕らは飛竜の討伐作戦に参加した。


………


ミナンの町の南側を囲む城壁では、町の住人が総出で防衛を行うらしく手に手に武器や魔道具を持った住人が集まっていた。


-KAN KAN KAN!-


飛竜の襲来を告げる鐘の音が鳴り響くと、僕らは城壁に登り飛竜を迎撃した。飛び道具として弓矢や魔法の爆発が空に上がるが、飛竜は平然として上空を飛んでいる。


ようやく敵として認識したのか、飛竜が僕らの立つ城壁に迫った。風圧に体勢が押される。僕は鋳物の剣Bを構えて待ちつつ魔力を通す。


鋳物の剣Bは改造されて刀身に魔力線を張り付けている。単に魔力を通すだけなら千年霊樹の杖の方が高性能だが木の枝では、飛竜を相手に心許ない。


「切り裂けッ【切断】!」


僕が気合を発して飛竜に切りかかると、鉤づめの付いた足に切り傷を与えた。薪割りで鍛えた技も少しは有効の様だ。


「来るぞ、撃て!」

「はいなー」


ズーラン親方が叫ぶとチッピィは弩弓の矢を放った。一度に放たれた三本の矢は飛竜の羽に煽られて霧散した。飛び道具では牽制にもならない。矢を撃ったチッピィは後方へ下がる…ひたたび弓矢を装填するためだ。


「いやぁー」


鬼人の少女ギンナは怪力を発揮して重石のハンマーを振るうが当らない…背丈とリーチが足りない様子だ。


何度か飛竜の攻撃を防御していると、業を煮やしたか飛竜が城壁に降り立った!ぐらりと床が傾き城壁が崩れる。


「掴まれッ!」

「あわわ!」

「きゃあぁー」


ズーラン親方が緑色の両腕を伸ばし僕らを捕える。しかし崩れ落ちる城壁は僕らを乗せて落下していくのだ。その途中で僕らは空中に投げ出された。ふわりとした浮遊感と刹那に地面に落ちた。


「上だ!」

「痛ッてて…はっ!」

「ぎゃふん…」


僕は運良く助かり体の痛みを堪えて立ち上がった。ズーラン親方の警告にハッとして上空を見ると崩れた城壁から飛び立った飛竜が身を翻すのが見えた。


ズーラン親方は飛竜を睨み迎撃の構えだ。僕はギンナを抱えてズーラン親方の足元……崩れた城壁の瓦礫に飛び込んだ。


「石も土もひと纏めに【形成】」

「きゃッ」


僕は瓦礫と土を集めて避難場所を作成した。まるで石の防空壕の様だ。外ではズーラン親方が飛竜と戦う打撃音がする。


「守りを固めよ【硬化】【変形】【硬化】」

「ぐっすん…」


何度かの打撃音の後にズーラン親方が防空壕に飛び込んで来た。僕は慌てて入口に瓦礫を集めた岩を立てる。


「岩戸を閉じよ【形成】」

「ハッ、ハハっ! はぁ、はぁ…」


ズーラン親方は全身に傷を負いひと仕事を終えた顔で横になる。傷の手当をしようと覗くと見る見るうちに傷口が塞がっていく。…再生能力か?


防空壕は瓦礫を集めた即席とは思えない程に頑丈に出来ている。均質に漆喰を塗り固定された石垣は強固で、飛竜の攻撃にも揺るがない。


僕らは飛竜が諦めるまで防空壕に立て籠もった。




◆◇◇◆◇




彼らは水の神殿の一室に集まって今後の方針を相談していた。水の神官アマリエが話す。


「やはり、密偵はラドルコフ家のご子息を狙っていた様です」

「ケルビン様の実家よね?」

「GUU …」


「もうひとり強情な密偵もいるのですが……私は神官長に相談して貴族との交渉をします」

「そうねぇ」


「二人には引き続きケルビン様の警護をお願いします」

「GUF よかろう」


貴族との交渉は入念に準備して行いたい。折角に神殿の許可を得てマキトの旅に同行しているのだから邪魔はされたくない。交渉材料としてケルビンの身柄はここ水の分神殿に確保しているのだが、迷宮での事故調査は不十分で謀殺の証拠は無い。せめて案内人のハンスが生きていればと思ううが、既に死人に口無しである。


「あとは、ケルビン様が雇った案内人の消息も調査したいですね」

「あたしに任せて!」

「GHA …」


ラドルコフ家の内情を調査するのは勿論の事として、当面の交渉相手としてはアルノルドの太守ゲオルク・シュペルタン侯爵か港町ウエェイの領主になるだろう。


この先の貴族との交渉は長期戦となりそうだ。


彼らは情報収集に向けて動き出した。





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