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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep073 ウエェイの迷宮

ep073 ウエェイの迷宮






 僕らは朝食を取り野営地を撤収して迷宮の探索を再開した。


迷宮の分岐では案内人のハンスが先行して通路を進み進路を決める。分岐が動くため右左の区別は当てにならない。そのため分岐から少し奥へ進み通路の曲がり具合で方向を判断するのだ。分岐の奥からハンスが駆け戻って来た。


「間違ねぇ。この先で左へ曲がる」

「おう」


これまでのハンスの案内は的確で迷宮の奥へと続く経路を進んでいる。その証拠か出現する魔物が多くなる様子だ。


「GUU 何かいるゾ」

「あぅ!」


案内人のハンスが驚いて飛び退くと、そこへ大蛇が現れた。蛇は丸太の様に太くて俊敏に襲い来る。獣人の戦士バオウは大蛇の頭を打撃するが有効打にはならない。山刀を手にしたハンスは…逃げ足は達者な様子だ。


「GUF やるか!」

「唐竹割り…【切断】」


僕は鋳物の剣Bに魔力を通して切りつけた。垂直に振り下ろした剣は堅い皮膚に弾かれるが僅かに傷を付けた。


「弾け飛べ!【水球】」

「吹き荒れよ…【突風】」


後方から水の神官アマリエが援護として水球を投げ付けた。大蛇の固い鱗には無力だが目くらましとなる。続けて、風の魔法使いシシリアが大蛇に突風を浴びせると、途端に大蛇の動きが鈍くなる。


「GHA くらえ!」

「えい!ですぅ」


バオウが動きの鈍い大蛇の頭部に手斧を叩き込む。鬼人の少女ギンナは重石のハンマーを鈍器として大蛇の胴を殴り付ける。どうやら刃物より鈍器の方が効果的らしい。そのまま、バオウの連打で大蛇を倒した。


「やった!お肉ですぅ~」

「食うのか……」

「GUF 勿論!だとも」


ギンナが獲物に喜んでいるのを見てハンスが呆れるが、バオウは当然の様に食うらしい。


「休憩にしましょう」

「そう、ですねぇ……」


シシリアはいつもの事に平然としているがアマリエは困り顔だ。ここで休憩するのも悪くない。僕は解体用のナイフを取り出して大蛇を捌く。戦闘中は堅い胴体だったが今は容易くナイフが刺さる。やはり生体は魔力か筋力で身を守っているらしい。


本来は血抜きして香草か何かで臭みを消したいが、獣人のバオウは血が滴る肉塊の方が好みらしい。ギンナは何でも食べるが注意が必要だろう。


僕は竈の魔道具で火を起こし大蛇の肉塊で、大のステーキと小のステーキを焼く…塩味でも良いだろうか。欠食児童の二人にステーキを提供してから蛇肉の薄切りで蒲焼風に仕立てる。


森の妖精ポポロの実家で貰った醤油をかけると香ばしい匂いが広がる。ゴクリと喉を鳴らしたのは案内人のハンスか。僕は黒パンに蒲焼を挟んで提供した。


「どうぞ、蛇肉のはさみパン! 蒲焼き風の醤油味です」

「おぉ」

「これよ!これッ、さすがマキトくん◇(ハート)」

「頂きます……」


それぞれが迷宮の野戦料理に舌づつみを打つ。


僕らは英気を養ってから出発した。


………


迷宮は暗く入り組んで見通しが悪いのだが、奥へ進むにつれ魔物が多くなる。今は獣人の戦士バオウと案内人のハンスが先頭を進む。


「GUU 臭いが 近いゾ!」

「はッ?」


獣人の戦士バオウが警告するが、前方の暗闇から人影がのっそりと立ち上がった。それは土気色の顔に落ち窪んだ眼窩をして既に生気の無い死体だ。しかし、冒険者の恰好をして動く。生前の武器と見える刃物を振って襲い来るのをバオウは手斧で斬り飛ばした。


「GUF まだ動くかッ」

「下がれ! 彷徨う死体(ゾンビ)だ!」


その冒険者の死体と見える魔物は切り飛ばされた手足に構わず再び立ち上がりバオウに襲いかかる。バオウは俊敏に後退して身を躱した。案内人のハンスは羊皮紙の巻物を取り出して魔力を通し……そのまま巻物を投げつけると、彷徨う死体(ゾンビ)は熱を感じない白い炎に包まれた! 苦悶の様子を見せた彷徨う死体(ゾンビ)は次第に動きが鈍くなり倒れた。


「GHA 倒したのか?」

「ああ、問題ねぇ」


すでに白い炎が消えた本物の死体をハンスは調べる。装備を剥がすと冒険者証を所持していた。…この迷宮で死亡した冒険者だろう。


「この腐り具合を見ると……この先にお宝がある」

「お宝ッ!」


ハンスが言うのに風の魔法使いシシリアが飛びついた。僕は先程の巻物について尋ねた。


「ハンスさん今の巻物は何ですか?」

「聖魔法を発動する巻物だぁ。ちぃと高いんだがッ……止むを得ん」


目顔でハンスが冒険者の死体を示すのを、僕らは悄然と見た。ハンスの説明では彷徨う死体(ゾンビ)を討伐するには五体をバラバラにするか魔法の炎で焼くそうだ。特に白い炎…聖炎は効果的らしい。しかし聖魔法の使い手は殆んど居ないため、こうして聖魔法を発動する巻物を利用すると言う。


僕らは迷宮のお宝に近づいて昂揚する気持ちと、哀れな冒険者の末路を見て複雑な感傷を抱えて迷宮を探索した。


………


奥まった通路の先で水が流れる音がする。この先に流れがあるらしい。


行き当った通路は傾斜して水が流れて足場が悪い。


「しばらくここで待って下せぇ」

「おう」


いつもの調子で案内人のハンスが上流を偵察に行った。僕らは分岐で小休止とする。


「迷宮のお宝が楽しみだわ」

「GUF 腹ごなしには ヨカロウ」


シシリアが上機嫌で言うのに合わせてバオウが軽口を言う…珍しい事もある。肩で息をしてハンスが駆け戻って来た。疲れた様子だがお宝への期待かすぐに出発となった。


水と苔に滑る傾斜を下ると道は水路と通路に分かれて足場を得た。この先はハンスも未知の通路だと言う。


僕らは水路の右岸の足場を進む。


-ZAP!ZABO!ZUUON-


水場から魔物が現れた!蟹が巨大化した魔物らしい、大人の二倍程の横幅で固い甲羅を持つ蟹の魔物だ。以前に見た大蟹よりは小柄だが、こいつらの厄介さは…次々と大蟹が岸に上がってくる!先頭を行く獣人の戦士バオウと案内人のハンスが戦闘態勢をとる。バオウは蟹の隊列が整う前に突進した。今なら岸辺にいるのは三体ほどだ。


バオウが蟹の甲羅を打つと蟹は戦意を見せて巨大な鋏を振り回した。ハンスは山刀を手にしているが腰が引けて見える。


「で、出たぁああああぁ!」

「先陣の風…切り裂け!【突風】」


突然に案内人のハンスが奇声発して逃げ出した。そんなに蟹は苦手なのか。ハンスの抜けた戦列に風の魔法使いシシリアが突風を叩き付けた。本来であれば風刃の魔法のハズが即応した様子だ。蟹は目を隠して突風を避けた。固い甲羅が傷つく様子も無い。僕は前に出て蟹の魔物を千年霊樹の杖で叩いた。


「打ち砕け…【粉砕】」

「ふんぅ!」


確かな手応えに蟹の甲羅が割れる。鬼人の少女ギンナは小柄な体を生かして蟹の下に潜り込んだ。そのまま怪力で蟹を投げ飛ばす。


「GHA ハッ!」

「大気と神気と霊気の軋轢をもて、切り裂け!【風刃】」


裏返った蟹の魔物に風の刃が突き刺さって致命傷となる。獣人の戦士バオウは手斧を下手から振るい戦技を見せた。蟹のアゴ?の当りから体液が飛ぶ。水の神官アマリエは水流を操作して後続の蟹が岸へ上がるのを牽制している。下から水流に突き上げられて蟹の魔物が転倒している。


僕らは裏返った蟹の腹部?を攻撃して戦果を上げた。肩で息をしつつ見回すと残りの蟹は撤退した様子だ。


「GUF 片付いたヨウダ」

「は、はぁはぁ…なんとか撃退しましたね」

「…」


ひとり水流を操作して蟹の魔物の追撃を牽制していた水の神官アマリエは極度の疲労と思うが、水治療の魔法で皆の傷を癒している。僕は水筒から暖かい茶を飲んで体力の回復に努める。これはアルトレイ商会から発売された魔法の瓶の試作品だ。


「GHA ひと休みするか」

「そうね…お腹がすいたわ」

「…ですぅ」


僕は大量の蟹…食材を得て、鍋料理にするか焼き料理にするか考えた。


「ハンスさん、どこまで逃げたのかしら?」

「GUF 腹が減ったら戻るダロ」

「…ッ!」


水の神官アマリエが心配するので、バオウが応じるのを制してシシリアが緊張した。


「何! この音……」

「GUU 掴まれ!」


水路が震えて小波が立つ。迷宮の通路も岩肌を揺らしている…地震か!


突然に水路の水が溢れて岸辺の通路を満たす。


「きゃぁ~」

「ギンナ!」


背丈の低い鬼人の少女ギンナが溺れた。あわてて僕は胸まで水に浸かりギンナを引き上げるが、増水した流れに押し流された。


流れにはゴロゴロと岩の如く氷塊が混じり…僕らは洪水に飲まれた。


……………

………





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